21歳児幼女より。

どんなに逃げても、現実は追いかけてくるよー!そんなの嫌だ。

新宿のど真ん中。数年前まで息の仕方すらわからないし、どっちの足をどっちに出していいかもわからなかった新宿の交差点。区役所前通り、ってどこだよ。こんなところに区役所あるのかよ。ドンキとネオンしかないじゃないか。って思ってた、新宿のど真ん中。人口密度のヤバさは、アスファルトへの圧倒的信頼感を芽生えさせた。当たり前だが、地が抜けたりはしないのだ。

最近、そこではある人が地方から東京へと出てくるまでの約20年間の物語が繰り広げられていて、おじさんが鮭とばをひもQみたいに飛んで転んだりしていた。

私は、これを見なきゃいけなかったんだ。と、思った。これに出合うように、人生の全てが予定調和的に采配されてきたんだと思った。これに出会うための布石がずっと過去にあって、少しずつつながってきた。この物語を遠い未来で、ぼんやりとでも、雰囲気だけでも、思い出すんだろうと思った。あのトタン扉の先のネオンを思い出すんだろうと思った。私があれだけ歩けなかった新宿の景色が別のものに塗り替えられていく。そんな日だった。別にディスではないとあらかじめ前置きをしなくてはならないような言い回しをさせてもらうのだが、人生がでかく変わったとか、これに出会うために生まれてきたんだとか、これで思想がなんらかしら上塗りされたりはなかった。そんなとんでもないものよりも遥かに説得力のあるものを見せられていて、逆に受け止めきれるがゆえの静かさだった。ただ、私がこの先生きていくために絶対にこれを観るように人生が組まれてきたんだ、という感想。大仰な感情のように思えるがそうではない。なんというか、ベタベタと付き合うわけでもないが、信頼と愛情は確実にある人間との、親友1日目、って感じだった。なんとなく、ああこいついてよかったな、って。それだけで私生まれてきてよかったな。って。そう思わせてくれる稀有な存在が一つ増えた。残念ながらこの世の中のほとんどは、そんなこと思わせてくれない。でも、目の前でクレープの一口目に破顔する友人、人生に入り込む映画、たまたま始めちゃって10年続いたスポーツ。新宿のど真ん中の演劇。そんな偶然が少しずつ少しずつ、この世界のことを少しずつ肯定してくれて、そのおかげで私は生きて来れている。

あれがいい演劇か、それとも何か逸れたものなのか、素晴らしいのかとか、私にはわからないけれど。私にとってはおもしろかったし、感情の揺れも心地よかった。なんか、ほぼ事故だった。パンをくわえて遅刻に急いて足をバタつかせた角を曲がって出会う系のあれ、的なものが世の中にあるんだとしたら、私は 21歳の曲がり角でこれにぶつかった。しゃべってみたらいいヤツだった。みたいな。そんな演劇にぶつかった。かすり傷すらなかったが。なんなら鮭とばをとぶ川尻さんの方が多分満身創痍だと思う。

これ、私の友達みんなに見ろって、銃で脅していいんだったらこめかみに突きつけてでもシアタートップスに連れて行った。良いからみて、というよりは、それ見てどう思った?って聞きたかった。悪いコメントが返ってきてもいいし、馬鹿にされてもなんでもよかった。もちろんそれは少し悲しくなるけれど。その人の心に川尻という人間が変な形の石を投げて、広がった謎の波紋を見てみたかったのだ。でも私は心のどっかで、私の友達のあいつとかあいつならこのシーン死ぬほど笑って、後日なんかのタイミングでぶっ込んできたりするんだろうなと思ってその様子を妄想したりした。それくらいには、この演劇の中にある何かしらを誰かとの共通コードとして会話したかった。

現実が迫ってきている。というか、現実を観る勇気がようやく出てきて、手汗をびしょびしょにかきながら叉路に大きく足を広げて立っている。逃げたい、やめたい、この世界から「あがり」たい。ずっとそんなようなことを思っている。だってこんなことを冗長にしゃべっちゃうような人で、いつだって本当はどこにもやる気なんてなくて、人のかおと名前はあまりにも覚えられなくて、歴史人物なんて肖像画に落書きしてやっと顔がわかる程度。実家の雛人形と樋口一葉との差分なんてどこにもねえじゃねえか、とか悪態つきたくなる。そんな残念な21歳で、不出来で、まじでもっとコスパのいい娘でありたかった。それでも私は、目を開けて、この現実に身を捧げていなくてはならない。この人生からは逃げ切れない。生きてくしかない。死ぬほど嫌だが死ぬことはできない。だって、遠い未来で、ぼんやりとでも、雰囲気だけでも、この舞台を思い出せたらいいなって思うから。これから私のことを待つ偶然の全てに期待をもたせてくれる、そんな舞台が、新宿のど真ん中、シアタートップスにありましたとさ。全力でパンをくわえて走るので、全ての曲がり角に潜む運命のなんかしら、私とぶつかってください。映画でも本でも人でもデザイナーでもアニメでも漫画でもドラマでも人でも悪いことでもなんでもいい。全部楽しみにしてます。

その100円で私が何買うかな、って想像するだけで入眠効率良くなると思うのでオススメです。