あかねの(ための)一首評 12


図書館に本を忘れて振り返るそちらは行ってはだめな森です

さはらや(ツイッターより)

 この歌のシチュエーションはレアだと思う。素直に読むなら、借りた本をどこかに置き忘れてきてしまったパターンだ。でも、帰り道の途中でそれに気づくのは意外だ。喫茶店で一息ついてとか、電車のシートで戦利品を検めるとかならわかる。でもこの主体は歩いている途中で気づいた。そんな気がする。

 後ろ髪を引かれたのだろうか。主体ははっと本を忘れたことに気がついた。なにか特別な本だったのかもしれない。ずっと探してた本とか、すごく表紙に惹かれた本だったとか。主体にとってその出会いは特別なものだった。だから忘れたことに途中で気がついた。主体は図書館を振り返る。そのとき主体が感じたのが「そちらは行ってはだめな森です」なのだ。

 図書館を森と呼ぶのは自然な喩えだとおもうけど、「だめな」はちょっと面白い。「です」という結びも含めて、大人が子どもに言い聞かせているような印象がある。寓話的でもある。主体は自分に言い聞かせるように、戻っては行けないよと問いている。

 縁がなかったのだ。一度は手にとったものでも、もはやそれを手放してしまった。図書館は森のように鬱蒼として忘れ物を隠した。探したって見つからないだろう。主体は少しだけおどけるようにしてそれに納得した。

 これもまた読書じゃないか。

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