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長編小説

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2014年8月の記事一覧

長編小説「眠る男」

長編小説「眠る男」

 九階建ての巨大書店は、都内の乗り継ぎ駅にほど近く、客は帰宅前に吸い寄せられるように店へと導かれる。多くの人々は専門書のフロアを除く一階から三階までをあてもなく彷徨い、彼らの抱える漠然とした欲望を埋める一冊を探している。
 夕方五時を過ぎた店内には、レジへの応援を求めるアナウンスが度々入るが、それすらかき消されるほどの人混みに溢れる。文芸のコーナーには、入れ替わり立ち替わり人が訪れ、一冊、また一冊

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