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朝から眠れずひとり十二人の怒れる男

朝4時に目が覚め、そこから3時間経っても全く眠れない。

急にこれから歩むであろう自分の人生が嫌になり、追い込まれたのではないかという考えに苛まれてしまった。

いま同棲している彼女と結婚し、子供が生まれたら彼女の実家の近くのマンションか何か、今のとこより安くて広いけど都心からは離れた、でも人の多さは変わらない千葉のベッドタウンに引っ越し、子育てとローン返済に四苦八苦しているうちに気づけば50歳。なんていう、どこにでもある人生が目に見える。

そんな一見普通の人生こそが素敵なのかもしれないが、海外移住や起業などの大きな夢に思いを馳せると、本当にこれでいいのだろうか、という諦めきれない自分が表出してくる。

そんな時に限って、1年ぶりくらいに開いたFacebookで、「来月から夫婦でヨーロッパに移住します」という日本人の先輩や、「ついにニュージーランドに住み始めたぜ」というフィンランド人の友人の投稿が流れてくる。

学生時代をイギリスで過ごした俺にとって、海外移住は長年の夢だが、日本でしか暮らしたことのない彼女にとって、国外での生活は必要に迫られない限り人生の選択肢にはなり得ない。

つまり、俺が海外駐在員になるか、海外で職を得ない限りは、彼女を説得するのは困難なのである。ふらっとフランクに海外に行って、気づいたら永住してた、くらいの自由な生き方はもうできない。

そんな甘えたノリでは海外に住めても、楽しい生活が送れるわけではないのは分かっているが、とやかく言わずに挑戦してみることすらできない人生になってしまったのだ。

もうお互いの両親も紹介しているし、いまさら結婚しませんなんて言えない雰囲気に流されるがまま、俺の人生はスタバのキャラメルフラペチーノくらい普通の、割と誰でも手に入れられるものになっていく。

そんなこんなを考えながらTwitterを見ていると、「二日酔いでラーメン食いに行ったら天皇に手振ってもらえた嬉しい」みたいなゆるい幸せな記事に出会った。書いたのは俺の故郷、北海道在住の道産子。

さっきとは一転、こういう人生もいいなぁという感情が芽生えてくる。意識高く、無理して海外に行く必要なんてないのではないか、と。

村上春樹は、小さいけど確かな幸せのことを「少確幸」と名付けた。天皇に手を振ってもらったことが小確幸というと怒られそうだが、日常の中の非日常という意味では、本質的には同じものだと思う。

結果、とりあえず今の仕事を頑張って、時折り小確幸を感じながら、海外に行くチャンスが出てきたら彼女に相談してみよう。という事であっさり着地し、気持ちも落ち着いた。

朝から一人で『十二人の怒れる男』ばりの逆転裁判を繰り広げるくらいには、俺もアラサークライシスに悩まされているらしい。

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