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「この部屋から東京タワーは永遠に見えない」by 麻布競馬場

作者の本が、今年の第171回直木賞の候補作になったが、ちょっとふざけたペンネームだなあと思っていた。先日、鈴木保奈美MCのテレビ番組が東京タワーに関する小説を特集していた時に麻布競馬場さんが出演していて、この本についてご自身がコメントしていたので、今回文庫本を買って読んでみた。

この本は短編集で、1つ1つの小説はツイッターに140字づつ投稿したものから出来上がっている。全ての小説は、地方から東京に出てきて、いろいろ無理をして東京での生活に馴染もうとするが、結局うまくいかないという30歳前後の若者が主人公となっている。

そういう意味で、ちょっとうら悲しい気持ちになるが、自分も少しその気持ちがわかる気がする。自分の場合は、東京(含む横浜)での大学生活を諦めた経験がある。自分は、大阪在住だったが、私立大学は早稲田政経と慶応経済だけを受験し、早稲田政経は不合格、慶応経済は合格した。

早稲田政経、慶応経済の合格発表は3月初旬の国立大学一期校(古い時代)の試験の後にあって、日吉での下宿探しが完全に出遅れたため、リーゾナブルな値段で良い部屋は全く残っておらず、確かわが家の予算で借りられて残っている部屋は、窓のない3畳一間の下宿先だったと記憶している。

そのため、慶応大学に進学しても「地方から出てきた貧乏でみじめな学生生活」が待っているのは間違いないと判断し、慶応進学をあきらめ、地元の国立大学に進学したため、この小説の主人公たちのように東京での挑戦を行わない選択をしたが、東京での生活の厳しさはなんとなく感じていた。

それとこの本の特徴は、大学名やブランド名等の固有名詞を多用するところにあり、鈴木保奈美さんが「田中康夫氏のなんとなくクリスタルを思い出した」と言っていた。

そういう中で、固有名詞を使っていない箇所もあって、その違いはなんだろかと思った。例えば「大阪から」という短編に、「十三の公立高校から豊中の国立大学へ、そして人材系の会社の大阪支社へ。」というのがあるが、それは「十三にある北野高校から豊中の大阪大学へ、そしてリクルートの大阪支社へ。」と固有名詞にもできるのに?

評価としては、いろいろ考えさせられたので、5/5にしておきます。


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