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LSDの医療的用途

LSD(英:Lysergic acid diethylamide:リゼルグ酸ジエチルアミド))
1.LSDとは
 この成分は幻覚作用を引き起こす成分であり、チェコ共和国やエクアドルなどの一部の国を除いたほとんどの国で違法とされている。同様の効果を持つシロシビンは天然由来の成分であるのに対して、LSDは人工的に合成させてできる化合物である。
 LSDは1938年にスイスのバーゼルにあるSandoz製薬会社でAlbert Hofmann博士によって初めて開発された人工化合物である。そしてその効果が判明してから治療目的の可能性が認知されてきた。またLSDはセロトニン神経伝達物質系の発見に関わる大きな役割を果たした。LSDは精神的な神秘体験を人々にさせることで知られており、その創造性や精神状態改善のための使用、個人の精神面での成長への用途に加え、生命を脅やかす病気からくる不安の治療にも使えるのではないかと注目されてきた。LSDを用いた人に対する精神治療はたくさんの前例があり、1950年代から1970年代にかけて精神学者や治療者、研究者達は、アルコール依存の人々や進行癌によるうつ病の人々に治療を目的として数千人にLSDを用いた。
2.効果
100μg以上の経口投与では以下のような作用がある。
効果
•精神的な知覚を鮮明に変化させる
•物事への理解を幻想的に変化させる
•知覚感覚を増加させる
•共感覚(神経系の働きによってある刺激が別の刺激を引き起こすこと。ある数字、文字、音が特定の色や味の感覚を呼び覚ましたり、曜日や日付が特定の性格を持つように感じられたりする)を引き起こす
•想像力を高める
•感受性が高まる
•より広い視野で物事に対する考えを持つようになり、多くの場合、新しい物事の関連に気付いたり、新しい解釈を体験する
•記憶力の増進
•自己認識が弱まる
•意識の状態は白昼夢のようであると比べられるが、感受性が鋭敏になり精神的な刺激を受けやすくなる
効果は6〜9時間ほど続き、精神療養の工程をサポートしたり強化したりするのに用いることができる。
副作用
•吐き気
•めまい
•腹部不快感
•発汗
•注意力低下
•頻脈
•痙攣
3.作用機序
 LSDの脳機能における効果は複雑で完全には把握されていないが、多様な神経伝達系に作用することは分かっている。精神的知覚変化の効果は5-HT2C受容体と5-HT1A受容体、5-HT2A受容体によって主に引き起こされる。シロシビンにおいての神経画像検査研究は行われたが、LSDにおいては行われていない。
4.LSDの研究と医療用途への可能性⁸
 幻覚剤の精神療法の発展は1950年代から二つの手段で始まった。一つはpsycholytic法で、これは少ない投与量でセッション(投薬の効果が出ている間にカウンセリングをする)を多く行うことで精神療法の効果を得るものである。二つ目はpsychedelic法で、この方法は高い投与量で少ない回数だけセッションを行うことで神秘的な体験や強力な精神浄化の時間を増やしていくものである。これらの手法は、患者に難しい感情や状況に向き合わせ、整理させることで不安やうつ状態を改善していくことを目的としている。 1963年にpsycholytic法を用いて行われたLSDの治験の結果では、100人以上の進行癌患者の不安やうつ症状、痛みを緩和したことが分かり、LSDの医療適用は、安全性が認められた治療法として確実に定着していくだろうと思われた。psychedelic法はほとんど末期癌患者において用いられる手法であった。どちらの方法の場合でも、これらの研究は倫理的な問題からプラセボ対象試験を策定するのは難しく、投与された被験者に明らかな精神活性作用が起こることから完全に盲目試験とするのも難しい研究であった。
 LSDが医療的用途でない方法で流行ってしまったため、1966年にアメリカでLSDが違法薬物となり、LSDを用いた精神療法は急速に衰退した。しかし、1970年代の間はチェコスロバキアやオランダ、ドイツ、1988〜1993年ではスイスで研究が続けられた。痛みの管理や緩和ケアなどといった終末期の問題は、今日ますます公衆の健康への関心として認知されており、生命を脅かす病気を持つ患者はしばしば、感情的な和らぎという点で、現在の利用可能な治療法からでは満足した結果が得られないことが多い。不安やうつ病、慢性痛または人間関係の問題などは個人にとって深刻な問題になり得ることから、現在のLSD研究は、従来の精神治療を強化していくものとして注目されている。
5.実験:MAPsによって行われた、2008年から2012年に渡るある一定の環境(以下、実験中のセッティングの欄に示す)を満たす条件で行われた実験
参加者:以下の表のとおり、39歳から64歳までの、転移がんやパーキンソン病など、命にかかわる病気の罹患者で、不安症状など、何らかの精神症状のある患者が対象となった。


セット
この研究で使われた精神治療法は数ヶ月続く、継続的な工程であった。参加者の経歴、社会的な状況、性格、健康状態、考え方、そして感情的な状況を把握するための精神治療のセッションが、実験前に2回行われた。これらのセッションはまた、LSDの働きやセッティングの体制、質問への応答、治療上の協力を高めるためにも行われた。
実験中のセッティング
 実験的なセッションが行われた場所は、安全で静かな物理的環境であり、心地の良い個室である。参加者は床のマットレスの上で横たわるか、椅子にリラックスして座るように言われた。トイレに行く時以外は、参加者は8時間の実験のセッションを行った後、一晩を治療室で付添人の側で過ごした。
実験用の薬
 LSDは遊離塩基としてLipomed社(スイス、アルレスハイム)によって供給され、LSDを200μg含むカプセル(実験用用量)と20μg含むカプセル(アクティブプラセボ)がBichsel研究所(スイス、インターラーケン)によって用意された。品質管理やランダム化、盲検化はR.Brenneisen博士(スイス、Bern大学臨床研究課)によって指揮された。カプセルはどれもサイズや色、形は同じで順番に番号を付された容器に詰められた。
実験上の医療介入
 丸二日かけて行われる実験的なセッションは2〜3週間空けて合計2回行われ、男性か女性の共同セラピストチームが担当する。これはLSDの医療的な効果を適切にはかるために、参加者たちがこれまで受けていた薬を用いない精神治療セッションが行われている中に組み込まれた。参加者たちは無作為に200μgの投与量(実験用用量)のグループ(8人)と20μg投与量(アクティブプラセボ)のグループ(4人)に分けられた。実験用用量は、普段の自我を完全に失う量でないと同時に典型的なLSD体験を可能にする量である。20μgのLSDはアクティブプラセボとして用いられ、これは短時間だけ作用し、軽度にLSDを感じ取れる量で、治療を促進することがないであろう量である。また参加者たちは実験日の朝、尿テストによって他の薬物(コカイン、アンフェタミン、メタンフェタミン、テトラヒドロカンナビノール、モルヒネ)を使っていないかテストされ、結果は全て陰性であった。参加者たちは実験セッション中、考え方や感情、認知のプロセスを辿れるよう内側の意識に集中するように指示された。より自己の内側の意識や感情に集中できるよう音楽を流したり簡単な会話も導入された。LSD投与を受けながらの実験セッションが終わった一週間後、薬物を用いない精神治療セッションが60〜90分続き、どの参加者の体験がより深く、統合されている治療プロセスであったか見直された2回目の実験セッションが終わった2ヶ月後、すべての評価は終わり個人がどの実験グループに属していたのかを知らされた。
結果

LSD群とプラセボ群の状態不安と特性不安のスコアこれらは初めの治療セッションの前(baseline)と、初回のLSDを使用した実験セッションの1週間後(post 1 LSD)、2回目の実験セッションの1週間後(post 2 LSD)と2ヶ月後、そして12ヶ月後に測定された。2ヶ月目の時点でプラセボ群と比べてLSD群は、状態不安のスコアが著しく下がり治療としては良い結果となった。Crossoverグループ(投与の順番を入れ替えたグループ)においても前向きな結果が得られた。
LSD群では、12ヶ月目の状態不安と特性不安のスコアは、どちらも2ヶ月目と比べて安定していた。
6.安全性

実験的な用量200μgとアクティブプラセボ20μgのどちらも、パニック発作や自殺につながりうる不安定な精神状態、精神異常、入院を要する緊急治療や緊急精神治療といった不都合で深刻な問題は起こらなかった。
以下が参考文献
​https://maps.org/research-archive/lsd/Gasser-2014-JMND-4March14.pdf

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