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あれ?論文結果に基づいた食情報のはずがその実態は…

今年になって話題に挙がることが多くなった機能性表示食品。制度の課題を伝える情報も多いように思います。以前はこのnoteで「そもそも機能性表示食品ってなに?」ということを紹介しました。

機能性を表示するには、論文化された研究結果を根拠にしないといけません。それであれば信頼度は高そうなんですが…。それがそうでもないようだ、ということが、今年発表された研究結果(文献1)から言えそうです。この研究は、機能性表示食品の広告の内容に問題があることを示した研究です。今年機能性表示食品で健康被害が生じた報道がなされたより前に公開されていました。どんな研究なのか、紹介します。



●臨床試験の論文を集めて研究

今回紹介する研究は、機能性食品の臨床試験の質や、その結果が消費者にどのように伝えられているのか、といったことを、論文を集めて分析した研究になります。人や動物を対象に研究したのではなくて、食品の機能性を確認した臨床試験の論文を対象に分析した研究なんです。こういった、疫学研究の論文を集めて分析した研究も疫学研究の一種なんですよ。

著者たちのプレスリリースはこちらで
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2024-03-01-0

 元論文はこちらです。
https://www.jclinepi.com/article/S0895-4356(24)00057-X/fulltext


●機能性表示食品のための研究体制

今回著者らは、臨床試験の開発業務受託会社CRO)が実施した食品の臨床試験に注目し、その試験の質や、結果の伝えられ方を評価しています。機能性表示食品の制度が開始してから、食品の機能性を確認するための臨床試験は数多く行われていますが、その臨床試験は、機能性食品を製造・販売する会社が直接行うのではなく、CROが請け負うことも多いです。CROが実施した食品の臨床試験ということであれば、最終的に機能性表示食品になっている場合も多くあると考えられます。

●臨床試験開始前に必須の作業とは?

ところで研究の紹介をする前に、臨床試験を行うときのルールを説明しておきますね。臨床試験を行うときには、試験開始前に「臨床試験登録システム」というシステムに、試験の内容を登録しておかなくてはなりません(文献2)。これは、食品の臨床試験だけでなく、薬や治療法など他の臨床試験でもされているんですよ。そして、登録内容は誰でも見ることができるように公開されています

登録しなければならない項目はたくさんあります。例えば、試験の名称、試験の責任者、関わる研究者全員の名前、研究の対象者はどういう人で、何人いて、どんなものを「介入群」の人たちは食べるのか、その期間は何日間で、最終的にどんな健康状態に変化があることを確認する予定なのか…という具合です。

なぜこういった登録がされるのか、というと、試験の結果の透明性を確保するためなんです。たとえば、試験の途中で結果が徐々に見えてきた段階で「欲しい結果が出にくそうだな、予定より長めに研究すれば結果が出るかもれない…」と研究者が感じたとします。そして実際に、途中で、予定より長めに試験を実施することに計画を変更してしまったとします。こういった行為は、研究結果を意図的に操作したりゆがめたりすることにつながるため、本来はだめなんですよね。もしこんなふうに試験のデザインを変更すれば、通常はこうやって試験の開始前に「計画」を公開しているため、他の人に分かってしまいます。事前の試験内容登録と公開は、こういった恣意的な計画変更が簡単にはできないように監視する目的があります。

●登録システムUMIN

そういうわけで、臨床試験が実施されるときには、事前に臨床試験登録システムに試験の内容が登録されているはずなんです。日本国内で認められている臨床試験登録システムはいくつかありますが、大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)により運営されているUMIN臨床試験登録システムはそのうちのひとつです。機能性表示食品の機能性の根拠となる臨床試験を行う場合の登録先としても認められています。運営されているウェブサイトは図1のようなサイトで、登録されている試験情報は誰でも閲覧することが可能です。

図1. UMIN臨床試験登録システムのウェブサイトのトップページ

図1の赤枠で囲んでいる部分をクリックして、検索画面に進むことができますよ。

●食品に関連した試験の数は?

さて、研究の内容説明に戻りますね。今回著者らは、日本の大手CRO5社によってUMINシステム上に登録された臨床試験726件のうちの100件をランダムに抽出し、その中から食品に関連したものを選びました。100件のうち、食品に関連したものは76件でした。さらにそのうち32件が論文化されていました。また、臨床試験の結果を広報したプレスリリースが3件、結果を活用して販売された食品の広告が8件というふうに、11件が研究結果を一般向けに伝える食情報として公表されていました。

●測定項目が増えた!

公表されていた論文32件では、元々UMINシステム上に登録されていた「食品の効果として測定する予定の項目(主要評価項目)」の数が、実際に論文になったときには2倍になっていました。これは、研究実施中に、効果が出ると考えて測定することにしていた項目では結果が得られず、途中で予定を変更して、測定項目を追加した可能性が考えられます。十分にメカニズムが説明できないような項目も測定してみて、偶然に結果が得られたということもあるかもしれません。

●結果の一部を有利に伝えていた!

また、食情報として公表されていた11件の多くが、実際の研究結果と、それを解釈して食情報となった内容の間に「不一致」があったそうです。不一致の内容というのは、たとえば、結果の不利な点を伝えないまま有利な点だけを強調して伝えることなどが含まれます。

たとえば、ある食品を食べた結果、体重、体脂肪率、腹囲、内臓脂肪を測定したとします。このうち体脂肪率が増え、体重や体脂肪率は変化していないにも関わらず、腹囲が減ったという結果が得られたとします。その場合、腹囲が減った説明を論理的にはできませんから、腹囲が減ったのは偶然かもしれません。研究の場合、たくさんの項目を測定すると、そのうちひとつの項目で偶然に結果がよい得られることはよくあります。そういった事実を正確に伝えずに「研究の結果からこの食品は腹囲を減らす機能が認められました」とだけ伝えるのは、実際の研究結果とは不一致ということになります。こういった不一致が11件中8件あったということです。

●まとめ

今回の研究では、機能性表示の根拠となっている研究は質として心配な点が多く、食情報として伝えるときにも課題がありそうだということが示されています。今後、機能性表示食品の臨床試験を実施する場合には、臨床登録システムに、測定項目を登録するだけでなく、測定する方法や時期など、より詳細に記載する必要があるかもしれないと著者たちは伝えています。研究者や試験依頼元企業の意図が入らない、客観的な方法で試験が行われるような仕組みづくりが求められているように感じます。

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【参考文献】
1. Someko H, et al. J Clin Epidemiol 2024; 169: 111302.
2. 西内啓ら. 臨床薬理 2009; 40: 111-7.


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