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『現代短歌の鑑賞101』を読む 第三回 木俣修

木俣修は、私にとっては、しばしば名前が出てきて戦争との関連で語られるものの、よく知らない歌人である。

詞華集に挙げられた短歌を見るに、細部への着目で、焦点をしぼるような特徴がある。物の見方に木俣の思い入れがあって、それが読み応えとなる。

幼子は鮭のはらごのひと粒をまなこつむりて呑みくだしたり

『冬暦』

小さな子がイクラを、思い切って食べるのであるが、飲み下してしまった。その短い時間を五七五七七を十分に使って詠み切った。

その特徴は晩年の歌集においても失われなかったというか、老いを見つめてなおうまく働いたようである。

ねんとして外す入歯はのものかたましひ持たぬしろがねひかる

『雪前雪後』

寝ようとして外す入れ歯が、怪しいなにか、言わば化け物のようにも見える。魂などない銀色が光っているが、人間の魂は持たなくともなにか恐ろしいものに思われる。
前半は大げさなようであるが、後半では実際には魂を持たない銀が光っていると言い切った。そのことがかえって怪しさの説得力を増す。

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