アホヅラで溢れかえったせかい
あっかんべーをするとお金がでてきます。
ひどい顔をすればするほど、気がついたらお金を握っていたり、ポケットから紙幣がでてきたりする。
だから私の世界はアホヅラで溢れかえっています。
恥ずかしがらない人たちは、歩いててすぐ変顔をする。
最初の方はそりゃギョッとした。だって電車で私座ってて目の前に立つ人が急にベロだして顔歪ませてるから、新手のセクハラかと思った。
そしたら500円右手に握ってて、ニヤニヤしてる。あなたの変顔は500円なんだね。おめでと。
なんでかはよく分からない。学者も必死に調べてるらしいけど、誰も分かんない。
たしかに私はお金がない。学生だもの。
でも人前で変な顔をするのはちょっとなんでも恥ずかしい。だからトイレでこっそり変な顔を試す。
でもどう頑張っても私は200円くらいしか手に入れられなくて、しかも袖とか変なとこから出てきたりするもんだから一回トイレの中にぼちゃんと落とした。あれ悲しかったな。
全世界でもいろんな人がアホヅラちゃれんじをしている。今のところ一番大金を手に入れたのは、ハンブルクに住む二十歳の男の子で、アホヅラ1回で1万円が髪の毛に紛れてたそう。すごい!
でもその一回で顎が外れかかって治療費で3000円くらい飛んだから実質7000円だったらしい。それでもすごい。
(あ、ちなみにお金を手に入れられるようになるのは20歳になってからです。なんでかは分かんないけど、私の考察は、子供って表情が豊かだからだと思う。だからきっと大人よりも簡単に大金手に入れられてしまう。だからだめなんじゃないかな)
でも1日にいつでもお金を手にできるわけじゃない。
3回限定なのだ。だからみんな必死に、どうすればよりヒドイ顔ができるのか研究してる。
ーーこの不思議な現象が発見されてから1ヶ月くらい経った。
街中からホームレスが消えた。
ちょっとずつでもみんなこつこつと変顔で小銭を貯めて貯めて、じぶんの暮らしを見つけ出そうとしていた。
アホヅラのプロ達の中には仕事を辞める者もでてきた。まだ少数だけど。
ーー5年が経った。
私は学生じゃなくなった。トイレじゃない場所でもたまに変顔しちゃうようになった。でも人目に触れるとこはまだ恥ずかしいから、試着室とかで。
あんまり上達はしてなくていちばん頑張っても500円くらいしかもらえない。
最強のアホヅラで一生を遊びゆく。
っていう本がバカ売れした。最強のアホヅラができる人が誰もから羨ましがられ、妬まれた。それでもその人の日々のカーストはあんまり変わらなかった。そういう虚しい思いが切々と語られたのがバカ売れの原因らしい。むかつく。
ーー100年が経った。
少しではあるけど人類の顔つきが少し変わった。より伸び縮みしやすい顔に。
私はもう死んだ。お金の価値、生きる価値について無駄に考えすぎたように思う。息子は孫に対して、どれだけ将来へんな顔ができるか、その訓練ばかりさせていて、好きに遊ばせてやりなよと思ってイライラしてばかりだった。
振り返ってみれば。
アホヅラが溢れかえる、それは、阿保っぽくて、ちょっと愉快で、生活楽しくなるねって思ってた。最初は。
でもだんだんとへんな顔してる自分が虚しくなってきて、何してんだろ。って思うようになった。
だって誰よりもへんな顔ができるより、誰かの役に立って感謝されてお金もらえる方が嬉しい。それに気付くのが早かったから、私はまともに人生送れたように思う。
でもそれに気づかない人たちと、アホヅラによって歪んでいく世界を見ているのは少しかなしいことだった。でもそのアホヅラのせいで、ただ歩いてるだけなのに知らない人と笑い合えたりしたから、悪いことだけじゃなかったな。やっぱりちょっと愉快な世界だった。
これから。
だんだんとアホヅラの概念が曖昧になっていって、このままこの現象は無くなるのだろう。
アホヅラが溢れる世界も嫌いじゃないけど、やっぱりフシギな顔は恥ずかしいという概念はこの世に残っていてほしいので、金銭に関わらず変顔対決できた時代に戻ればいいなと私は思います。
そして動物たちだけが今日も静かに素直に生きている。
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本当はじっくり書きたかったけどバーーーっと一気に書き上げたのでこんなもんか、と自分でちょっとがっかりしている。
うまさは求めなくてももうちょいなんか変な世界を変に書けるようにはなりたいなあ。研究。
アイスを買います