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写真集って、いいよね。

 乃木坂46の夏曲のひとつ『裸足でSummer』は「いつもの夏と違うんだ」という歌詞で始まる。彼女たちは毎夏「真夏の全国ツアー」を開催し、多くのファンを楽しませてくれている。今年も例に漏れず、今頃全国各地のライブ会場を湧かしている、はずだった。

 2020年8月現在、世界は未曽有の事態に見舞われており、今年は「いつもと違う夏」が訪れている。スポーツやアーティストのライブを含む多くのエンターテイメントが煽りを受ける中で、もう一つ、物足りなさを感じることがある。

 それが写真集である。「1万部で大ヒット」云々という言葉は影を潜め、写真集ブームの火付け役である乃木坂46が沈黙を続けていることに一抹の寂しさを感じている。しかし、ただの旅行でさえリスクと隣り合わせの状況が続いているのだから仕方がないことだろう。

 …と、今月分のテーマを捻り出し、この下書きを書き始めたのは2020年の8月4日、午前3時過ぎ。「プレミアMelodiX」にて披露された『I see...』を鑑賞した後、Twitterを開くと こんなニュースが舞い込んできた。

 いや写真集出るやん。めっちゃめでたいやん。

 何はともあれ、自粛期間中に乃木坂46の写真集を読み返し、その素晴らしさを文字として残したくなったので、今回は「個人的」おすすめ5作品を取り上げたいと思う。全ての写真集に目を通したわけではないため、自分の手が行き届く範囲内での紹介になること。今回フォトブックは対象外とすることを予め断っておきたい。それから いくら取り繕っても、アイドル写真集を語る以上キモくなってしまうことも理解してほしい。


⊿ 生田絵梨花 『転調』

メンバー :生田絵梨花 1st写真集
タイトル :『転調』
撮影地  :ドイツ(デュッセルドルフ・ケルン・ローテンブルク)
撮影   :細居幸次郎
発売日  :2016年1月21日

 グループとしては、初のドキュメンタリー映画公開や紅白歌合戦初出場を果たした2015年。生田個人としては、大学へ進学するという転機を迎えたタイミングで撮影されたのが、この『転調』である。「ドイツのデュッセルドルフ出身です。」という彼女のバラエティにおける掴みにも使われる故郷が、今回撮影地として選ばれた。

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2016.1.21 公式ブログ「転調~don ♪ 397」

 写真集ならではのドレッシーな姿が収められている一方で、「私と一緒に里帰りする気持ちで…」という彼女の言葉に表されるように、移動の車中を切り取った写真や、ホテルで眠そうに横になるカット。ニット帽にパーカーといったカジュアルな格好で街を楽しむ様子から、旅行を共にしているかのような気分を味わうことができる。

 そしてこの写真集の魅力として特筆すべきは、なんといっても生田の笑顔が散りばめられている点にある。優しく微笑む表情から、無邪気に笑う姿。涙を滲ませているカットがあるかと思えば、それも笑いすぎた故の涙だったという。彼女には笑顔が似合う。そう再確認させてくれる写真たちが盛りだくさんなのだ。

 巻末では空港に降り立った日から撮影が終わるまでを、生田が日記形式で綴っている。後に発売されることとなる生田絵梨花2nd写真集のタイトルは『インターミッション』。そこを幕間と捉えるのなら、この『転調』は序幕に当たる。現在も舞台で輝き続けている生田だが、どこか初々しさが残る過去を振り返ってみると、新たな魅力に気づけるかもしれない。


⊿ 井上小百合 『存在』

メンバー :井上小百合 1st写真集
タイトル :『存在』
撮影地  :スイス(チューリッヒ・ローザンヌ・ジュネーブ他)
撮影   :前康輔
発売日  :2018年12月12日
Twitter :@sayunyan_nogizaka
インスタ :@1st71845914

 『存在』は井上の感謝の思いが詰まった一冊。彼女は2018年3月に放送された『乃木坂工事中』で、「7年目の目標はスイスで写真集を撮りたい」ということを語っている。その回では仮タイトルを『小さな百合の花』と題し、伊藤万理華撮影のオリジナル写真集を紹介していた。そして、放送から約9ヶ月後。『小さな百合の花』は『存在』に名を変え、日の目を見ることとなる。

 『存在』では井上のナチュラルな佇いが鮮明に刻みこまれている。それは街並みにフィットした服装や、すっぴんカットだけでなく、雄大な地でリラックスしている彼女の表情からも感じ取ることができる。スイスの長閑な景観と、井上が纏う穏やかな空気が絶妙にマッチしているのだ。この写真集を手に、いつの日かスイスに行ってみたいと思ったファンも多いだろう。それだけの誘引を持つ一冊なのである。

 動物と触れ合ったり、子どもと追いかけっこをしたり、帽子屋の店員から結婚式の参列者まで、様々な存在と交流を図っていることも印象的だ。また、随所に "おふざけ感" が散りばめられているのも彼女らしく、その写真たちからは声が聞こえてくるかのような楽し気な様子が伝わってくる。

 巻末インタビューでは乃木坂46に加入するまでの人生をメインに語りつつ、オーディションでの思い出や、加入後の奮闘する日々とその時の心情が綴られている。今現在は事務所を移籍し本格的な女優の道を歩み始めている井上だが、アイドル井上小百合として、そして一人の少女の旅行記としても楽しめる一冊となっている。

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⊿ 桜井玲香 『視線』

メンバー :桜井玲香 2nd写真集
タイトル :『視線』
撮影地  :アメリカ(ポートランド)
撮影   :三瓶康友
発売日  :2019年11月27日
Twitter :@sakuraireika2nd
インスタ :@sakuraireika_portland

 乃木坂46初代キャプテンである桜井玲香の2nd写真集は、彼女が卒業した10日後に撮影された。向かったのは「アメリカ一暮らしやすい都市」の称号を得たこともあるポートランド。1st写真集『自由ということ』では、東南アジアの雰囲気にピッタリの装いや、どこかあどけない表情の桜井がいた。それから2年半後に発売されたこの写真集では、また違った顔を見せてくれている。

 冒頭では桜井の後ろ姿や横顔から始まり、彼女の表情を読み取ることができない。しかし、次第に彼女の視線はこちらを突き刺し、見る者を魅了していく。「大人セクシー」がこの作品のテーマになっているが、それは衣装だけでなく、メイクや目の運び。そして、桜井が醸し出すムードからも受け取ることができる。

 現役時代は「ポンコツキャプテン」という愛とほんの少しのディスが含まれた愛称で親しまれていた桜井。だが、彼女がステージ上で魅せるスキルに疑いの目を向ける者はおらず、多くの人から尊敬の眼差しを集めていた。そういった対照的な二つの顔は この写真集でも感じることができる。彼女が口を開けて笑う様子はとても可愛らしく、時折見せるアンニュイな表情はとても艶っぽい。

 1st写真集では、自身の生い立ちを語った巻末のインタビュー。今回は彼女がアイドルとして最後に立った神宮球場での思い出や、次期キャプテン秋元真夏への思いなど、グループとして過ごしてきた8年間を振り返った。乃木坂46卒業から女優へ転身するタイミングで撮影されたからこそ、趣がある作品となっている。

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⊿ 堀未央奈 『君らしさ』

メンバー :堀未央奈 1st写真集
タイトル :『君らしさ』
撮影地  :アメリカ(ラスベガス)
撮影   :三宮幹史
発売日  :2017年11月24日
Twitter :@miona_book

 白石麻衣の『パスポート』をはじめ、乃木坂46から計11冊もの写真集がリリースされた2017年。そんな写真集イヤーのなかでピックアップしたいのは、堀未央奈1st写真集『君らしさ』。同月14日に発売された新内眞衣に続き、2期生としては2人目の写真集メンバーとなる。

 堀が今回訪れたのはラスベガス。ネオン煌めく歓楽都市として有名だが、今回の作品では砂漠のオアシスとしての側面にスポットを当てた写真が多く収められている。また、グループの中でも人一倍 美容や自分の見せ方にこだわりを持っている堀だが、それはこの写真集でも健在。多彩なファッションやヘアーアレンジを披露し、飽きがこない充実した内容となっている。

 そんなモデルモードの堀が見れると同時に、コミカルな堀も登場してくれている。謎のポーズではしゃいだり、大好きなハンバーガーに齧り付いたりする様子。そして、カメラを向けてから作った笑顔でなく、自然に溢れ出た笑顔にカメラを向けたかのようなカットも魅力的だ。

 巻末インタビューは「誕生~デビュー前夜まで」「アイドル堀未央奈の今!」「ミライのミオナ」の三部構成となっており、過去の思い出から将来叶えたい夢などを語っている。また、写真集内で使用された衣装やコスメの情報が紹介されているのも特徴的。どこか掴みどころのない一面を持つ堀の “らしさ” を説明するのは難しい。だが、この写真集には、確かに “堀らしさ” が詰まっている。

※楽天ブックス限定表紙あり


⊿ 山下美月 『忘れられない人』

メンバー :山下美月 1st写真集
タイトル :『忘れられない人』
撮影地  :フランス(パリ)
撮影   :須江隆治
発売日  :2020年1月21日
Twitter :@mizuki1st_paris
インスタ :@yamashitamizuki1st

 最後に取り上げるのは、山下美月の1st写真集『忘れられない人』。舞台は山下憧れの街 パリ。彼女が専属モデルを務める『CanCam』チームが手掛けたこの作品は、山下の「こだわり」が多く詰まっている。他のメンバーの写真集を見て研究したり、自らのアイディアを取り入れたり、入念な体のケアをしたりと、「20歳の節目に決意を込めた」一冊に妥協を許さない姿勢を見せた。

 この写真集では花の都をバックにしながらも、外連味のない山下自身を際立たせるシーンが数多くあり、そのどれもに目を奪われてしまう。そして彼女の一つの武器でもある、見るものを吸い込むかのような力強い眼差し。この美点も遺憾なく発揮されており、現地のパリジャンにとっても彼女の存在は「忘れられない人」になったはずだ。

 また、山下が設定した裏テーマは「大恋愛」。アイドルやモデルといったある種 "遠い存在" とのランデブーを思わせるようなカットがある一方、カバーを外した表紙には "彼女感" で溢れた笑顔のタイルが敷き詰まっている。モデル感と彼女感。大人と子ども。見方によって変わるファジーな姿を楽しめるのも、この作品ならではなのだろう。

 飛鳥先輩に「こどもみたい」と評された絵日記や、巻末の1万字インタビューも読み応えがある。印象的だったのは「グループでは協調性も大事だけど、先輩たちがしてきたように一人の現場では新境地も開拓していきたい。」という一文。既に多岐にわたる分野で活躍している山下だが、今後どんな輝きを見せてくれるのかも楽しみである。

※楽天ブックス・セブンネット限定表紙あり


⊿ 番外編 『乃木撮』

メンバー :乃木坂46メンバー
タイトル :『乃木撮 VOL. 01 02』
撮影   :乃木坂46メンバー
発売日  :2018年6月26日 2019年12月17日
Twitter :@nogisatsu

 乃木坂46メンバーの素顔を収めたオフショット写真集『乃木撮』。メンバー同士がカメラで撮影した写真と、撮影者のコメントが載っているというファンにとってはたまらない作品である。この『乃木撮』シリーズを読むと、乃木坂46を好きでい続けられる理由が見えてくる。

 『乃木撮』シリーズには、ガイドブックに載るような美しい街並みも、ドキっとするようなメンバーの姿もない。その代わりとしてページを彩るのは、メンバーたちの寝顔や食事風景。そして、幸せに溢れた #わちゃわちゃ感 である。なかにはピンぼけした写真や「なにこれ?」という写真もあるが、そういったものからも彼女たちの "日常" に触れることができる。

 また、この乃木撮を取り上げるからには、公式Twitterの存在も語らなければならない。ここでは写真集に掲載されている写真のチラ見せだけでなく「#あごのせ坂」「#ハグ坂」「#メリクリ坂」など、様々な企画動画が投稿されている。これらの動画を見ると「数十秒で人はこんなにも幸せになれるのか」と感動すら覚えるはずだ。

 メンバー個人の写真集では巻末にインタビューが掲載されているが、この作品では「付き合いたいメンバーは?」「メンバーのここに憧れる!」等、全員に共通の質問が投げかけられている。グループきってのモテ女である伊藤純奈は、一体誰を選ぶのか。憧れの対象として多くの票を集めたのはステージで輝くあのメンバー、など。意外な一面から「知ってた」なカップルまで。メンバー同士の繋がりや、交友関係を知ることができる。


⊿ 撮影地別 乃木坂46 写真集

 乃木坂46は上述した作品の他にも、素晴らしい写真集を多く抱えている。2020年8月時点までに発売(が決定)している、メンバー及びグループ写真集の概要だけでも撮影地別に触れておこうと思う。一部詳しい都市までは追えなかったので、興味がある方は各自で調べてほしい。

撮影地:日本

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撮影地:アジア・オセアニア

写真集アジア

撮影地:アメリカ

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撮影地:ヨーロッパ

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⊿ 写真集って、いいよね。

 「これに手を出してもいいのか」。アイドルを応援し始めると、いくつかのハードルと出会うことになる。ライブ・握手会・生写真等々。写真集もその内の一つだろう。だが、これらのハードルの中で、写真集は比較的手を出しやすい部類だと感じる。どこかに遠征する必要もなければ、複雑な仕組みもない。そして、2,000円程の投資で確約された満足感を得ることができる。ブログやモバイルメールだけでは見ることができない彼女たちが そこには存在する。

 また、写真集は多くのメンバーにとって一つの殻を破るコンテンツでもある。写真集の発売を点としてではなく、線として見たとき、メンバーのキャリアにどう影響を与えたのか。そんな楽しみ方もできるのではないだろうか。

 今後 彼女たちがどんな街と出会い、どんな人と出会い、どんな自分と出会うのか。期待に胸を膨らませながら、この記事を終えたいと思う。

2020年8月20日
エメりんご

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