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短編小説「夢のゴーグル」「公共孤独死相談所ハローデッド」他

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短編小説の置き場です。 「夢のゴーグル」ある新製品VRゴーグル開発者へのインタビュー 「公共孤独死相談所ハローデッド」孤独死に関する政府機関ができた社会の話 「たいせつなも…
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#時代劇

小説「やる気のない忠臣蔵」

 関ヶ原の戦いから百年ほど経った江戸時代中期、播磨国赤穂藩(現在の兵庫県)を治める浅野家の筆頭家老(一番偉い家臣)に大石内蔵助(おおいし・くらのすけ)という男がいた。親の跡をついでの筆頭家老。実際の政務はベテラン老中である大野知房が全てこなしてくれていた。この時代は仕事も役職も世襲。もとより、関ヶ原の戦いから百年経ち徳川家の支配が確立した太平の世においては手柄を得る機会もなく、大石内蔵助も何事もなく一生を終えるつもりだったろうし、そうなるはずであった。 だが、元禄十四年(1

小説「気がつけば秀吉」

 授業に出たくなかったので、目黒日吉は学校の屋上に来た。昼休みには生徒でにぎわう屋上も、授業中だからもちろん他に誰もいない。日吉はそこで腐りかけていた手すりにもたれかかって、雲に覆われて薄暗い空をぼんやりと眺めていた。手すりのサビを無意味に撫でたり、ゆするとガタガタするので何度もおもちゃみたいに揺らしていた。屋上は風が吹いて少し冷たいのが心地よかった。日吉は精神的にもやもやすると、いつもひとりで屋上に来ていた。ひとりになりたかったのだ。  その屋上へもうひとり生徒がやってきた