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短編小説「夢のゴーグル」「公共孤独死相談所ハローデッド」他

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短編小説の置き場です。 「夢のゴーグル」ある新製品VRゴーグル開発者へのインタビュー 「公共孤独死相談所ハローデッド」孤独死に関する政府機関ができた社会の話 「たいせつなも…
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#短編

小説「たいせつなもの」

 世界中のどの陸地からも極めて遠く離れ、見つかることもほとんどない島があった。  その島に住む者は藁や葉っぱで作った家や洞穴などに住み、野菜を作ったり、獣や魚を捕まえたり、草木や果実を集めて生活の糧としていた。そしてほぼ毎日のように、島のほぼ中央にある最も高い丘にある“イチバ”と呼ばれる広場に集まり、それぞれ欲しい食料を交換しあっていた。何の食料を持ってくることができない者でも、石や器の加工が上手い者はその手間の代わりに食料を得るものもいたし、絵を描いたり、歌や踊りで人々を楽

小説「われとロボット」

 失業した信田仁はずっと新しい仕事を探していたが、ずば抜けて特別な技能が無かったこと、心身の病を発症したこと、中高年とも言えるような年齢がネックとなり、再就職ができないまま日々だけが流れていた。  その日も、ハローワークの帰りに夕方の街頭を歩いていると、携帯ショップの店先に置いてある接客ロボットと目が合った。脚が無く自律移動できない接客ロボットがなぜ自分を見ていたかはわからないが、あるいはそれが知りたかったのか、信田はフラリと携帯ショップに入った。その接客ロボット「ボビー」

小説「やる気のない忠臣蔵」

 関ヶ原の戦いから百年ほど経った江戸時代中期、播磨国赤穂藩(現在の兵庫県)を治める浅野家の筆頭家老(一番偉い家臣)に大石内蔵助(おおいし・くらのすけ)という男がいた。親の跡をついでの筆頭家老。実際の政務はベテラン老中である大野知房が全てこなしてくれていた。この時代は仕事も役職も世襲。もとより、関ヶ原の戦いから百年経ち徳川家の支配が確立した太平の世においては手柄を得る機会もなく、大石内蔵助も何事もなく一生を終えるつもりだったろうし、そうなるはずであった。 だが、元禄十四年(1