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令和に見る銀河英雄伝説とアニメ歴史と自分語り

1988年~1990年頃の長編SFアニメ「銀河英雄伝説本伝」を110話見た話。
これはアニメ成長期に生まれたアニメ歴史の古典である。

まず今まで銀河英雄伝説(以下銀英伝)を見てこなかった理由は
1,ボリュームがすごい。全110話。
2,劇場版?OVA?ノイエ? どれを見たら良いかわからない
3,登場人物の名前が似ていて覚えにくい
4,昭和に作成されている軍事アニメはキャラクターデザインの幅が狭くてとっつきにくい

といった理由で今まで色んな人におすすめされてきたが久しぶりにMMOであるところのFinal FantasyXIVを再開し、長時間の「ながら見」をするアニメを必要としていたのでamazon primeで配信されている銀英伝の本伝を見るに至った。
ついでに最近のブームジャンルがSFだったので事前に友人から聞いていた「スペースオペラ」ジャンルというのも気になりFFXIVでせっせと草刈りをしながら銀英伝を見始めたのである。

見始めた「本伝」シリーズが110話もあるとは知らず、10話あたりであくまでSFは舞台なのであって本作の本質は人間ドラマにあったのに気づいた。
セル画の撮影をうまく使い、宇宙の奥行きを微細に表現しているのは最初から最後まで感銘をうけた。
人間ドラマも、アニメ画で補えない部分は語りとしてナレーションが入り、わかりやすく整えられている。

ヤンに依存することなく自立し尊敬という形で立ち直したユリアンと、キルヒアイスに依存し最終的にはその手を離れたものの優れたカリスマ性で帝国を従わせたラインハルトの対比が110話という数をかけてとても綺麗に描かれていた。
残念ながら好きだったキャラは死んでしまったが、政治的観念から好きなキャラクターを表記するのは伏せておきます。

キャラクターを演じた声優さんが既に亡くなっていたり、スタジオ・キティフィルムによるセル画の表現に対する挑戦、そして丁寧に描かれ展開されたこの人間ドラマ作品は、現代における古典アニメ作品として大変面白く110話を見届け、宇宙の歴史を追う事ができた。


世は昭和アニメリメイク大時代である。銀英伝もリマスター劇場放映が行われ、おなじキティフィルムが制作したうる星やつらも新たにキャラクターデザインを現代に合わせ令和版うる星やつらも配信される。
更にはベルサイユのばらまで劇場版リメイクとあってはなかなか忙しい。
平成初期アニメの続きを描いた時代は終わり、しばらくは昭和アニメで時間を過ごす時代が来る。

1985年頃から1990年代のアニメ演出におけるメタファー的演出の成長は著しい。
アニメ演出古典作品として銀英伝の印象深い描写は、この宇宙暦時代の衣食住のうち「飲食」に関する部分だ。
サンドイッチを食べながら提督に連絡を平気でする自由すぎる惑星同盟、大きな戦いの際には白ワインを飲み干し最期の酒となる覚悟としてワイングラスを割る帝国軍。
不慣れな料理を習おうとして夫婦間の距離を縮める描写等。
それぞれの立場や人間関係の距離感を食べ物や飲み物で補うことによって自然にストーリーが進んでいく。

ここで特に描写が強かったシーンは、1期にてラインハルトの姉であるアンネローゼが拉致されて毒入り赤ワインを飲ませられそうになるシーンだ。
アンネローゼの目の前で元皇帝の愛人夫人が赤ワインに毒を盛り、それを飲ませようとするのだ。
アンネローゼは無事その窮地を免れる事となったが、この赤ワインに毒を盛るという表現によって銀英伝での赤ワインというアイテムの立ち位置が大きく変わるのである。

そもそも何故かヤン提督は「ブランデー入り紅茶」を好んで飲み、度々ユリアンに小言を言われている。自由同盟軍は序盤こそ赤ワインではなくウイスキーを飲んでいたが、帝国軍側では赤ワインを度々口にする描写がアップで行われていった。
次第に赤ワインを飲んだキャラクター達は戦死していく。

キルヒアイスは赤ワインを飲まなかったものの、遠征から帰ったキルヒアイスの前でラインハルトが赤ワインを口にする。
その後、部下に銃口を向けられラインハルトが死すべきところをキルヒアイスが庇う形になり死んでしまう。
ラインハルトは「自身の半身を失った」と呟いており、キルヒアイスの目の前で赤ワインを飲んだのは依存していた彼自身の半分を失うフラグとなっていた。
ヤン提督に至ってはレストランで口にする描写がある。
でもあの次回予告はダメだろうが!!!!!!

アニメのメタファー的表現に興味があるなら、是非97年作品の少女革命ウテナを見て欲しい。

アッテンボローとポプランの個性的なやりとりはとてもテンポが良くお洒落だ。
ビュコックの経験からくる戦略や格言もなかなか格好いい。
度々咳払いをして小言を言っていたムライに関しては「久々にワロタ」の人かと勘違いしてしまった。
数年後あのアスキーアートの姿になるのかと思っていたが別人だった。

80年代アニメキャラクターデザインの話をしよう。
当時はセルフィルムと呼ばれる透明なフィルムに線画を入れて、塗りはアニメカラーという水性塗料で彩色をする。セルフィルムは高価なため、着彩まで終えたフィルムは撮影後洗い流して使い回す。
これがセルアニメと呼ばれているもの。
キャラクター数が多くともほとんどのキャラクターは色を使い回して塗られており、ムライと久々にワロタの人の髪色が同じことや髪型が似ている事から、実際に久々にワロタの人が出てくるまで同じ人かと思っていた。

80年代キャラクターデザインにおいては金髪・黒髪・茶髪が主流であり、81年に放映されたDr.スランプアラレちゃんあたりから水色や紫色などの髪色を持つ個性的なキャラクターデザインが採用されることが増えた。
銀英伝に関して言えば軍事モノであるが故に軍服を揃え、どの運営に属しているか示さなくてはいけないため髪色や肌の色、そばかすくらいでしか表現出来なかったのがとても難しいところ。

現代では価値観や固定概念が80年代より大きく変わり、より大きなキャラクターデザイン幅を作れるようになったのは銀英伝含むこのアニメ成長期にあると考えている。


音楽演出の話をしよう。
本作ではみんなが知っているクラシック音楽がここぞというところで採用されている。
ドヴォルザークの「新世界より」第4楽章は誰もがどこかで聞いたことがあるだろう。
採用されている殆どは「ロマン派音楽」と呼ばれるクラシックだ。
音楽の力はすごい。アニメと合わせるとその空気感にぐっと引き寄せられる。
銀英伝本伝においてこのロマン派音楽が多く採用されたのは、作中の人間ドラマにロマンが感じられるシーンが多数演出されているからだろう。選曲もさながら、クラシックが流れるタイミングも完璧だと思った。


110話という膨大な数によって得られた知見や表現、ロマンはなかなか文字で語るのも難しい。
その人間ドラマは作品を見た多くの人の性質を変え、大きな影響を与えただろう。
それくらい多くのキャラクターが語り、行動し、銀英伝を見た人達を虜にしてきた。
それぞれヤンやラインハルト、その他多くのキャラクター達に当てられ、今でも銀河の歴史を綴ろうと画策している人がすぐ側にいるかもしれない。

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