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#6_「経営の継続性」を担保するために、現地法人のマネジメント体制はどうあるべきか

日本企業のアジア事業展開を語る上で、「経営の現地化」が重要な論点である旨は過去の論考で述べてきた通りである。また前回は、日本とは異なる組織慣習の中で、「人材の現地化」という課題に対してどのように取り組んでいくべきかについて、日本企業の事例を交えながら議論を進めてきた。

海外事業における「経営の継続性」

今回は少し違う角度から論考を進めたい。「経営の現地化」「人材の現地化」は日本企業が取り組むべき重要な経営課題のではあるが、同時にこれらの重要課題に対する取り組みをいかに組織として"継続"させていくかという点も日本企業が考慮すべき課題の一つであると認識している。

本社から派遣される現地法人のトップ人材、また現地経営陣をバックアップする本社側の人材が、アジア事業における「経営の継続性」を中長期的にいかに担保していくのか、その視点で論考を進めていきたい。文章が長くなるため、先にポイントを述べておくと、「経営の継続性」のカギの一つは「本社から現地組織へのバックアップ体制の仕組化」にあるように思われる。

アジアの市場環境

中国・東南アジア市場は、市場規模や成長性の観点から多くの日本企業にとって有望な市場として捉えられている。

一方で、日本企業にとっての中国・東南アジア市場のホワイトスペースは既に埋まりつつある。市場に早い時期に参入した欧米企業に加えて、最近ではローカル資本のコングロマリット企業も着実に力をつけてきている。「ローカル企業の製品・サービス価格は安いものの、品質についてはまだまだ日本企業に対して後塵を拝している」というような感覚は、もはや過去のものとなりつつある。

日本企業はアジア市場において、グローバルでプレゼンスを有する欧米列強に加え、こうした強力な資金力・(顧客網・物流網等を含む)ネットワークを有するローカルのコングロマリット企業と同じ土俵で戦わなければならない、そのことを改めて理解しておく必要がある。

もちろん日本企業においては、本社の優秀な人材を現地法人に派遣しているという点は間違いないだろうが、多くは4-5年で任を終え、日本に帰国するケースがほとんどである。そしてトップが変われば、前任者の方針は忘れ去られ、新任者は別な経営課題にチャレンジし、その途中でまたトップが変わる。こうした状況を繰り返す限りは、「経営の継続性」を担保しつつ、中長期的に高いパフォーマンスを発揮し続けることが極めて難しいことは誰の目に見ても明らかであろう。

一方で、グローバルでプレゼンスを有する欧米競合企業の多くは現地の優秀なプロ経営者が経営を担い、かつ地場コングロマリット企業の多くは絶対的な権力を保持する創業者が中長期的な視点でマネジメントを担っている。

上記の状況を踏まえると、日本企業は中国・東南アジア市場における「経営の継続性」に対して、現地トップ個人の資質・能力で取り組んでいくことは極めて難しいのではないかと思われる。日本企業は今後、「個」ではなく、「組織」として欧米列強や地場コングロマリット企業に対抗していくための、マネジメント体制を構築していくべきではないだろうか。

「経営の継続性」を担保したマネジメント体制の事例

最後に「経営の継続性」に関する課題において、ユニークな取り組みを実施している日本企業を事例として紹介しつつ、本稿を終わりとしたい。

日本企業K社は、現地マネジメント体制をバックアップする本社側の体制にユニークさを持っている。現地子会社にマネジメント人材が派遣されるタイミングで、本社側は経営人材をバックアップするクロスファンクショナルチームを組成する。さらに法・税務・財務等現地特有の部分は、積極的に外部企業と連携を行う。日本人経営者が経営または組織運営上の課題に直面し、現地組織内での解決が困難と判断された場合、本社側から積極的にリソースを供出し、問題解決に当たる。日本人トップは自身のリソースを最も重要な戦略遂行に集中的に配分できるという利点に加え、バックアップする本社側にも現地の様々な経営上の知見が蓄積されていくという点で利がある。

さらに本社側のファンクショナルチームで一定の成果を果たした人材が、次期現地経営トップに任命されるという仕組みで、「経営の継続性」が担保されている点も、このマネジメントモデルの優れている特徴である。

現実としてアジアに展開している日本企業の多くは、経営者が日々業務上の細かな対応に追われ、売上・利益を伸長させていく「事業戦略」の根幹部分に十分な時間を投下できていないケースが多く見受けられる。それに対して、日本企業K社ではそうした課題は少ない。もちろんこのモデルを導入することが、魔法の杖となる訳ではないものの、経営の本質に向き合う時間をどれだけ本社側が現地経営陣に与えられるのかという視点で見れば、今回の事例は本社側のアジア事業担当者にとって一考に値するのではないだろうか。



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