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ゲンロンSF創作講座6期第2回梗概その1


中川 朝子「風を痛む」

 「痛みに耐えかねた住民は続々とQ地区を去る」とあるけれど、これはこの時期に地区を去る人が急増したのか、物語の開始時点で地区を去る人が多かったのか、どちらなのか気になる。前者であればその理由が必要になるし、後者であれば梗概の序盤に入れる情報な気が。
 痛みを起こす風が飛翔を覚えた遺伝子の欠片、などのネタは良いけれど、ストーリーはわりとあっさり終わった印象。これだと20,000字いかないのでは、とも思う。別に20,000字いっぱい使わないといけないわけではないが、ストーリーの起伏がもう一つ二つ欲しいなと思いました。

伴場 航「手先の器用なテントウムシ」

 天皇型アンドロイドと言えば柴田勝家の『ヒト夜の永い夢』。傑作ですね。
 梗概時点でアンドロイドが天皇型である必要が特にない点が気になる。また、なんでも屋を始める理由もよくわからない……。むしろ天皇型であることは周知のものになっており、それに対する住民の多様な反応(普通の隣人、許容できない存在、崇拝の対象……)でドラマをまわす、というのが良いかもしれない。まあこれは自分がやるならこうするかな、くらいのものですが。梗概の序盤の、勝手に人の室外機を直す隣人がかなり不気味で面白いので不穏な隣人ものとして展開するのもアリでは。

難波 行「もう一度産むから、まって」

 タイトルが素晴らしい、優勝です。
 お題が梗概ではなくラストシーンなのであんまり感想が言いづらいんですが、ラスト4行の落とし方も良いので実作が読みたくはなりました。アピール文にあるあらすじがかなり良く、これの梗概を別個で読みたいところではある。女書、みたいな印象を受けた。

夢想 真「奇々怪々な機械の世界」

 ディストピアもの。ぜんぜんそんな雰囲気のない始まり方なのが面白い。この作品はむしろディストピアものだとわかって鈴原の闘争が始まってからが本番だと思うのだが、梗概にそこがないのは残念でした。鈴原は作品世界ではチート級能力持ちのテロリストみたいなものなのでそこをたっぷり見たい。

古川 桃流「失われない羊」

 テックっぽい小説は作中で起こる技術による諸々がストーリーの起伏と重なり合っていることが必要だと思われる。技術によって危機が訪れ、技術によって危機が回避される、みたいな。そこがうまくいくと作中のテックぽいものに精通していなくても、ストーリーを追えばなにがどうなっているかある程度分かって面白く読めるわけですが、この梗概段階だと技術的なものの説明が優先されていてストーリーが弱いように感じる。一方で下請けの「お前は変わったな」と言われる辛いシーンは面白い。こういう卑近な辛いぜシーンはどかどか入れてもらって、最終的に「これを読むとブロックチェーンのことがだいたいわかるようになります!」みたいな小説に仕上げてもらえると個人的に嬉しいです。

相田 健史「酒球」

 箱庭好きなので、この作品も好き。ラストの酩酊によって見るものが冒頭の箱庭の外の事象なのが良いです。イサの冒険が集落の通過儀礼であることにも説得力があるので、実作も破綻しないはず。集落の文化、酒の影響を強く受けた奇妙な価値観が描かれると良いともいます。その点では、ラストに成層圏という語を使うことの妥当性は問われるかもしれない。個人的には宇宙観も酒に由来する独自のものを用意してもらえると嬉しい。

瀧本 無知「頭の悪さはたゆまぬ努力のたまものです」

 機関がどうして人間の知能拡張を非合法な形で推進するのか、その目的は具体的に設定されていてほしい。犯罪を画策、だとなんのことかいまいちわからない。国家転覆なのか金儲けなのか。そこがしっかりするとそれに対する紬の抵抗も明確になるし、それによって紬がなにができるのかを具体的に書けると思うので。まあ、こういったことは梗概なので省いたのかもしれない。

柿村 イサナ「光の文字で綴れ」

 抜群に良い。優勝では。女性のみに継承される言葉といえば女書ですが、目に良く、意味をこめやすいという点で刺繍という形が最高ですね。梗概冒頭の「子供を身ごもりたくない時~」がちゃんと後半のルチェサラとスヴャトゴールの関係性とつながっている点も良い。置くべきところにちゃんと置くべきものを置いている感。

長谷川 京「熒惑の信仰者たち」

 宗教をロボットに感染させる、というアイデアがかっこいい。ただロボットに教義をつめたら宗教儀式が復活した、という点はかなりひっかかる。さすがに人間とロボットは違いすぎるのではないか、という。また、ミナがイルミヤ正常化へのヒントを残すことにも違和感がある。サリは自分を理解してほしかった? ううむ……。
 物語構成はしっかりしているので多少の設定の説得力不足は力業で押し切れるかもしれない。長谷川さんはとっととデビューしてもろて。

広海 智「『秘密の花園』の秘密」

 『秘密の花園』は未読だったのであらすじをwikiで確認した程度ですが、うまい具合に改変されているという印象を受けた。ただ梗概段階では不死化技術を具体的にどう描くのか、という点が不明なのが気にはなるところ。『秘密の花園』が1911年の作品だということなので、その時代の科学が基になってメアリたちは不死化技術を完成させたのかもしれないが、それがどの程度現代に通用するのか、科学の変化に説得力を持たせるのが大変な作業になる気がする。

イシバシトモヤ「エギィァアバキリッ…ジュドドロ…ッルッン」

 これは梗概で完成しているのでは、と、これを読んで何を食べたくなるのか、という二つの疑問が読んだあとに残り、その点で変に笑える。20,000字の実作にしてこの勢いが損なわれるのであれば短くまとめた方が幸せかもしれない。

霧友 正規「わたしと七人の「わたし」たち」

 コギトの示す「わたし」らしいわたし、というのはシラユキと同様の人生設計カリキュラムをシラユキ以上にうまくこなしている人のこと? 自分が読み取れていない気がしている。要するにシラユキが自分の理想の人生を歩めている人を殺してまわっているということか。だとすると「それは、シラユキ003です」という台詞のシラユキ003はシラユキとは全くの別人ということになる? すみません、ちょっとよくわからなかった……。

岸田 大「帰省」

 かなりでかい話。人類の命運の選択権が降りてきた主人公の葛藤がこの作品の最も盛り上がるポイントになるはずだが、梗概ではあっさりしているのでそこは膨らんでほしい。ただすべてが唐突な話なので、そういう話なのです、ということであればこのままでいいのかも知れない……。

渡邉 清文「無名(関数)祭祀書」

 無名関数も無名祭祀書も知らず、技術的な部分もど素人なのだが、面白いと感じた。神を復活させるという目的も良いし、プリントされたのが書でそれに飲まれて世界がえらいこっちゃになるのも良い。実作では神が復活するとどうなるのかという考察や神を復活させることの是非や周囲の人の駆け引きが書かれるといいなあと思いました。Twitterを見ると無名関数から無名祭祀書を連想する人が世の中には一定数いるのだと知ることができる。

降名 加乃「砕けた瓦礫の願いより」

 生存に必要な諸々のエネルギーを採掘して得る世界、という設定が素敵。採掘して世界が減っていっているので早晩人類は滅ぶことになると思われるが、それを受け入れて淡々としている雰囲気もあって良い。和波の最後の行動は作中世界の消滅を早める行為だと思うが、その結果が綺麗なものとして描くことに作者の美意識を感じる一方で美に耽溺しすぎ感もややある気が。

コウノ アラヤ「ギャラン・ドゥは二度死ぬ」

 固有名詞含め最初から最後まで面白い。ただゲンロンSF創作講座では1期第8回で光レトリバーさんが「繁毛ヒストリア」で毛の話を書いているのでこれに勝たなければいけない。

真中 當「白々と朝も夜も無く部屋照らす光がせめて暖かければ」

 疑似家族を形成してからが面白くなりそうな感じがある。(おそらく大人)2人をやりこめる子供(実年齢52歳)がかなり楽しいし、危機に対してサラだけでも逃がそうとする2人もぐっとくるものがある。テーマが「肉体と精神の成熟」にしっかりなっている。一方でリアリティラインの設定はいまいちよくわからない。高度に科学的な倫理のぶっ壊れた世界なので、被検体の人権は、とか気にはなる。

牧野 大寧「イミテーション・アニマルズ」

 面白そうな感じはある。アピール文で謎を残したままの結末、話として成立しているかを気にされているけれど、謎は謎のまま残していいはずだし(それが余韻になったりする)、梗概を読む限り、話はこれはこれで問題はなさそうだと感じた。ただこのままだと20,000字にはならなそうなので文字数を増やすのであればキャラの背景なり宇宙船の行き先なりを追加すると良いかもしれない。
 ライオンのAIについてはちょっとよくわからない。アウズンブラで動物のガワを作ってそれにAIを実装することで動くようにしているということか? これだと動物に意識があるのかどうこうの話に巻きこまれるので、普通にアウズンブラで動物作ったら勝手に動き出す、攻撃的にするには薬品を利用する等にしておいた方が無難な気が。

山本 真幸「睾猫譚」

 なにがなんだかわからないが、わからなさが魅力になっており読むと楽しくなるという不思議な梗概。猫が登場するSFは数あれど猫の睾丸が軸になる小説はないのではないかと思うので、突き進んでほしい。

大庭 繭「とろける微睡み」

 睡眠時間が15分になった世界、というのが面白いが細かいところで気になる点もある。竜骨は嘘だったと後になってわかるけど、じゃあ飲んで気絶したのはなぜとか。15分睡眠世界の細かいディテールを積み重ねて説得力を持たせることができたら面白くなると思います。

中野 真「消えない星屑」

 かなり面白く、傑作になりうる。『推し、燃ゆ』ボンクラ版。バーチャルアイドルがVtuber的な存在なのだとすると、Vとファンは相互に作用する関係にあるので、パーソナライズされた推し戦法は炎上回避の策略としてアリだと思うので妙にリアリティを感じもする。しかも終盤で推しが主人公に問いかけるという泣きも入る、これは凄いことですよ。One to oneだとつまらなくなる、というのもありそうな話で、それによってファン同士のつながりも消えていくという。「オタク同士は同じ推しの話をしているつもりであっても内容はほとんど噛み合っていなかった」。良い。

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