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ゲンロンSF創作講座6期第2回梗概その2

水住 臨「創造的休暇は突然に」

 史実を辿りつつフェイントを入れて奇妙に捻じ曲げるというその手つきが上手い。複数のキャラクターを立っており真空低温調理も発明されてめちゃめちゃ面白い。実作にしても破綻しなさそうでもあり、当時の生活のディテールを詰めればOKみたいな状態になっている。アップルパイで優勝してください。

方梨 もがな「二十日鼠は死んでいた。」

 (人類から見れば)時代を超えてねずみに宿るアルベールという設定が良い。梗概にあるストーリーに加え、様々な時代に飛ぶことも含めて、ねずみから見た人類史が作中で語られると個人的に楽しい。いま調べたら二十日鼠と人類の同居は1万5000年まえに始まった、という記事が出てきました。

中野 伶理「神はよるべなき声の果」

 序盤で主人公のバックグラウンド、追う対象、バディ、キャラクターの関係性が明確にされるので梗概がめちゃくちゃ読みやすい。神の音によって医療がどのように発展するかの説明が欲しい。また、楽器を借りて実際に演奏するまで持っていく流れをどれくらい書くのかは気になる。現実的なところでそれなりに詳細に書いてほしい気もするが、凝って破綻するくらいならさらっとダイジェストっぽくまとめてしまっても良い気がする。

向田 眞郵「それは小さなバトンだけれど」

 うまくまとまっている梗概だと思います。視点人物がころころ変わるので実作にした際は工夫がないと読みづらくなってしまうかもしれないのと、アバターが寂しいと感じるまでに発展した技術をどのようにして書くかという点が梗概段階では気になる。いじめっ子に怖いメールが届くというところからケン・リュウの「神々は繋がれてはいない」が連想された。

岡本 みかげ「穴が空いた日」

 並行世界を穴あけパンチで説明するのが大変わかりやすい。弟を失った女の子がたくさんいるのであれば、えり子が穴に飛び降りる前にそこら辺を確定させないといけないのでは等、梗概がシーンになってしまっているため、この話が実作にするとどのように膨らむのかがイメージしづらいので不足感がある。とりあえずやってみる、で死ぬのはまずい。

櫻井 雅徳「少女の夢」

 夢を管理する、フロイトの評価が高い世界というのは面白いが、それが犯罪率の低下や異性愛の回帰にどうつながるのかがよくわからない。管理社会で思春期の少年少女が違法薬物を作ってぶっ飛ぶ、という話で終わってしまっているので、夢の管理を中心にお話を二転三転させてほしいと思いました。

伊達 四朗「髪がない」

 人類が禿を克服したことと機械人類が誕生したことに関係が特にないところを、サイトウで両者をつなげているところになるほど、となった。サイトウの望む毛の生える生体スキンを使ったのに生体に生えていたものとは違うと感じた点はやや混乱する。生体スキンは万能ではない? あと、いつの間にか同棲していることに驚いた。多少の説明はほしい。

和倉 稜「冷めない鉄の軌跡は円」

 時間SFだが個人の身体に影響がとどまっているので納得感がある。50歳での大事故で身体を失ったのであれば、30歳の主人公の血と入れ替えるべき血も失われて、30歳の主人公は貧血になるのでは? とは思ったがこれはこちらが何か見落としているのかも知れない。あとはタイムマシンがさくっとできているが個人で完成させられるものなのか、そのタイムマシンを自由に使えるものなのか、リアリティラインの設定がシビアかもしれない。

佐竹 大地「神の石ころ、人の一手」

 面白い。主人公の能力が囲碁に限らず日常生活にまで影響を及ぼすのが良いです。ストーリーに関しては能力覚醒後に二転三転必要な気はする。このままでは20,000字いかないと思うので。余談ですが、選出されれば実作を読むのは「盤上の夜」の宮内悠介さんなのでそこも狙ったのであればチャレンジが素晴らしいと思います。

花草 セレ「梅花を齧る」

 リアリティラインの設定が実作ではやや難しいかなという印象を受けました。梅が和歌をどのように詠むのかという設定を主人公一人の体験であれば主人公の主観で片づけられますが、世間にまで広がるとどうやって梅が和歌を詠むのかという説明が求められる。ただ、大宰府で主人公が得る結論は心揺さぶるものがあると思いますし、何より知音がべつに人間でなくて良いという姿勢が良いです。アピール文の本作の動機も発想が楽しい。

織名 あまね「杉田+杉田≒杉田」

 杉田が2人になるとして、手術を経て増えたのであればどちらかがオリジナルの杉田になりそうだが、本作の杉田ABはどちらかがオリジナルということではない? マージ後の杉田の感慨がくすりとさせるものでオチが良い。むしろどうやってマージするんだ、と疑問があるが、それを言うとどうやったら2人に増えるのかということにもなるのでこれはこれで良いのかもしれない。ドラえもんでのび太を増やしたら面倒を押しつけ合ったみたいな回がありましたね。梗概審査で「吉田同名」と比較されそう。

多寡知 遊「ぬいぐるみと駆け抜けよう、古代宇宙遺跡」

 杏奈が文句を言いつつ徐々に楽しんでいくことが実は障害がアトラクションだったことと繋がっているのが可笑しくも上手い。ラストで学校行こうかという話になっているが、この冒険した後で学校行こうかなとなるか? という疑問はある。最終的なゴールをそこに設定するのであれば、作中で学校について触れた方が良いと感じた。

柊 悠里「孵らなかった星間文明への鎮魂歌」

 物語の開始時点で複数の謎が置かれているのでそれが徐々にあきらかになっていく仕掛けで物語を引っ張っていけているので実作にした際に面白くなりそう。ただ後半で人工知性の条件が外される理屈が安直な印象で、それまでが知的探求心をくすぐる設定なぶん肩透かしになっているように思う。ここの理屈がかっこよくきまると大変面白い実作に仕上がるとおもいます。

やまもり「絡む、怒りと稲妻」

 歴史の一場面を切り取ったような、という感想を抱きましたが、斧は実際にあるものなのか。選んだ課題の性質上、斧の名前など記載すると良かったと思います。文字数と比べてストーリーの情報量が少ないという印象で、これは余計な文章に余計な装飾がついているからだと思われ。たとえば2段落めで3行も使って宴について描写されているが、梗概なのでここはハルゲルズの簡単な背景と「瀟洒な宴が催された」くらいで良く、その分の文字数をほかに回すのが良いと思いました。

猿場 つかさ「君と蹴鞠だけをしていたかった」

 天皇制を軸に歴史修正合戦をするという大ネタが決まっていてかっこよく、面白い。天智天皇時に水時計によって日本で初めて世に時間を知らされたことを記念する時の記念日があるらしく、中大兄が時間を飛ぶことに説得力があるのも面白い。高い文章力とリサーチ力が求められ(言葉遣い、文化など)、そこをクリアするとめちゃくちゃ面白くなりそう。

髙座創「ギガンテック ブルー ピル」

 地球をでかくすることで発生する諸問題がでかすぎないかと思ったが、その問題を超えるスケールの小説にするとそこは問題にならなくなるので、良いのかもしれない。グロエリの皆さんはそういうスケールに強いという印象がある。タキオンに関する細かな説明がいまいちわからなかったので、梗概からわかるところを拾っていったが面白くなりそうな感じはあり、敵国ってどこ等説明が足りていないと思いました。

継名 うつみ「スキット・スキャット・スキャタラー」

 言葉と引き換えに通貨を得るという設定が面白い。マンション最上階の競売シーンがどのようになるのか気になるが、梗概の終わり方を目指すのであれば、競売パートはあっさり終わらせて主人公と祖母の関係性について話を膨らませていき、そこに惑星ソシュールの原住民の特殊性をからめる方がまとまりも出て良くなる気もする。「紙の動物園」ぽくなるかもしれない。

馬屋 豊「ディープフェイクおばあちゃん」

 ただのドタバタのひどい話で終わらせないことにこそ意義があると思うので、梗概の冒頭の「戦争なんて、敗けてよかったのに」という台詞は誠が言っている、というオチが良い。ディープフェイク部隊、父親と誠の温度差の対比を存分に書いてオチが最大効果で発揮されるようにしてほしい。

八代 七歩「月うさぎは眠らない」

 餅つきの要領で腹やふくらはぎをつかれると死んでしまうのでは、と思いながら読み進めていったらまさかのそういう話だった。恐ろしい。うさぎが突然霧散するシーンがわけもわからず面白く、前回うさぎが空に飛び立ったことも含めて八代さんには不思議生物・うさぎの開発を続けていってほしい。かなり作中の倫理が狂っている作品なので、そのことを自覚したうえでコミカルにしないと大事故になるとは思う。

邸 和歌「ポピポピポピポピ」

 ISSの映像にあるポピーもケシカスにしか見えていない? とすると、遮光率80%うんぬんというのはケシカスが調べた知識ということになる(?)、訓練は1週間でいいのか等ややわからない点もあるが、ラストの死にゆく地球の人に手向けられるように咲き誇るポピーが、しかも主人公以外それを見ることができない寂しさも含めて何とも言えず感動的なのが良い。スネップがポピーを月に持ってきてほしい動機を設定は最低限ほしい。

夕方 慄「その舌触りは絹のよう」

 とにかく人物と要素が多すぎる。多摩子と案理が他人なのに双子ほどそっくりとか、店にかかったまじないとか(梗概だからかもしれませんが)その時その時しか出てこない設定が勿体ない。1つ2つに絞ってそれを軸に話を組み立てていった方がいいのではないかと思った。

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