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雑な記:「おばあさん」について

2023/10/13

おばあさん。

歳をとった女性、もしくは自分の祖母を指す言葉。
その語句からいずれをイメージするかはその人にもよるだろう。自身が老齢である女性は自分のことだと思うかも知れない。

漫画に登場する老人キャラが「ワシ(わし、儂)」を一人称にしがちなように、おばあさんというものにもステロタイプが存在すると思う。孫や子供に対してニコニコと目尻を下げる優しいおばあさん。あるあるいはヨボヨボで弱々しくて、時代劇とかだったら介護する娘やお嫁さんに「すまないねぇ…」とか言ってそうなおばあさん。もしくは意地悪クソババア系とか。

だけど当然のように、おばあさんにも多様性がある。若い女性が多様であるなら、その先であるおばあさんが多様であるのも理であるのだが、それを私がはっきり実感したのはがんとなり手術のため入院をした時だった。

病院、病棟にもよるだろうが、私が入院した大学病院の病棟は高齢の患者さんが多かった。同じ階に私が入院した婦人科病棟と泌尿器科の病棟(男性患者が八割)があって、まるで隣り合う女子校と男子校みたいな感じだったが、その50年後の同窓会とでもいうような年齢分布であった。

そんな環境だから、ありとあらゆるおばあさんに出会うことになった。入退院のサイクルが早い病院なので、入れ替わり立ち代わり様々なおばあさんがやってくることになる。

病棟おばあさん列伝


CASE01:はんなりおばあさん

はんなりとした雰囲気で、痛みに苦しむ私に看護師さん呼ぼうかって聞いてくださった優しいおばあさん。小柄でかわいらしく、お名前もとてもかわいらしいお名前だった。

CASE02:コルセットおばあさん

綺麗な白髪を編み上げた、外してはならないコルセットをそうとは知らず外してしまった医療職の背の高いおばあさん。整形外科の患者さんらしく、理学療法士の方とリハビリに行っておられたがかなりきついらしく、弱音を吐いていた。退院後の不安を口にしておられた。どこかの会社で医療検査のお仕事をされていたらしい。

CASE03:他科のおばあさん

ベッドの空きがないので他科からいらした、糖尿病を患っているおばあさん。コーヒーがお好きで夜カーテン越しに良い香りが漂って来ていて、その時映る影の感じや雰囲気にどことなくジブリ感を覚えた。やはり痛みに苦しむ私のために、見てあげてと看護師さんに頼んでくれた優しく頼もしい方。マスクやパジャマという格好のせいか、はたまた世慣れぬ引きこもりゆえの所作の幼さのせいか、私をとても若い女の子だと勘違いしていて、娘さんとのお電話で若い女の子も入院しているとお話しておられた。3日間ほどの短いお付き合いだったのが悔やまれる。

CASE04:逆フェミおばあさん

元幼稚園教師で、何かというと「男の人って〜」的なことを引き合いに出す、フェミニンレトロな思考のおばあさん。私の入院中のバディだったハセガワさんの隣のベッドにおられて、よくお話をされていた。割と保守的な考えの持ち主であるようで、先述のように男性を一括りにしたり、それによって自身の女性性を強調するかの如き話法だったり、人に身の上話とか相談的な事をされても結局何もしてあげられないからという理由で話を聞く事に対して否定的だったり、個人的には苦手なタイプ。

CASE05:依存おばあさん

一人でやっていけるのかしら、などと退院後の不安をしきりに口にするのでてっきり寄る辺なき独居老人かと思いきや、配偶者の方が同居の上に近所に娘さんも住んでいたという超依頼心の強いおばあさん。誤解していた時は、退院後自分でやるしかないんだから、と発破をかける担当医の先生を話に聞き耳を立てながらなんて冷たい人なのだと勝手に憤慨していたが、真相が分かってからは先生が至極尤もであることに気が付き呆れた。そんな思い出。

CASE06:スマホおばあさん

高齢で施設にいるお母さんが自分が入院していることを忘れてしまうのでスマホで写真を送りたいんだけど、どうやったら良いか分からないので私やハセガワさんに支援要請なさった電話好きなおばあさん。ハセガワさんが撮影をし、私がLINEで写真を送る操作をした。人のスマホに触るの初めてだった上にこの頃はまだスマホを使い出して間もなかったので手間取ったがどうにか成功。スマホおばあさんとハセガワさんに若いから、と誉めそやされた42歳児(当時)でありました。

CASE07:はなやかおばあさん

華やかなお顔立ちで、最初はとてもしっかりしたお声で話しておられたけれど手術後調子が悪くなりとてもしんどそうで、トイレの前にうずくまってたりナースコールのボタンを自分で取れないから取って欲しいとお願いされ、それから少しして個室に移られたおばあさん(その後どうなったのか気になる)。このおばあさんには「お嬢さん」と呼称されておりました。なんかほんとこの時はおばあさんたちにめっちゃ若く思われていた。ちなみにハセガワさんは「奥さん」と呼ばれておりました。

CASE08:方向音痴おばあさん

初めての病棟でお茶の在処を私に尋ねられ、しきりに方向音痴だから、と仰っていた小柄なおばあさん。この方が入院中お会いしたラストオブおばあさんだったな。おばあさんのお手伝いをたくさんした入院生活はなんだか楽しかった。


今入院中のメモ確認せずにパッと思い出せるだけでもこれだけ様々なおばあさんがいた(入院中のバディだったハセガワさんも70歳という年齢で言えばおばあさんではあるのだけれど、取り敢えず50歳以上の年齢不詳な人という印象でおばあさん感はなかったから含めていない)。おばあさんに対して決まり切った固定観念的な見方なんて出来たものではない。

そして自分と同じ患者さんにとどまらず、更なるおばあさんに私は出会った。
プロおばあさんである。医療の。


医療スペシャリスト媼たち

✨🥼🥼🥼✨

SP1:専門看護師Sさん

一人は昨日の日記にも書いた、ストーマ専門の看護師Sさん。見た感じでは50代後半から60代、おばあさんとしては若年の部類である(50代をおばあさんとかふざけんなよ、と思われたらすみません。Sさんの見た目年齢のギリ下限がそこだという意味です)。

前にも書いた通り初対面の印象は悪かったけれど、その後わかったスーパースペシャリストぶりや気さくで実際的な人柄をすっかり気に入って好きになった。

年齢的にもキャリアは長いのだろうが、ストーマ専門となられてどのくらいかは分からない。あらゆる看護系で何故あえてストーマ専門を選んだのかは存じ上げないが、それも含めてとても興味深くユニークな方だと思う。

というか、医療職の人全般に対して何故その仕事を選んだのか聞きたい気持ち(キリスト先生もなんであんな良いお医者さんなの?)。

SP2:ベテラン病棟ナースUさん

もう一人はベテラン病棟看護師Uさん。年齢は見た感じ60代〜70代くらい。声が聞こえるだけで誰だか分かる、とは他の病棟看護師さん談。実際誰が聞いてもそうだと分かる、特徴的で元気いっぱいな大声だ。

ストーマ中身の処理のやり方や装具業者への連絡方法を教えてくださったり、腹水のバイ菌のせいで熱を出した時も震えの理由を教えてくださったり、またその際に「もう帰れるくらい炎症反応治ってたのに可哀想になぁ…」と悲しげなお顔で仰ってくださった時は、こんな人が祖母だったらいいのにな、と思ったものだ。
実際皆のおばあちゃん、もしくは長老、という感じの人柄及び頼られっぷり。

食事のトレイを返す時カートの高い位置に置いたら(私は身長が他の人より高いから)、「えらいっ!」と褒めてくださったりした。

他の看護師さんも皆さん親切で感じが良かったけれど、Uさんがいる時は(先述の通り、Uさんが病棟にいると声で分かる)安心感が段違いだった。

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私がお会いしたプロおばあさんはこの2名だけれど、大きな病院だしまだまだ底知れない力を持つおばあさんが存在するかも知れない。人生100年時代とかメディアがほざいておるが、このようなプロフェッショナルであれば老齢はむしろ知恵や信頼といった要素を後押しする追い風となり、こうした方々はきっと長く活躍されることだろう。



…実に色々なおばあさんに出会った。優しい、知恵者、頼もしい、弱々しい、騒々しい、大人しい、おばあさんの数だけ個性があったけれど、その誰しもに共通するのはナチュラルにその人たち自身だったってこと。少なくとも自分はその時そう感じた。そして皆、闘病や仕事の人生を懸命に生きていた。そういうあり方のおばあさんたちと、短い間些かなりとも関わることができて良かった。

人々の多様な”るつぼ”がこの世の姿で、そこでただ自分として生きて死んでいく、その束の間の位相をつどつど感じ味わうことが人生で、そこに彩りを与えてくれたおばあさんたちを懐かしく思う。自分を失いがちな私だけれど、こういう生き生きした人の記憶があるおかげで息を吹き返すことができているよ。もう会えないおばあさんたち、どこかで元気にしていてくれることを願うよ。

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結構長くなった。お昼から書いてて今夕方。おばあさんのこと書くだけでこんな時間がかかったなんて信じられないけど、それだけのおばあさん体験があったってことだな。

とにかくこの雑な記はここで終了。読んでくれたあなた、ありがとう。あなたにも素敵なおばあさん体験が訪れますように。

それではまた、別の日記で。

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