なぜ検察庁法改正案の採決見送りが実現できたのか?

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SNS(Facebook)のコメント欄で「なぜ検察庁法改正案の採決見送りが実現できたのか?」について意見を求められたので整理してみました。大作(5072文字!)です。

質問「コロナを経て、潮目が変わったのでしょうか?」

今回の展開は意外でした。いつものようにぶっちぎられるかと思ったのに。
コロナを経て、潮目が変わったのでしょうか?どう思われますか?

本当に「意外」でした。維新の松井代表も「どのみち強行採決される」「政局ごっこ」としたり顔で発言して、その見識の低さを露呈してしまいました。

実は私も、一番最初にFacebookで抗議意見を表明した時に「創価学会・公明党、もう一回頑張ってもらえませんか?」と書いてましたし、その後も質疑応答する中で「どうせ強行採決」「どうせ総選挙までに忘れる」「どうせ安倍政権は続く」なんて書いてました。

なぜ強行採決をはばめたのでしょうか?その前に質問への回答です。

回答「潮目が変わった」とまではいえないが、今回の成功体験は日本に真の民主主義が根付くきっかけになりえるのでは?

「潮目が変わった」とまではいえないと思います。

後述した様々な要因が重なった結果と思います。なによりも新型コロナ対応中という特殊要因がなければここまで盛り上がらなかったと思います。

とはいえ、今回の成功体験は大きかったと思います。

「議席が少なくても覆すことができる」
「選挙時以外にも影響力を発揮できる」
「微力だけど無力ではない」

これらがたんなるかけ声や理念でなく厳然たる事実として示されたからです。

長期的には「日本に真の国民主権、民主主義が定着・成熟するきっかけになった」と評されるかもしれません。そうなるように発言を続けていきたいと思います。

これまで「政治家は信用できない。政治には期待できない」「自分一人が頑張ってもどうせ変わらない」と思っていた人が政治に向き合うきっかけになりえると思います。

安倍政権を支えているのは「鉄板支持層」と「政治不信・無関心層(投票棄権)」だと思います。(小選挙区制度x低投票率という状況では「ごく少数(全体の20%)」が気にいる政策(例えば嫌韓や国土強靭化)をしていれば選挙に勝てる。【事例】自民、選挙区勝ったけど 全有権者2割支持 議席占有は5割超)
後者が是々非々で政治に向き合うと大きな違いが生まれるはずです。

なぜ強行採決見送りが実現されたのか?

以降では採決見送りに至るまでを大きく4つの要因・フェーズにわけて考えてみました。他の材料や異論もぜひ教えてください!

要因1.抗議の声が爆発的に拡散した ※コロナ影響大
要因2.政権とそれを擁護する人が「特例の必要性」をしめせなかった
要因3.抗議の声がおさまらず強行採決に踏み切れなかった/野党も引き伸ばし戦術活用
要因4.強行採決できない間にさらに(政権側にとっての)悪材料が積み上がった

■要因1.抗議の声が爆発的に拡散した

世界でのトレンド1位。累計で1000万件を超える投稿がありました(RT含む。一人で何度もRT可能)

「検察庁法改正案に抗議します」500万ツイートを集めた「最初の1ツイート」はどのように広まったか?(1/3) | ねとらぼ調査隊
https://nlab.itmedia.co.jp/research/articles/22171/

これは、新型コロナ対応の真っ最中という特殊要因が大きいと思います。具体的には、コロナ危機により以下の状況が生まれていたと考えています。

1.(情報収集のために)Twitterを利用している人が増大していた
2.自宅にいる人が多かった => 仕事の合間にネットで国会傍聴
3.政権不信・ストレスが増大していた

私もそうですが、普段はTwitter使わない人がコロナ関連の情報収集のために大量に増加している状況にあります。(プロフィール欄のフォロー数・フォロワー数が非常に少ないこと「コロナの情報収集のために開始しました」と書いている人が多いことからの推測です。)

そして在宅勤務になっている人の一部は仕事の合間に国会傍聴したのではないでしょうか?質疑を見ればどちらに理があるか自明でした。(とはいえ視聴者は4万人程度だったのでさほどではない)

一番大きかったのは「コロナで政権や行政への不信・ストレスが増大していた」からかと思います。

「遅い、愚か、無責任」な政策は憤りを通り越して呆れるしかありませんでした。地理的・人種的・文化的(ここでの文化はマスク装着等の衛生習慣や人との接触や会話の多寡などの意味)に似た条件にあると考えられる東アジア諸国で最悪の結果に顕著に現れています。iPS細胞の山中教授がファクターXと呼ぶ「なんらかの幸運」に恵まれていなかったらと想像するとゾッとします。

【遅い】実効性のない水際対策、オリンピック開催へのこだわり、PCR検査体制/医療資源拡充の遅延
【愚か】アベノマスク、グダグダな給付金手続き、グダグダな統計、非効率(20年前)な業務に疲弊する厚労省・保健所、スマホもろくに扱えないIT大臣とグダグダな情報システム。
【無責任】補償なし自粛強要、休校など現場に丸投げ

そして「不要不急の外出や会食は控えてください」とか言ってるそばで自民党の政治家は「政治資金パーティ」したり、首相夫人は「会食・おでかけ」したりして、「不適切ではないか?」と指摘されても一言も謝罪せずに正当性を主張。その一方で「緩んでいる」と国民を非難・責任転嫁する身勝手な姿勢。そして、極めてグレーな河井夫妻になんら説明させない。

そういったストレスフルな状況で、大多数の国民が望んでいない「不要不急の改正案」の採決を急ぐ。それも「特例」「賛成多数の他法案と束ねて」という目立たないようにする姑息な手段。これで怒りが頂点に達して爆発的に拡散したのだと思います。

その他、多くの人が危機感をいだいた遠因として、義務教育で「国民主権、司法の独立、三権分立が国の基盤」ということを教わっているので、
直感的に「ここに少しでも穴をあけたらまずい。全てが崩壊する」と感じた人が多かったのではないでしょうか?

■要因2.政権とそれを擁護する人も「特例の必要性」をしめせなかった

広がる抗議の声に対して、政権と政権擁護側はいつものごとく「強弁」「揶揄/冷笑」「論理のすり替え」「脅迫」で批判を抑え込もうとしましたが肝心の「特例の必要性」についてまったく回答できていませんでした。
私も考慮不足があると恥ずかしいので「賛成論」を探しましたが、私の意見を覆すようなものはありませんでした。

以下に政権とその擁護側が使った材料の例です。

強弁の例

「問題ない」「黒川氏関係ない」「恣意的な運用しない」 ← 根拠ゼロ!

揶揄・冷笑の例

「またバカが煽られて騒いでいる。特措法、戦争法案の時と同じ」「芸能人は政治に口出すな、歌手は歌ってろ」「野党と抗議している人は非国民で売国奴。足ひっぱってるだけ」

論点すり替えの例(注1)

・高齢化社会/人手不足に対応するために定年延長が必要。
・もともとは民主党が立案。
・検察官は一般公務員と同じ
・検察の暴走を抑える。選挙で選ばれた人が人事権を持つべき

脅迫の例

次章に代表例を記載

(注1)「論点すり替え」に使われた材料へのコメント
高齢化社会への対応で定年延長は必要・・・野党も抗議者も一律の定年延長には反対していない。反対しているのは特例部分。
もともとは民主党が立案・・・事実だが、問題の特例は2020年春になって突然追加された。その間におきた唯一の変化は違法性の疑いのある閣議決定による黒川氏の定年延長
検察官は一般公務員と同じ・・・同時に準司法官であり司法の独立と不可分(森法務大臣の答弁より) なので同じではない。だから検察庁法がある。
検察の暴走を抑える・・・別の問題。司法の独立が侵されて時の政権が暴走するほうが遥かに脅威。内閣でなく国会の圧倒的多数による介入ならありかも。またこれを強く主張していたのがホリエモン氏だったので支持が高まらなかった。

さらに公明党の山口代表(弁護士資格所持)が「丁寧に説明して頂きたい」という他人事のような発言をして「(与党なんだから)自分が説明しろ!」とさらに憤りを増幅させました。

なお、抗議側が思考や主張に使える材料は、野党、有識者、(フジサンケイグループ以外の)メディアがわかりやすく論じてくれているので豊富でした。

【参考】検察庁法改正案を廃案にするために*追記・改定あり | 上越中央法律事務所
https://j-c-law.com/kensatutyouhoukaiseihaian/

■要因3.抗議の声がおさまらず強行採決に踏み切れなかった/野党も引き伸ばし戦術活用

政権擁護派からは「脅迫まがい」の言動も続きました。代表例は「シンドラーのリスト」、陰部おじさんの「歌手やっててしらないと思うけど」でしょうか。

▼シンドラーのリスト
いわゆるアベ友代表格の百田氏が「このリストは永久保存やね」とRTした「抗議を表明した著名人のリスト」。リストに含まれていた女優の裕木奈江さんが「なにこれ、シンドラーのリスト?脅迫を受けている気持ちになりますね。何のためにこれを作っているのでしょう?」とコメントしました。

なお、百田氏やその周辺の人は、こういった行為になんら疑問を持たないようで、諌める人もおらず、未だに公開されています。リプ欄にも醜悪なコメントが並びますので、気分を害される覚悟がある人だけご覧ください。

※なおシンドラーのリストは「シンドラーによって救われたユダヤ人」なので、裕木さんの誤用ではないか?という指摘がありますが「ファシスト政権に虐殺された人々を想起」させるので、訴えたいことは理解できます。

▼陰部おじさんによる「歌手やってて知らないかも知れないけど」
抗議を表明した著名人に「歌手やってて知らないかも知れないけど」ではじまるリプライを送ったり「これは中国の陰謀」「黒川氏の定年延長は合法。理由は閣議決定したから」と主張してる人。

「陰謀」を「陰部」と誤記したまま投稿してしまってから「陰部おじさん」と呼ばれるように。「陰謀論にだまされないように」と主張しつつ抗議の声が拡散したのは「中国の陰謀」と言い出したり、失笑してしまうレベルの主張が多いのですが、政権擁護者からはかなり支持されているようです。(フォロワー数は5.5万人)

採決が見送られたのがよっぽど悔しかったのか、5月20日にはついに森法務大臣に「余計なこと言うな」と。

「安倍政権が続いた時に日本がどういう社会になってしまうか」が可視化された

この二人の投稿によって何が変わったのでしょうか?

安倍政権が続いた時に日本がどういう社会になってしまうか?」が、具体的にイメージできた人が多かったのではないかと思います。

私は恐怖と同時にかつてない憤りを覚えました。

ウーマン村本さんの以下の発言に触発された人は少なくなかったと思います。

黙れという人も、それで黙る人も、あんたらは独裁国家がお似合いだ

キング牧師とマルティン・ニーメラーの言葉に由来する詩も合わせて噛み締めたいです。

『最大の悲劇は、悪人の執勘な暴言ではなく、善人の沈黙』(キング牧師)
ナチスが最初共産主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった 私は共産主義者ではなかったから

社会民主主義者が牢獄に入れられたとき、私は声をあげなかった 私は社会民主主義者ではなかったから

彼らが労働組合員たちを攻撃したとき、私は声をあげなかった 私は労働組合員ではなかったから

そして、彼らが私を攻撃したとき 私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった
  (マルティン・二-メラーに言葉に由来する詩 wikipediaより)

抗議の盛り上がりを背景に、与党内からも異論が公言されるようになります。泉田議員が5月13日にTwitterで「強行採決は言論の府の自殺行為です。するなら退席します。」と与党理事に伝えた旨を投稿しました。ネット上では称賛の声があがりました。

事件はその3時間後におきました。「委員を外されました」と。ここでも異論を許さない安倍政権の独善的、独裁的、強権的な体質があらわになりました。

このように抗議派の憤りを高める燃料が投下され続けたことにより、抗議の声がやむことはありませんでした。

5月8日から10日以上続いたってすごくないですか?

官邸はSNSの投稿を重視・分析している

ここで重要なのは、官邸は「SNSの意見をかなり重視している」ことです。

消費者向け製品を扱う企業は、SNSに投稿される声を重要視していて漏れなく分析しています。この分析のための「ツール」が普及しています。

官邸も間違いなくこのツールを活用して分析しています。総理会見での発言はTwitter由来と感じるものが多いです。たとえば「医療従事者や自粛に協力している国民に感謝の言葉がない!」という批判がTwitterで盛り上がると漏れなく次の会見の冒頭に入るといった感じです。

この分析ツールによって、今回、拡散した声が「ロボットや野党支持者による作為のある水増しは微々たるもの」であり、圧倒的な「民意」であることが理解できていたのだと思います。

【参考】SNS分析ツールを使った分析例
「検察庁法改正案に抗議します」500万ツイートを集めた「最初の1ツイート」はどのように広まったか?(1/3) | ねとらぼ調査隊
https://nlab.itmedia.co.jp/research/articles/22171/

これによって強行採決に踏み切りづらい状況が生まれつつありました。

そして野党は「大臣の不信任案提出」によって審議を中断させて5月15日(金)の強行採決を抑えました。慣例として不信任決議案は他の議案より優先して討論されるためです。(これについて枝野さんが「本意ではないが、やむをえない手段です。」と投稿しています。)

■要因4.強行採決を引き伸ばしている間に、さらに(政権側にとっての)悪材料が積み上がった

そして、5月15日(金)に強行採決に踏み切れなかった事により政権側にとって悪材料が積み上がります。

それは以下の2つです。

・5/15 検察大物OBによる反対の意見書提出
・5/16 支持率大幅下落かつ圧倒的多数(80%超え)が採決反対という世論調査発表

この声を振り切って強行採決すればさらなる反発を招くことは必至です。

さらに、安倍さんが自分の応援メディアで語った「黒川氏と二人で会ったことはない」という発言が炎上します。その発言後にNHKの首相動静検索で検索結果に黒川氏の情報が表示されなくなるという事案も発生して政権不信がさらに高まりました。(検索アクセスが集中してシステムが負荷に耐えきれなくなったので緊急避難的に検索範囲を絞ったのかもしれませんが検証が必要です)


これで週末も変わらず抗議の声が続きました。

ここに至って危機感をいただいた公明党、二階幹事長の働きかけにより、採決断念に追い込まれました。

未だに特例の問題に触れずに「公務員の定年延長は必要です」とだけ繰り返す首相。本当に恐ろしい人物です。

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私の考えは以上です。

なお、上述した以外にも大きな影響力があったものとして、

・地上波の報道
・芸能人が声をあげた
・地元の自民・公明・維新議員への圧力(への呼びかけ)

等があったと思うのですが私はよくわからないので考察から省いています。



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