曲線フェチ
僕は曲線フェチだ、と最近気づいてしまった。
曲線といってもいろいろあるけど。
その中でも、すこし手を加えてしまうとその均衡が崩れてしまいそうな、デリケートで不安定な曲線が好きだ。
ここで言う均衡とか、安定不安定というのは非常に感覚的なものだからもし分かってくれたら幸いだ。
例を挙げてみる。
・ギター(特にストラトキャスター)のボディの曲線
・足つきのソーダグラスの曲線
・コンバース オールスターの踵の部分の曲線
・バンズ オールドスクールのジャズストライプ(ソール横のライン)
・ひらがな(後で述べる)
お分かりいただけただろうか。
ここで分かった人は確実に同士かつ運命の人なので、一緒に酒を飲み交わしましょう。
ちなみに僕が曲線フェチだと気付いたのは先日、喫茶店「さぼうる1」で頼んだクリームソーダのグラスを見てからだ。
独特の丸みを持ったシェイプは僕の心を鷲掴みにすると同時に、曲線フェチへと御導きをしてくださった。
話を本筋に戻す。
真円にはさして魅力は感じない。
真円は確固たるもので、安定した形状をしている。
それはそれで嫌いじゃないんだけども、やっぱり真円以外の曲線の方が見てて涎が出る。
完璧なものよりも不完全なものに魅力を感じてしまう性なのだ。
連邦軍よりジオン軍のモビルスーツのが好きなのだ、諸君。
少し話が飛躍するのだが、曲線フェチという概念は、日本人のDNAに刻み込まれた「もののあはれ」の感覚に寄り添っているのではないかと類推する。
花は散るから美しいというアレ。
いつ均衡を崩してしまうか分からない不安定な形状のものに魅力を見出すことは、そういうことなんじゃないか、と思う。
シンメトリーを追求し、自然の中に人の手を加えて積極的に人工物を作り上げた西洋文化と対照的に、日本文化は自然と寄り添った。
自然と寄り添うということは人工的な完璧さを求めなかったということだろう。
完璧な建物を作ってしまうと悪魔に侵されるという言い伝えすらあったようで、だから日光東照宮には一枚岩の階段の中の一段だけ、二枚の岩が使われていたり、柱の一つをわざと逆さまにしているのだ。
一言で言うと「不完全を愛す」、古来よりの日本人の国民性からすると、曲線フェチという概念は昔から存在していてもおかしくない気がする。
明治時代になると文明開化で洋モノの曲線が輸入されてきた。
眼鏡橋などの石造りの橋のアーチは当時の曲線フェチの心を掴んで止まなかったと思う。知らんけど…
パリのエッフェル塔のボディラインなんかも、19世紀後半の曲線フェチの中ではめちゃくちゃバズったと思う。全部想像だけど…
曲線への想いを馳せていたら、簡単にできる曲線フェチチェックを思いついたので最後に書く。
Q.ひらがなとカタカナどっちの形が好きですか?
A.ひらがなと答えた人は曲線フェチである可能性が高いです。
子供の頃から拘って書いていた特定の文字があったらほぼ確実です。
僕は「す」「の」「ふ」の曲線の部分にこだわりがあります。鉛筆で書くと趣が増すと思います。
また、「け」「は」「ほ」の左側の部分は、真っ直ぐすとんと落とすのではなく、すこし膨らみを持たせて最後にはねます。
このように、なにかしらのこだわりを持っている人は曲線フェチの素質があると思います。
いかがだっただろうか。
ここまで読んでムズムズしてしまった人は間違いないので、街でそそる曲線を見かける度に「あっ」と思ってしまうことだろう。
たまごを割ろうとする度にそのとびきり美しい輪郭に見惚れて、フライパンを焦がしてしまう。
ワインを開ける度にボトルの曲線にうっとりし、注ぐワイングラスを見て酩酊する。
曲線フェチを突き詰めた先に待っているのはそんな人生だ。
何事もほどほどが一番。
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