目を開けてお祈りを 第4話
そんな中、私は牧師先生と会えるタイミングをずっと探していた。中学の間は彼の授業を受けられなかったから。
たまに先輩と話している様子を他学年のフロアで見かけるくらい。挨拶すらろくにできなかった。見かけても、緊張で体が石のように硬くなってしまう。
彼の横を、素知らぬ顔で通り過ぎるのが精一杯だった。たぶんそのとき、息なんてしてない。彼のことは、端正な顔立ちを鼻にかけない、声が低くて素敵な人ということしか知らなかった。
見かけるたびに「どんな人なんだろう。彼女とかいるのかな」と妄想をふくらませた。
先生との接点は、礼拝のときだけだった。
中学二年生の九月。その日の礼拝で話していたのは高校の先輩だった。聖書箇所はヨシュア記 一章 九節、
「恐れてはならない。どこへ行くにも、主があなたと共におられる」
先輩は高校一年生の秋から高校二年生のこの夏までの一年間、ニュージーランドに留学していた。
ホストファミリーはフレンドリーで優しかったとか、ダンス部に入って現地の友達をたくさん作れたとか、プロムというパーティーではドレスを着たとか。
私は先輩の話より、その日司会をしていた牧師先生が頷く様子に魅入っていた。
「私も留学したいんだよね」
礼拝の後、マナは興奮気味だった。目をキラキラさせている。
「そうなの?勉強熱心だな~」
「サナエも今日の話聞いてたら行きたくなったんじゃない?一緒にいっちゃおうよ」
「英語なんてできないよ」
「無理やり環境を変えれば、何とかなるって」
その日から、もともと英語が得意なマナは、ますます熱心に授業を受けるようになった。放課後マナと一緒に宿題をすれば、自分で悩まなくても、彼女のノートを見れば答えがわかるので楽だった。
「私はあなたの辞書じゃないんですけど?」
「マナ様、神様、仏様~!」
私は、宿題を助けてもらう代わりにと、約束していたコンビニのアイスを手渡した。
「留学、やっぱりお金かかるみたい。でも、高校で英語コースに進学したり、必要な成績や資格が取れてたら奨学金が出るみたいなの」
「なるほどね、マナならいけるっしょ」
私は垂れてきたソフトクリームを舐めながら言った。
「サナエは興味ないの?」
「あんまピンと来なくてねー」
「ありえなーい!」
マナは呆れた。
駅に着くと、見覚えのある人物がベンチに座っていた。
ナオキ君だ。
「おつかれ」
「こんなところで会うなんて珍しいね」
「ね、通学路は同じなんだから、もっと早く会ってても不思議じゃないのに」
マナは方角が違うので向かいのホームにいる。
(だれ?)
と口パクで聞いてくる。
(ともだち!)
こっちも口をパクパクさせる。
電車が来たので伝言ゲームは終わり。ナオキ君は大きなカバンを周りの邪魔にならないように車両の端に寄せる。
「さっきの子は友だち?」
「うん、一緒に宿題してたんだ。あの子も英語が得意なんだよ」
「だから僕に質問してこないのか~」
「いやあ、ナオキ君の勉強の邪魔しちゃ悪いし」
なんだか気まずいので話題を移す。
「そういえば、ナオキ君は留学とか興味ある?」
「なに急に?別に興味ないかな、旅行ならいいけど。ホームステイとか、人様の家に一ヶ月もいるのはちょっとね」
「わかる、耐えられないよね。海外旅行するならどこがいい?」
ふいに電車がガタンッ!と大きく揺れた。私たちはバランスをくずし、彼が私に壁ドンする形になってしまった。
「わっ、ごめん」
女子と至近距離になるのは慣れてないのだろう。少し彼の顔が赤い。
「大丈夫だよ。でもこういうのはイケメンにされたかったな」
「なにそれ、ひど」
「ごめんごめん、後でお菓子おごるから」
ふと視線を感じた。目をやると、他のクラスの子たちがこっちを見てヒソヒソと話をしている。私と目が合うと、彼らは目を逸らし、自分たちの話に戻っていった。
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