【小説】イマジナリー 第1章
第1章 再会
「何にもない街を散歩しても、それなりに楽しむことができる」と、父は言った。コンクリートの割れ目に咲くカタバミ、口から出る白い息、車の窓を伝う水滴、日ごろ気にも止めないものに夢中だった私は、父の言葉にピンとこなかった。しかし、大人になるにつれ、日常生活は陰り、退屈になっていった。ガラスコップの水滴に人差し指を着けても、心に風が吹かない。変わらない景色を楽しむことのできる父は、ある種の才能があったのだろうとふと感慨にふけた。
空気が抜けるような音がして、扉が