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天性の言葉の艶

 林浩平『心のどこにもうたが消えたときの哀歌』2010。
 吉増剛造論でも知られる詩人の、第三詩集かな。夢魔を描いた散文詩と行分け詩。語られる夢は、天澤退二郎ばりの奇妙な歪みを持ったもので、夢を扱っていないものも叙述の裂け目に陶然とさせられるタイプの作品が多い。
 「鳩の広場にて」は、彷徨の詩篇と、会田綱雄と会えなかったという注記の関連が、率直に言ってよくわからず、そこに立ち止まらされる面白さがある。
 表題作は、「きみ」への呼びかけで夢を語り、最後に「きみに話したこの夢を どうかずっと 憶えていてほしい。そして いつかきみとふたりで この海沿いの村を訪ねよう。いまごろはあの村に 夏との別れを知らせる蜩の声が聞こえているだろう。」と閉じられる。おそらく天性の言葉の艶と闘いながらの詩作なんだろう。

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