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兵庫県洋舞家協会洋舞スプリングコンサート~コンテンポラリーとの出逢い(2015.3)

新神戸オリエンタル劇場 2015年3月1日
 何度かこの洋舞スプリングコンサートを観ていて、また昨年の「第51回なにわ藝術祭 全日本洋舞協会合同公演 オールコンテンポラリープログラム」(2014年6月、サンケイホールブリーゼ)を観た時にもそうだったが、「コンテンポラリー」の幅、その縁のなさに頭を抱えることになる。まずは「創作作品であること」ぐらいを大枠として、多様性を目の当たりにする、といったところなのだ。コンテンポラリー(同時代)であることを意識しない単なる新作、テクニックの開陳に留まるようでは、古典をしっかり押さえてそこに現代性を付与できた方がはるかにすばらしいと思う。洋舞家協会は、基本的にバレエとモダンダンスのカンパニーから成っているので、それをベースにどのような現代性を獲得することが可能かを、模索し続けていることになる。
 今回は第2部からしか観れなかったのだが、モダンダンス、ラテン系のジャズ、コンテンポラリーバレエの、まずはダンサーの技術レベルの高い作品が並んだ。
 河合美智子モダンダンススタジオ「涙する十字架」(振付:河合美智子)は、バレエやモダンの優れたダンサー6人(河合、宮澤由紀子、牛田真紀、井上朝美、松原博司、稲毛大輔)による作品で、コントラクションの強さなどに見られる運動量の大きさ、作品の世界観を共有した上での感情表現の豊かさが印象的だった。タイトルの十字架が終盤まで出てこず、どのように処理するのかと思っていたら、銃声と共に光が真紅に変わり、全員が倒れて舞台奥に十字架が映される。モダンダンスらしい直接性なのだが、あえて提示せずに想像させるだけでも十分だったのではないかとも思った。表現というのは難しい。
 れい美花Dance Studio「THE LIVING TREE」(振付:麻咲梨乃)は、非常に運動量の大きい、ジャズダンスの小品。タイトルは、普通には「立ち木」「立っている木」というほどの意味だが、いろいろな出来事や言葉を思い出すことができる。音楽(John Beltran「Americano」)の焦燥感のある鋭さ、動きの前のめり感に反して、ダンサー(本間紗世、藤本瑞紀、天井芹菜、れい) が終始笑顔で悲壮感がなかったのが、非常に面白かった。希望の見える、後味のいい作品。れい、麻咲は宝塚歌劇団のOG。見せ方、楽しませ方をよくわかっている上で、それだけに留まらない深みを感じられたのがよかった。
 BMBバレエ団/馬場美智子アカデミ・ド・バレエ「Jenga」(振付:長谷川まいこ、坂田守)は、2人のダンサー(矢羽田早苗、藤永純)によるデュエット作品。Jengaはスワヒリ語で「組み立てる」という意味。黒いストイックな衣裳の2人が左右に大きな振幅をとる印象的な動きで組み合い、離れ、また組み合うという繰り返しを重ねていく。ダンサーの動きにもう少しブレーキがあれば、もっと味わいが出たように思う。
 今岡頌子・加藤きよ子ダンススペース「連禱『鉄をのろえ』」(振付:加藤きよ子)は、難しい作品だった。ある事実が祈りを必要としたり、ある感情を生成したりするとして、その非言語(身体言語ということも含めて)の上澄みだけを掬い取って構成しているような、捉えにくい、しかし純粋さというものに直面できる作品。プログラムには「戦禍に散った人たち」に捧げる祈りであると書かれているが、中央で5人のダンサー(河邉こずえ、嵯峨根結実、長尾奈美、三好美希子、山本留璃子)が小山になり、ばらしという繰り返しの不毛さが印象に残っている。タイトルは、使用楽曲であるヴェリヨ・トルミスの合唱曲「雷鳴への連祷」(1974)収録曲の名。エストニアのこの作曲家が戦争の邪悪さについての寓意をまとめ上げたもので、ソ連政府によって上演禁止とされていたそうだ。
 貞松・浜田バレエ団「TWO」(振付:中村恩恵)は、同バレエ団の「創作リサイタル26」(2014年9月)で初演されたもの(写真は初演時、神戸文化ホール中ホール)。ベートーヴェンのピアノ曲「月光ソナタ」(第14番嬰ハ短調)に乗せて、ベケットの詩「ある夜」をモチーフに生み出された静かな作品。花を探して野辺を彷徨っていた老婆が、横たわる青年を見つけた…という詩に基づいているそうだ。
 初演時から、まずその静謐さが印象に残っているが、改めて観ると、その詩の言葉をなぞることなく、寥々たる寂寞感とかすかに灯される希望または愛を的確に現出させる振付の力、2人(堤悠輔、小田綾香。初演時も)のダンサーがキャラクターを変容させながら次々と新しい世界を見せ、ついにはほのかな温かみを感じさせてくれる展開力、静謐と闇の中に時折浮かび上がる光や色彩のきらめきなど、ダンサー、振付家の力の深さにしみじみと感じ入ることになった。
 振付の中村は、世界のコンテンポラリーダンスを牽引するイリ・キリアンが芸術監督を務めていたネザーランドダンスシアター(オランダ)に1991年から1999年まで所属し、2007年から日本に活動の拠点を移している、優れたダンサー、振付家。ダンサーの堤はオランダのバレエ学校に留学後、オランダのカンパニーでキリアン作品などを踊り、今は貞松・浜田バレエ団でキリアン作品などコンテンポラリー・レパートリーを取り上げる際の中心的な存在となっているようだ。このバレエ団は毎年開催する「創作リサイタル」で団員の創作作品、内外のコンテンポラリー作品を過激なまでに積極的に取り上げ、日本のバレエ界の現在性を確保する貴重な存在となっている。
 最後の江川バレエスクール「Memoria」(振付:湯川麻美子)は、シルエットからの始まりが美しく、11人という大勢の群舞で、カーニバルを思わせる楽しさがあり、軽快で楽しいエンディングとなった。

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