愛がゴミ袋に行き着くのは~寺田みさこ「愛音-AION」2007年7月びわ湖ホール

 これまでデュオで高い評価を得てきた寺田みさこの初ソロ作品「愛音」は、饒舌で静かで、美しくて猥雑な、多義的な作品となった。
 タイトルの通り愛をテーマにしているわけだが、男女間の愛(性行為)を思わせる動きを執拗に続けたり、真っ赤な光の中に後ろ姿で十字架の形を作ったりと、エロスからアガペーに至る愛の諸相を体現する。
 中でも、エロスに対するこだわりは、表面的には非常に激しく強調されているので、観客はそのことに狼狽する。こんなにも卑猥な行為を延々と見せつけられて、これは芸術としてふさわしいのだろうか、などと。しかしやがて、寺田があくまで無表情で、号令に合わせた体操のように無感情にただ反復しているだけのように見えてくる。髪を丸刈りにしているため、その姿は少年のようにも見え、そのエロスが同性間のものか異性間のものかも宙ぶらりんにされる。最初は観客を狼狽させた動きも、美しく正確に執拗に反復されることで、徐々に意味が剥ぎ取られ、観客は混乱する。
 このような混乱を与えるために、ダンサーはクールな表情と完璧なテクニックを把持したまま、炸裂し崩壊した機械のように単調に動き続ける。それがこの作品の醍醐味だったといっていいだろう。ラストで全裸の寺田がゴミ袋に入り、舞台中央の井戸のような水面にポチャンと身を投げたのは、壊れた愛の抜け殻の末路のようで、度肝を抜かれた。
 この作品は、びわ湖ホール夏のフェスティバルの一環として行われた。黒田育世を中心とするBATIK「ペンダントイヴ」もやはり、走ること、叫ぶことの執拗さが天井を突き抜けるような快感となる、エネルギッシュな作品。びわ湖ホールの上原恵美館長、コーディネイターの志賀玲子、黒田、寺田によるアフタートークでは、びわ湖ホールがコンテンポラリーダンスに取り組む意義が明確に語られ、意義深かった。
(京都新聞掲載)

びわ湖ホール夏のフェスティバル2007

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