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LOVERS-愛するものたち Vol.1-現代音楽とコンテンポラリーダンス(2015年1月)

「LOVERS-愛するものたち Vol.1-現代音楽とコンテンポラリーダンス」
会場:兵庫県立芸術文化センター 神戸女学院小ホール
作曲・ピアノ・演出:久保洋子
ダンス・振付:村上麻理絵
フルート・ピッコロ:ピエール・イヴ・アルトー、オーボエ・ルポフォン:マルティン・ブリッゲンストーファー、ダンス:長尾奈美、林めぐみ

 久保洋子の舞台作品に何度か接して、彼女自身の「多面体であろうとする執念」のようなものを感じて、ややもすると、たじろぐ。作曲家、ピアニストである彼女が、「音楽とダンスが見事に融合した…『春の祭典』 」 のような世界を作り上げたいという願いから、取り組んだ企画である。
 久保の企画では「未来の音風景」も拝聴したことがある。2013年6月の能「鉄輪」 (シテ:梅若猶義)、新作「KANAWA」(ダンスと音楽のコラボレーション)の連続上演は、非常に意欲的でとんがった企画だった。
 久保はピアニスト、作曲家として一流のキャリアを持っている。また、研究者として、パリ留学中に日本人と西洋人の感性の違いに気がついたことから、現代音楽の作品を分析し、日本人作曲家が自国の伝統をどのように考えているか、西洋の作曲家が日本の伝統芸術からどのような影響を与えられたか、を考察する論文で博士号を取得している。
 一方、その研究の延長上にあると思われるが、十年来謡と仕舞を習い、おそらくはそこで習得する能楽の身体技法との比較検証という見地からだろうが、バレエも習っているという。
 その経験を活かして、久保はこの作品でも、作曲、ピアノ、パーカッション、ヴォイス・パフォーマンス、そしてムーブメントと、多面的な才能をフルに発揮した。
 音楽については、ピアノと木管楽器、打楽器のアンサンブルで、劇的でダイナミックなところもあり、木管の多彩さを活かした柔らかな美しさも堪能でき、非常にエキサイティングだった。アルトー のフルートは、素人の耳にも一流であることがわかるものだったし、ルポフォン という楽器の音色を知ることができたのも面白かった。前半は通常のホールの使い方、後半は、「床面は八角形の平面形状ですが、天井面では花形を構成するという大変ユニークな形状」というこのホールの空間特性を存分に活かし、客席の後ろや舞台の上方にも演奏者を配置し、また打楽器を持った久保が客席後ろからセイレーンのように現れて何かの儀式の中で人々に警鐘を鳴らす使者のように声と共に会場を一巡りした。
 ここで久保が多面体であろうとすることについて、その意欲や執念のようなものをぼくは非常に高く評価し、期待も希望もするのだが、やはりどうしても彼女自身円熟しているとはいいがたい分野のパフォーマンスについては、円熟していないことで生じる魅力を発見し、追求することが必要なのではないかと思う。
 村上の振付については、現代音楽の複雑な曲調や時間感覚、おそらく音楽の背後にあるのであろう物語を踏まえて、複雑な作業になったと思われるが、長尾、林のそれぞれの美点をも活かしながら、のびやかで生き生きとした動きを展開したといえよう。身体の重なりと広がりの緩急が美しく、空間の広がりを感じることができた。
(画像は同公演のFacebookから)

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