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宝塚歌劇団雪組『ルパン三世―王妃の首飾りを追え!―』『ファンシー・ガイ!』(2015.1)

ミュージカル『ルパン三世―王妃の首飾りを追え!―』
 原作/モンキー・パンチ  脚本・演出/小柳 奈穂子
ファンタスティック・ショー『ファンシー・ガイ!』
 作・演出/三木 章雄

 トップコンビ(早霧せいな、咲妃みゆ)お披露目公演でもあり、あの「ルパン三世」を宝塚がいかに料理するかという興味もあり、連日立ち見が出る大入りの公演となった。
 「ルパン三世」のほうは、マリー・アントワネットが所持していたという王妃の首飾りの魔力で、ルパンらが フランス革命前夜のパリにタイムスリップしてしまうという設定で、時間移動のために例のカリオストロ伯爵の秘術の力を借り、あろうことかマリー・アントワネットのギロチン台に細工を施して、彼女を救出してしまうというドタバタ劇に仕上げた。
 ところがこれがドタバタと落ち着きのない舞台にならなかったのだから、たいしたもの。これは、メインキャスト陣のスピード感にあふれるシャープな役作り、演出によるものだと思われる。キャラクターの特徴を忠実に写し、そのものになりきりながら、宝塚特有の上品なスタイルも失わず、結果的に「ルパン三世」が持っているスタイリッシュなセンスを強調する、理想的な舞台化だったのではなかったか。
 この公演で退団する夢乃聖夏(ゆめの・せいか)が銭形警部。以前「Shall We ダンス?」 で、映画では竹中直人が演じた主人公の同僚役を快演したのに続いての、コメディ担当。思い切った役作りで、客席を笑いの渦に巻き込んだ。宝塚でこういうコミカルな役に当たる時に、品を失わないか心配になるのだが、まずそういうことがないのは、一つには、身体の線が下品に崩れないからだろう。ただ、2回目のタイムスリップの後でロベスピエールの側近となりながら、最後のどんでん返しでマリー・アントワネットを助ける行動に出るところの脈絡が見えにくいのは、脚本がやや急ぎすぎたか。
 花組から組替えしてきた望海風斗(のぞみ・ふうと)は、カリオストロ伯爵役で、やや抑え気味、意外にしどころのない役柄にとどまった。彼女の最良の特質である歌にも意外に伸びがなく、様々な意味で遠慮がち~退団する同格の夢乃への配慮も含め~であったのかと、次作に期待したい。
 次元(彩風咲奈 あやかぜ・さきな)と五ェ門(彩凪 翔 あやなぎ・しょう)が我を前面に押し出さず、クールに演じきったのもよかった。難しいと思われた峰不二子役の大湖せしる(だいご・せしる)が、不二子らしいポーズをいちいち完璧に決めながら、セクシーでキュートでスタイリッシュな役作りに成功。元男役の娘役でなければできないだろうと思われる大胆さと奔放さで、舞台のアクセントとなった。
 以前から演技と歌に非常に秀でた娘役として定評がある咲妃(さきひ)は、マリー・アントワネットという宝塚の代名詞とも言える大役に挑戦。本作では「ベルサイユのばら」とは違って、アントワネットがケラケラ笑ったり、お忍びで庶民の姿になってルパンと街へ繰り出して酔っ払って帰ってきたり、そして「ベルばら」そっくりな牢獄の場面もあり、最後にはアントワネットの子孫として現代女性と、振れ幅の大きな演技が要求されたが、文句なしの好演。品と愛らしさが際立っていた。
 早霧(さぎり)のルパンは、とにかく見ていて楽しかった。作品全体にいえることだが、原作のスピード感を的確に把握、体現できたことが、何よりの成功の原因。やや不安のあった歌も、そのスピード感にも助けられ、難なくこなした。山田康雄のルパンを髣髴とさせる「ふーじこちゃ~ん」「あーったたたたた」といった決め台詞や口真似、またベタなアドリブもごく自然に繰り出され、いやみが全くなかった。
 新聞評などで、これはもしかしたら宝塚の新しい財産になるかもと評価され、モンキー・パンチも絶賛しているなど、内外の評価も高かったようだ。この作品の後味のよさは、マリー・アントワネットを殺さないという無理筋が、非常に巧みに鮮やかに展開されたことによる。マリーがルパンに「私の将来はどうなるの?」と戯れめかして問いかけた時に、多くの観客は息を呑むはずだ。一呼吸おいてルパンは、「子供や孫に囲まれて夫婦仲良く暮らすさ」と答えるが、これにも観客はため息をついたはずだ。しかしそれがごくシンプルなトリックで現実のものとなり、なんともすがすがしい気分になったのではないだろうか。
 「ベルばら」のサイドストーリーは、近年「スカーレット・ピンパーネル」「ジャン・ルイ・ファージョン-王妃の調香師」など数多く上演されているが、これほど上質なパロディが出てくるとは思っていなかった。
 ショー「ファンシー・ガイ」、オープニングの後ろ姿の早霧には、もう少しスケール間を演出してほしかった。ひときわ華奢な早霧の魅力をどうアピールしていくか、公称で早霧168cm、望海169cm、そして彩凪170cm(彩風は173cmでまあまあだが)という、比較的小柄なスターの多いこの組で、バランスとスケール感をどう活かし出していくのか、今後の課題となるだろう。
 香綾(かりょう)しずる、舞咲(まいさき)りんに歌で素晴らしい場面を与えたのは喜ばしかった。彩風が女役で出てきたのには驚いたが、ぎこちないながらも意外と自然で違和感なく、その分インパクトもあまりなかった。望海と夢乃の「Time to Say Goodbye」では夢乃の歌がうまくなっていて驚いたが、退団する夢乃の見せ場にこの組合せがよかったのかどうか。夢乃をエトワール に置くぐらいなら、彼女のソロの場面を一つ作ってやってほしかった。
 このショーは全体にさらっと流れるふうで、テンションが上がったり強い印象に残ったりする場面に乏しく、ベテラン演出家が手持ちのアイデアを組み合わせたような印象に終わった。
写真はhttps://kageki.hankyu.co.jp/lupin/report.html  制作発表会

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