落書き小説①いずれ、彼女に話すべきことのすべて

「クビにされたって聞いたわ」

 クリスティーナは息せき切って研究室の扉を開いた。目的のレイリー・リリイ研究員は、部屋の隅で小さくなって座り込んでいた。脇に置かれたキャリーバッグには、大量の書籍や論文類が無造作に押し込まれていた。

「突然押しかけてきて、事故現場を見たような顔するなよ。所長と意見が合わなかっただけだ」

 レイリーは眉をひそめ、目を逸らした。涙袋には濃いくまができている。

「青ざめた顔でいわれても信じられないわ。いくら研究より媚びを売るのが得意な所長でも、突然クビにするって相当よ。本当はなにがあったの?」
「教える必要はないと思うがね、クリスティーナ・パディントン? 君は聞かないほうがいいことだし、私はいいたくない」

 クリスティーナは喉まで出かかった反論を飲み込んだ。レイリーは高校生の頃から、決めたことは頑として譲らない少女だった。二十年経っても、頑固なところは変わらない。

「いくら私が心配しているといっても、話す気はないのね」
「わかっているなら放っておいてくれ。終業までに荷物をまとめねばならん」

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