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資金調達率とOIってなんだろう?【初心者向け】

皆さんは資金調達率(FR)やOI(未決済建玉)というワードをご存知でしょうか?あまり詳しい意味や性質を知らないままトレードをしている方も多いと思います。取引に必須の知識ではないのですが、それらの本質を知ると価格変動の裏で何が起きているかがわかってくるので、この機会に理解を深めていきましょう。

本記事は、以下のような構成となっています。


Part1 資金調達率(funding rate=FR)とは

1-1 資金調達率の概要


 資金調達率(FR)主にロングポジション所有者がショートポジション所有者に支払う金利のことです。およそ一日に3回、規定のタイミングで金利が発生し、ロングポジション所有者はそのタイミングを超えてポジションを持ち続けると強制的に金利を支払うことになります。これは、ポジションを所持しているだけで定期的に引かれていきます。

資金調達という言葉はその名の通り、”資金”の”調達”です。一般的には、何か事業を起こすために他者から資金を借りること(調達すること)を意味します。今回の場合では、先物取引にて自身の持つ証拠金を超える大きさのポジションを持つ際に超えた分の資金を調達することを指します。つまり、レバレッジをかけた分のお金は本来は自分が持っているお金では無いため、他者から借りる必要があり、それの金利支払いが資金調達率として計算されるのです。

資金調達率は基本的に0.01%で推移します。大抵の場合、所持するポジション総数に対して0.01%の金利が一日に3回発生します。では、どれくらいの金利が取られるのか計算式を見てみましょう。
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資金調達料=取引枚数xポジション構築時の価格x資金調達率
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例えば、市場価格10,000ドルで10BTCロング、資金調達率0.01%の場合を計算してみます。資金調達手数料= 10,000×10 x 0.01%= 10(USD)です。金利は一日に3回発生するので、一日ポジションを持つと30ドル手数料がかかる計算です。

この計算式や計算の重要性については後ほど解説しますので、ここでは頭の片隅に置いてもらって次に進んでください。

資金調達率は市場環境によって変動しています。ひとまず、以下で資金調達率の確認方法をチェックしてください。その後、資金調達率や金利の仕組みについて触れていきます。

 1-1-2 資金調達率の確認場所

資金調達率はさまざまな場所で確認できます。取引所によって変動するため、細かくチェックしたい場合はそれぞれの取引所の取引画面に表記されています。以下にBybitの画面を掲載します。

BybitのBTCUSDT無期限取引画面

BTC価格の横に「資金調達率/次回まで」と書かれている欄があります。表示されている0.0100%はその時点での資金調達率で、「次回まで」とその下の「カウントダウン」は資金調達率の更新タイミングを示したものです。資金調達率は8時間ごとに変動し、更新タイミング(協定世界時0時/8時/16時)を越えた際にポジションを持っているときに金利が支払われます。逆に言えば、更新タイミング前にポジションを決済すると金利支払いや受け取りは発生しません。

なお、相場が急落したり暴落が発生したときは、資金調達率が一時的にマイナスの数値になることがあります。このとき、ショートポジション所有者がロングポジション所有者に金利を支払うことになります。

取引所の取引画面の数値が最も正確ですが、私はcoingrassというサイトの資金調達率ページ資金調達率ヒートマップ高機能チャートの資金調達率欄を見ています。こちらの方が見やすさや相場感を把握しやすくなります。それぞれの見方を説明します。

資金調達率ページ

coinglassの資金調達率ページを開くと以下のような画面が確認できます。このページでは、取引所と銘柄別で資金調達率を細かくチェックできます。私は取引所間の資金調達率の差を確認する際に利用しています。理由は後述します。

coinglass 資金調達率

上記の表を確認すると、取引所や銘柄によって取引高や後述するOIに差があるので資金調達率が異なっていることがわかります。概ね0.01~0.02前後で、銘柄や取引所次第で0.05以上に高騰していることがわかります。私はこの画面で自分がポジションを持つ銘柄かつ取引所の欄をチェックしています。次に、画面左上の「現在の」となっている欄を「30日」と「1年」に変更しましょう。

1年間の資金調達率を表示しました。現在の資金調達率のまま維持されれば1年間でこれだけの金利が発生しますよという意味です。実際には定期的に変動するため、チェックする日によって年間の資金調達率は変動します。画像の年間金利は「やや高い」~「高い」ぐらいです。最初のうちは定期的に確認し、動きの変動を確認しながら高いか低いか見てみると良いです。なお、金利が100%に達するとポジションが消滅します。

このサイトからわかることは、取引所間の資金調達率の格差、すなわち取引所間でのロングやショートの過熱感の格差です。過熱感については後述しますが、これがなぜ重要かと言うと、それぞれの取引所を使うユーザーの性質に違いがあるからです。例えば、BitMEXやBitfinexは大口投資家(いわゆるクジラ)が主に利用する傾向にあり、一方で小口投資家は比較的後発のBinanceやOKX、そして特にbybitとBitgetを利用する傾向にあります。このことから、小口投資家が利用する取引所の資金調達率が目立って高いと、彼らが損切りをせず耐えている可能性があります。こういった特徴を使って、「まだ養分が諦めてないから下がるだろう(上がるだろう)」「bybitのロンガーがイキってるからまだポジれない」といった憶測ができます。

資金調達率ヒートマップ

資金調達率ヒートマップは、期間や銘柄ごとに色別で資金調達率を重み付けしたツールです。一目ですぐ理解できるので、資金調達率の高騰をざっくり把握できます。緑が健全、黄色やオレンジ色が高騰を意味します。

私は基本的に毎日チェックしており、高騰しているときだけ先ほどの資金調達率ページを見て詳細に数値を確認しています。このページで重要なのは、仮想通貨市場全体が短期的に過熱感があるかどうかをざっくり測れるということです。黄色が増してきたらロングが積まれすぎており、緑に変化したらロングが清算されて市場がフラットになっていると思ってください。ロングが過熱すると価格が上がりにくくなる傾向があります(理由は後述)。

高機能チャートの資金調達率欄

高機能チャートでも資金調達率を確認できます。画像の下の欄です。ここでは、長期的な資金調達率の変化を価格チャートと共に確認できます。緑がプラス、赤がマイナスを意味します。短期から長期まで、幅広くトレンドを把握できます。

ローソク足の時間軸を変えることで資金調達率の変化を細かくチェックできるため、非常に扱いやすいです。

先ほどのヒートマップと異なり、色ではなく棒グラフで表示されるので急騰がわかりやすいです。プラス方向に大きく膨れ上がったときは急落や中長期的なトレンドの終了を警戒します。

1-2 資金調達率の仕組み

前節で資金調達率はロングの過熱感と関連性があるということを説明しました。これについて、おさらいしながら詳しく深りします。

●資金調達率の変動について

資金調達率はロングやショートの過熱感によって変動します。なお前提として、ロングとショートは常に1:1で推移しており、ショートポジションと同じ量が市場に存在します。当たり前ですが、市場参加者の全員がロングポジションまたはショートポジションを持つことは不可能です。売る人がいて初めて買うことができるからで、逆もまた然りです。つまり、「ロングの方が多い」「ショートに偏っている」という表現は厳密には誤りであり、ロングポジションの構築は対極となるショートポジションが市場に提供されていないと約定されないのです。

しかし、特定の価格帯におけるロングポジションとショートポジションの偏りは存在します。あくまでも、市場全体ではロングとショートの総量は一致するが、価格帯別では必ずしも一致するとは限りません。この「特定の価格帯におけるロングとショートの量の不一致・偏り」が資金調達率に変動として現れるわけです。これについては、「3-1 精算ヒートマップの確認方法」で詳しく述べていきますので、今はそういうもんだとなんとなく把握してもらえれば結構です。

次に、資金調達率がなぜ上がるか下がるかについて触れていきます。

まず基本的な話として、資金調達率は先物市場にある概念で、現物市場には存在しません。なぜなら、資金調達率は先物市場と現物市場の価格乖離を減らすための概念だからです。ご存知の方もいると思いますが、実は先物市場と現物市場では取引高や取引方法が異なるため、同じ銘柄でも値動きや価格が若干異なります。極端な話ですが、先物市場でショートポジションやロングポジションが短期的に大量清算された場合、先物市場では急激なボラティリティが生じますが、現物市場で取引が少なかった場合は現物市場への値動きの影響は少ない(=先物市場との価格乖離が起きる)です。同じ銘柄だとしても、先物市場と現物市場では価格が異なるのです。

別の言い方をすると、先物市場は現物市場と異なり、トレーダーのポジションのロスカットによる大幅なボラティリティが発生します。故に価格の乖離が起きやすいのですが、価格の乖離が極端に広がった場合に資金調達率、すなわち金利を上げることで新規のポジション構築を減らしているのです。特に、価格が上昇し続けている場合は、トレーダーにロングをさせにくくするために金利を上げてポジションの解消を促します。

一方で、金利が上がるということはショートポジション保有者は高い金利を受け取れるわけなので、それを狙ってあえて高値圏でショートをする投資家も増えていきます(無論、逆張りや急落、トレンドの転換を狙ったショーターも増えます)。

このようにして、資金調達率(金利)の存在によりロングポジション所有者とショートポジション所有者の均衡(1:1の比率)は知らずのうちに保たれているのです。

------------コラム 金利と市場の関連について-------------

 金利と金融商品の関係についても触れておきましょう。基本的に、金利が上がると金融商品(株式、金や銀などのコモディティ、暗号資産など)は売られる傾向にあります。どういうことでしょうか?

まず、金利が上がるということは国債や定期預金の金利(利息)が上がることを意味します。投資家は、できることなら下落リスクのある株式などの金融商品より、安定して利息が貰える国債や定期預金に資産を移動させた方が安心ですから、金利が高い時はそのような安全資産の割合を増やします。一方で、金利が下がったときは国債や定期預金に資産を塩漬けしていても利益が少ないため、リスクを取って株式市場や暗号資産のマーケットに資産を移します。これが、金融緩和で株式市場が活発化し、金融引き締めで鎮静化する理由です。10数年前、日経平均株価が震災や円高などで低迷したとき、アベノミクスという大規模な金融緩和をしたことで株式が上昇トレンドに回帰したのはそういう仕組みです。

金利が高い→金融商品は下落、通貨や国債の価値が上がる
金利が低い→国債が売られ、金融商品が上昇する

金利の変動は、市場に出回る国債の売買だけでなく、各国の中央銀行などの機関の発言によって左右します。金融引き締め・金融緩和は政府機関や中央銀行が決定しますので、彼らの発言は市場に大きな影響を及ぼします。多くのトレーダーがFOMCや金融政策決定会合に注目するのはそのためです。 
   
彼らの発言がタカ派(金利up・引き締め)なのかハト派(金利down・金融緩和)で金融商品の価格が変動します。インフレやデフレなど経済状況によって金融引き締めか緩和か変化しますが、これについては次のコラムで解説します。ひとまずは、金利の変化が市場の値動きに影響を及ぼすことだけ覚えてください。
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話は資金調達率に戻ります。おさらいですが、資金調達率は先物市場での急激なボラティリティの増加による価格乖離を抑えるためのもので、資金調達率の変動によりロングが過度に積まれたときに新規のポジションの構築の防止と現在のポジションの解消を促すためのものと説明しました。

この性質から、資金調達率が上がっているときは市場がアップサイド(価格上昇)を期待しており、高値圏でロングポジションが増えているだろうと判断できます。

1-3 資金調達率が上昇目処の指標になる理由について


次に、ではなぜ資金調達率が上がると価格が上昇しづらいかについて解説します。まず、本記事の最初で触れた資金調達率の計算方法を思い出してください。以下の計算式です。
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資金調達料=取引枚数xポジション構築時の価格x資金調達率
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ここで大切なのは、資金調達率がプラスの場合、ロングの枚数が増えれば増えるほど資金調達料が上昇し、そして、ポジションを持ち続けるほどスリップダメージのように手数料を払い続けなければならないということです。つまり、巨額の取引または長期間の取引をすればするほど手数料がかかります。

上記の前提を抑えたうえで、一旦ここでトレードの基本を思い出してください。投資家は主に以下の3つの投資方法に分かれます。

①現物投資
②証拠金多め×低レバで長期ホールド
③証拠金少なめ×ハイレバて短期取引

現物投資は資金調達率に無関係なので①は無視します。②の証拠金が多い人は低レバでも利益が取りやすいですし、逆に言えば損切り金額も大きくなるのでレバ低めにロスカット水準も広めに取ります。一方で、③の人たちは、はじめからロスカットありきのハイレバトレードをする人たちです。短期取引に特化して、少しの値幅で利確をする取引方法です。資金調達率が上がると価格が上昇しずらい原因は、主に③の投資方法をする人たちの増加にあります。

③の取引方法では、ハイレバ故に取引枚数が多く、結果として高い資金調達料を支払うことになります。資金調達料は証拠金から引かれることになるので、証拠金が少ない③の投資方法だと長期間ポジションを持つことは難しくなります。そのため、③の短期ハイレバ勢はすぐに利確を進めることになるのですが、この利確によって銘柄の価格上昇に歯止めがかかる仕組みです。

まとめますと、市場価格が上昇する→価格上昇を期待したハイレバロング勢が増える→ロングの過熱により資金調達率が上昇する→資金調達料の上昇を警戒してハイレバロング勢が早々に利確を進める→価格が上がらないor短期調整が進むということです。

しかし、資金調達率の高騰だけで短期調整や急落予兆とするのは危険です。確かに、上記の説明のとおり、先物市場では利確を促す指標になるのですが、実際に急落や調整に入るとは限りません。なぜなら、資金調達率が高くても現物が買われれば価格は無理やりにでも上昇するからです。あくまでも資金調達率の高騰の警戒は先物市場だけの話であり、現物市場とは無関係なわけです。この前提を胸に刻んでおきましょう。

余談ですが、市場がバブル相場の時は、資金調達率の高騰を無視して高値圏のロングの増加を放置したまま現物市場による買いにより無理やり価格を押し上げていく傾向にあります。そのため、バブル相場における資金調達率の高騰は、それだけで急落やバブル崩壊を示唆する要素になりえません。むしろ、中長期的な資金調達率の高騰こそが市場の活発化を裏付けしているようなものなので、資金調達率単体で相場を見極めることは不可能です。

しかし、資金調達率の高騰=高値圏でのロングが多いということは、それだけ高値圏にロスカットを敷いたハイレバロングが多いことを意味しますから、小規模の利確による調整下げがバブル崩壊の引き金となって短期間の暴落を引き起こします。この暴落が長期的な下落トレンドの開始の合図になるのか、それとも再度買われて上昇に乗り出すのかは、そのほかの要素で判断しなければなりません。

Part2 OI(Open Interest)の考え方

この章では、OI(Open Interest:未決済建玉)について解説します。

2-1 OIの概要

OIとは、先物市場における未決済のポジションの総額を意味します。つまり、まだ売ってないロングとまだ買い戻してないショートの合計です。OIの本質は、増加したOIがいずれ決済されることで市場価格に影響を及ぼす可能性が高いということです。別の言い方をすると、OIが貯まっていくということは、大きな価格変動が起こる可能性が生まれるということです。OIが上昇下落の燃料になる、という話ぐらいは聞いたことがある人もいると思いますが、そういうことです。ところが、ロングとショートの割合は1:1になるという話を「1-2 資金調達率の仕組み」で触れたように、OI自体にロングやショートの偏りは無いため、OIだけを見て上がるか下がるかの判断は難しいです。実際には他の指標とともに相場感を掴むことが大切です。

OIは価格の上昇ともに増加していくのが一般的です。なぜなら、価格の上昇は相場の注目を集めるため、次第にその銘柄を取引したいトレーダーや投資家が増え、ポジション構築を進めます。よってOIも増加するので、OIの増加は市場の注目度を示すことになります。

2-2 OIの確認方法

では、OIを実際に確認してみましょう。コイングラスから未決済建玉を開いてください。少し下にスクロールすると以下の図が表示されると思います。


2つグラフがありますが、まず上を見てください黄色の折れ線グラフはBTC価格、緑のヒストグラムは先物市場でのOI(未決済建玉)です。基本的にBTC価格と連動していることがわかると思います。この図は全ての取引所の総数のOIを示しています。

次に下のグラフを見てください。これは、BinanceにおけるBTC価格とOIのグラフです。おおむね上のグラフと近いですが、若干異なります。少し余談ですが、ここ最近でCME(シカゴ・マーカンタイル取引所)という機関投資家ご用達の取引所やETFでBTCを取引する人が増えたため、Binanceの取引量やOIが減ったように思えます。

ひとまず、基本的には上のグラフの方を見ておくようにしましょう。

2-3 OIと価格変動の関係について


次に、より短期足でのOIの変動を確認します。コイングラスから高機能チャートを開いてください。ここでは、OIと価格変化の関連性も見ていきます。

図の上から2つ目のチャートが資金調達率、3つ目のチャートがOIを、そして4つ目がロスカットによる精算量を表示したものです。なお、どれもBinanceにおける変動です。

図の赤枠を見てください。先ほど価格の上昇とOIは基本的に連動するという話をしましたが、ここでは価格の上昇と相反してOIが減少しています。これは、ショートのロスカットによるショートカバーが発生したことを意味します。多くのショートが強制決済されたため、OIが減少して価格が上がったということです。もちろん、現物の買いもあっただろうとも思います。

それを証明するかのように、上から4つ目の「集計された精算」のヒストグラムを見てください。緑がロングの精算、赤がショートの精算を示しています。大きければ大きいほど大規模な精算があったことを表します。上図ではショートの精算だけでなくロングの精算もそれなりに起こっていますが、このとき市場では急騰直後に6000ドル幅の急落があったため、飛び乗ったハイレバロングが速攻で焼かれたことが推察されます。

そして、ショートカバーによる上昇でロングがさらに積まれたため、資金調達率の急騰に繋がった、と解釈できます。

一方で、価格の急騰とOIの増加が連動するケースもあります。

先ほどと同じ図ですが、赤枠を左側に移しました。この赤枠内の値動きとOIについて注目してください。価格の上昇とともにOIの増加が確認できます。そして、ショートの精算が比較的小規模に留まっていることもわかります。

ここからわかるのは、OIが増えていることは大規模な精算が起こっていないということを意味します。よって、この価格上昇はショートカバーではなく現物が買われたために起きたものだと推測できます。

この他にも、価格は上がっていないのにOIが増えていくパターンもあります。直近のBTCでは無かったので、最近のDogeコインの例で見てみます。

図の赤枠内を見てください。値動きは硬直したままなのに、OIは緩やかですが増え続けています。

これは、暴落後の安値圏で新規の突っ込みショートとリバ狙いロングとショートの利確がぶつかって値動きが止まったときに見られる現象です。安値圏で、新規ショートが新規ロングよりも積まれていっている状態です。この後はこのショートを焼きながら急騰に繋がっていくことが多いです。

実際にこのとき、Dogeは年始の急落でOIが大きく減っていました。その後OIが徐々に積まれていき、最終的に大きなショートの精算(ショートカバー)を伴って急騰に至っています。恐らく、三尊というチャートパターンを見て新規でショートを積んでいた投資家が多かったのでしょう。ただ、直近ではOIは減っていないので、おそらく精算されたポジションより多くの新規ポジションが増えていると思います。このパターンだとOIをすっからかんになるまでボラティリティが増えていく相場になっていくでしょう。

続いて、OIを上げながら価格を落としているパターンも見ていきます。

この図では、画像赤枠と緑枠の2つの部分に分けて考えます。2つの違いは、OIを上げながら価格を落としているのか、OIとともに価格を落としているのかという点です。

赤枠では、価格を大きく落としているのにOIが上がっている一方で、ロングの精算もそれなりに発生しています。ここで何が起きているのかというと、高値圏でハイレバロングが焼かれている中、リバ狙いの新規の突っ込みロングもしくはナンピンロングが増えていることを意味します。資金調達率が高値圏で推移している点からも、ロングが焼かれているのに新規のロングが積まれているために全体では資金調達率の低下が起きていないことがわかります。このようなケースでは、彼らのロングポジションをすべて焼き切る(ロンガーが諦める)まで本格的な反発やトレンド転換は起きないケースがほとんどです。もちろんここではロングは入れられません。

一方で緑枠内を見てみましょう。先ほどと違う点は、ロングの精算とともにOIと資金調達率の減少が起きていることです。つまり、新規のロングもしくはナンピンロングが積まれなくなったことがわかります。OIは大きな価格変動のきっかけになることを本章冒頭でお話しましたが、このケースではOIが減少しているため、底値を打ったときにそれ以上下落の燃料が無くなり、自律反発を起こします。短期のリバ狙いロングを入れるとしたら、この辺りでエントリーポイントを探す方が良いです。

2-4 ショートカバーの上げは全戻しする可能性がある

ショートカバーの上げは、急騰後に全戻しされる可能性があります。それはいったいなぜでしょうか?

ショートカバーの上げの本質は、ショートがロスカットされて値上がりし、新規の突っ込みショートも焼かれてさらなるショートカバーを巻き起こし、これを繰り返しながらショーター(ショートポジション所有者)が諦めるまでずっと価格を上げていくことです。このショートの決済の連鎖は非常に短期間の間に起こるため、現物買いによる価格上昇より強烈な大陽線を形成します。まるで、欲にまみれたショーターの死体が次々焼かれながら積み上がっていき、天を貫いていく様を表しているかのようです。

しかし、捉え方を変えれば、価格上昇によりショーターはやむを得ず買い戻しさせられているわけで、本当に買いたいと思ってる人が市場にはいないわけです。もっと言えば、ショートカバーとは、誰も買っていないのにショート決済の連鎖によって値上がりを引き起こしてしまう現象に過ぎません。

誰も買っていない商品を高値でわざわざ買いたい人はいないので、ショートカバーにより値上げで利確したロングの売りにより、急落します。もしくは、ショートカバーによる値上げに釣られた新規のハイレバロンガーが急増するも、ショートの燃料切れ&現物の買いが入らないことで買い支えが起きず、すぐに彼ら(ロンガー)を焼いて急落し、価格がもとに戻りやすいというわけです。これがいわゆる、全戻し(全モ)という現象です。具体例をお見せします。

上図はXRPの例です。赤枠内を見てください。

まず最初に価格の急騰から始まります。この時はちょうどXRPに大きなファンダ(SECとの裁判関連だったと思います)が発表され、急激に価格を上げました。同時に、大量のショートの精算が起こったことがわかりますね。

その後、急激な価格上昇に釣られ新規のハイレバロンガーが大量に市場にやってため、OIは全体では上昇したように見えます。先ほどのBTCの2つ目の例であったような、価格上昇とOIが一緒上げたパターンと似ていますが、裏では大量のショートの精算と新規の突っ込みロンガーの増加が起きている点が異なります。

最終的には、ショーターを全員焼き切った後は新規のロンガー達だけが残りますが、現物の買い支えが起きなかったために価格は伸び悩み、残ったロンガーを一掃して市場は落ち着きます。

よって、ショートカバーによる急激な値上げは中長期のトレンドを生み出すことは少なく、むしろ全戻しを警戒すべきです。もちろん、ショートカバーによる値上げがきっかけで現物の買いが入った場合は、価格が続伸することもありますが、うかつに手を出すと火傷の危険性があります。

Part3 ロングショート比率をどう捉えるか


coinglassでは、仮想通貨ロング vs ショートにてロングとショートの比率をチェックできます。グラフ横軸が時間軸を示し、縦軸が比率を示しています。

この比率は、口座(アカウント)の比率です。上はBTC全体、下はBinanceの比率を示します。「あれ?ロングとショートの比率は1:1で固定されてるんじゃないの?」と思ったかもしれませんが、あくまでそれはポジション量ベースの考えであって、口座ベース(≒人数ベース)では比率は偏る傾向にあります。

詳しくは上記ページの下部に以下の記載があります(おさらいです)
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まず、すべての取引所のロングポジションとショートポジションは等しく、1:1 の比率を維持していることを理解することが重要です。たとえば、ボブが 10 ビットコインのロングポジションを開いた場合、他の誰かまたは複数の個人が同じ価格で合計 10 ビットコインのショートポジションを開いたことを意味します。暗号通貨先物市場では、取引が発生するには常に相手方が必要です。これは基本的な知識です。
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ロングショート比率は口座(≒人数)ベースの算出ということがわかりましたが、このデータは一体何を意味するのでしょうか?それは、大衆心理の偏り、もっと言えば養分となる小口投資家の市場目線が汲み取れることです。

例えば、ロングショート比率が1.5だった場合のことを考えてみましょう。このとき、ロングしている人数はショートしている人数の 1.5 倍いることを意味します。つまり、ロングする個人の数は多い一方で、個人あたりの平均ポジションサイズは小さく、個人トレーダーの割合が高いことを示している可能性があります。逆に、ショートをする個人の数は少ないですが、個人あたりの平均ポジション サイズは大きく、機関投資家または大規模トレーダーの割合が高いことを示している可能性があります。

人数ベースで考えると小口投資家の方が数は多いため、この時は市場全体では強気である認識できます。しかしながら、相場は基本的に少数派である機関投資家に有利なように動きやすい(資本金が多いためレバレッジが低くなりやすく、損切りやロスカットされにくい)ため、小口投資家が強気なうちは急落に対する警戒を怠ってはなりません。

Part4 精算ヒートマップの考え方

4-1 精算ヒートマップの確認方法

この章では、精算ヒートマップについて解説します。コイングラスで精算→精算ヒートマップをご確認ください。

上図が精算ヒートマップです。精算ヒートマップとは、大規模な清算が発生する可能性のある価格を予測した図です。つまり、投資家のロスカットが敷かれてる価格帯を、ロスカットの規模ごとに色で重み付けをした図です。

青色が濃ければその価格帯にロスカットは少なく、黄色が濃ければその価格帯には多くの投資家のロスカット水準が集まっていることを示します。画像右上のプルダウンから「一週間」を選択してみましょう。

直近一週間の値動きと、精算記録が表示されました。

ローソク足の上下に精算が起こる価格帯を色分けしていることがわかります。ローソク足より上にあればショートのロスカット、下にあればロングのロスカットが溜まっていることを示します。もし市場価格がロスカットの溜まっている価格帯に突入したとき、大規模な精算が発生し、それによって価格が急騰/急落することがあります。上図の場合だと見事にショートのロスカットを燃料に続伸したことがわかります。

ここで話は少し逸れますが、「1-2 資金調達率の仕組み」で、ショートとロングの総量は1:1であるが、価格帯によっては偏りが発生するということを説明しました。これは、精算ヒートマップに表示されているロスカットの溜まっている量がロングとショートで差があることからもわかります。精算ヒートマップはあくまでも、ロスカットの目安に過ぎませんが、ショートとロングの積まれる価格帯には差があることも汲み取れると思います。

例えば、ショートのロスカットが近い水準に溜まっていてロングがそうでもないということは、ハイレバショートが近い価格帯に多く積まれている一方でロングはその付近では積まれていない可能性が高いと推測できます。

全体で見るとロングとショートは1:1に均衡するが、価格帯によっては積まれ方に差があるという意味は理解いただけましたでしょうか?

話は戻ります。

当たり前ですがショートのロスカットを巻き取ったからと言って、それ以上に現物の売り圧や新規ロングの過剰な増加、現物の買い支えが無いと続伸することはありません。ショートのロスカットを狩っただけで終わるパターンも当然ながらあります。

4-2 精算ヒートマップの本質

精算ヒートマップの考え方は、ロスカットが溜まっている価格帯に市場価格が近づいていく傾向がある(ブレイクするかは別)という点です。トレンドを生み出す起点になるかどうかは、他の要素に左右されます。

どういうことでしょうか?それを説明する前に、まずは価格帯出来高と板の概念についてお話します。

4-2-2 価格帯出来高とは何か

価格帯出来高とは、特定の価格帯で取引された売買の数量を指します。つまり、その価格帯でどれだけ多くの売りや買いの注文がされたか、ということです。価格帯出来高が高ければ高いほど、その価格帯に投資家の注文が殺到していたことを意味し、少なければその価格帯は市場では意識されてこなかったということになります。なお、出来高という言葉自体は、特定の期間で成立した売買の総数を意味します。価格帯価格帯は、価格帯ベースで取引の量を捉えた概念です。

4-2-3 板とは何か

板とは、売買の注文のことを指します。以下の図を見てください。

上記は、BinanceにおけるBTCの注文板の画面です。画像左がBTCの価格を示し、中央が注文枚数、右が金額(BTC価格×枚数)を示しています。具体的には、62700ドル付近に約89.5BTCの売り指値が出されており、61900ドル付近に約68.2BTCの買い指値が出されていることを意味します。

注文の多さは、背景に色で重み付けされています。多いほど、緑や赤のバーの長さが長くなります。このバーが、見た目から”板”と呼ばれ、買い指値は買い板、売り指値は売り板と呼ばれます。板は厚い薄いで表現されます。板が厚い価格帯ほどサポートやレジスタンスとして機能しやすく、市場の注目度が高いことを表します。

ここまで、価格帯出来高と板の概念をお話しましたが、重要なのは投資家が注目する価格にはバラつきがある、ということです。考えてみれば当たり前ですが、歴史的にサポートとして機能した価格帯は買い注文が入りやすいですし、レジスタンスとして機能した価格帯は利確注文が入りやすいわけです。

4-2-4 大口投資家は出来高の高い価格帯で決済をしたい

皆さんが大口投資家になった姿を妄想してください。100億円分のBTCを持っていて、そろそろ利確したいと考えているとしましょう。皆さんが一般的な小口投資家の場合、持ってるBTCを適当に成り行きで売るか、適当な指値を入れて売り注文を出せばすぐに決済されます。しかし、もし大口だった場合、それが上手くいかない場合があります。なぜでしょうか?

それは、自分が売りたい金額分だけ、買いたい人がいないと売買は成立しないからです。1BTC=10万ドルで1000枚売りたいとしても、市場にその価格でその枚数分の買い注文が入っていないと売れないわけです。中学校で習った需要と供給のグラフを思い出してください。

需要と供給は、両者が一致する価格で釣り合います。もし、供給の方が多い場合、需要は相対的に低くなるため、価格は下がります。一方で、供給が少ない場合は価格は上がります。

仮想通貨も全く同じです。例えばの話ですがもし、100BTCを10万ドルで売りたくても50BTC分しか買い手がつかなかった場合、残りの半分の50BTCは10万ドル未満の価格で売らないといけません。9万9999ドルで50BTCの買い手がつけばまだいいものの、もしもっと下の価格じゃないと買い注文が入ってなかった場合、本当は10万ドルで売りたいのに泣く泣く安い価格で売らないといけません。

このように、大口投資家が大量のBTCを売る場合、買い注文が少ない(=買い板が薄い)価格で売り注文を出したら全額決済されないか、もしくはもっと下の価格で決済されることになります。これでは損失になってしまいますね。

そのため、大口投資家は価格帯出来高が高いゾーン(=買い板が厚くなる価格帯)に売り注文をぶつけます。そうすることで、ようやく希望の価格帯で全額決済できるからです。

ここまでで、出来高と板の説明、需要と供給についてお話しました。重要なのは、大口投資家は自身の決済を希望価格で成立させたいため、出来高のある価格帯で決済を行うということです。このことを踏まえて、最初の精算ヒートマップをもう一度見てみましょう。

黄色で表示された価格は、ローソク足の上だとショートのロスカットが溜まっていることを先ほどご説明しました。つまりこの価格帯は必然的に市場の注目を集める価格帯であり、板が厚い価格帯ということになります。

ショートのロスカットが多いということは、買い注文が多いということです。大口投資家は、この溜まりに溜まったショートの買い注文をめがけて自身の売り注文をぶつけたいと考えています。そうすれば希望価格で全額決済できるので、合理的です。

多くの大口が似たようなことを考えますから、市場価格が出来高が高いゾーンに次第に動いていき、そこで決済が起こります。大口の売りの方が強ければ、ショートの買いを全部吸収してしまって価格は横ばいになるか下落します。これがいわゆる逆指値を狩っただけの動きです。基本的には、精算ポイントに到達したら短期トレンドは反転、すなわちレンジ内に戻ってくる傾向にあります。

一方で、精算ポイントの狩ったタイミングで、その下にさらなる精算が断続的に続いた場合や、多くの投資家が意識するような明確なトレンドラインや水平線をブレイクした場合、新規のトレンドが発生することがあります。

これが、本節のはじめに説明したことに繋がります。
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精算ヒートマップの考え方は、ロスカットが溜まっている価格帯に市場価格が近づいていく傾向がある(ブレイクするかは別)という点です。
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この、ロスカットが溜まっている価格帯に市場価格が近づいていく現象を、磁石が鉄に引き寄せられる様子からマグネット効果と呼ばれます。

私は、精算ヒートマップについては、レンジ相場のときによく見るようにしています。なぜなら強いトレンドが出ているときは、先物市場のロスカットだけでなく現物市場の動きでも価格変動は起きるため、精算ヒートマップを見る意味が薄くなるからです。レンジ相場のときほどレンジ内での逆張りを狙ったポジションが増えるため、精算ヒートマップを活かしたトレードが可能になります。

本記事は以上となります。資金調達率やOIの概念は難しいのですが、理解できると相場を見る力が上がると私は思っています。この記事をきっかけに、皆さんがより相場を見る楽しみをや面白さに気づいていただければ幸いです。

なお、筆者の私は仮想通貨や金融の専門家ではないため、誤った表現や間違いなどあるかもしれません。もし気になるところやわかりにくかったところなどございましたら、X(旧Twitter)にてご連絡ください。

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