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思い出話21 床屋の前      (512文字)

家の近所にもう長いこと通っていた床屋がありました。子どもの頃から行っていたので、もう何十年もの期間でした。
いつも何も言わなくても、勝手にやってくれます。

散髪中は髪型のことより、世間話から仕事の話、趣味に至るまで、いつも会話が弾んでいた。

ところが、もう十年前くらいから、その床屋へは行かなくなりました。

仕事帰りに千円ちょっとでやってくれる床屋があるので、そこへ行くようになったためです。
とにかく料金が全然違うし、やはりこの時世なので、安い所へ行くようになるのはある意味仕方ないことです。

でもたまに何かの用で、その昔からの床屋の前を通るときがありましたが、そのときは少し緊張しました。
「タイミング悪く、入口の前で店の人と出くわさないだろうか」
などという余計な心配をしてしまうのでした。

いつも、何となく気が退けて、ウィンドウを見ないように通り過ぎて行きましたが、何とも心が後ろめたくなるものです。

安い床屋さんが増えていく過程で、その床屋さんは四、五年前になくなり、店主はどこかへ引っ越されたようです。今は真新しい洒落た住宅が建っている。

今後、従来型の床屋さんは、生き残りをかけて何らかの対策を考えていくしかないだろうと思われます。


ヒドリガモ

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