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第59回理学療法士国家試験 午後46−50の解説

 息子は第57回の国家試験に不合格で、第58回の国家試験に合格しました。昨年は第58回の試験問題が手元にありましたので、息子の合格の後、恩返しのつもりで国家試験の解説を投稿しました。
 第59回は息子は受験していないので問題が手元にはありません。毎年厚労省から問題が公表されるのは5〜6月ごろでかなり遅いです。そこから出版社も対策本を作るので、対策本が手に入るのは夏前になってしまいます。またクエスチョンバンクなどの対策本は国試問題のすべてを網羅している訳ではありません(ごく一部です)。
 昨年、国試対策の問題集を作って投稿したところ、多くの方に利用していただきました。今回、投稿を利用していただいた受験生(合格ラインを超えたらしい)の一人にお願いして、国家試験問題を入手する事ができましたので、昨年同様、早めに国家試験問題と解説を投稿したいと思います。
 理学療法士ではありませんが、医師の立場から解説をします。これは違うよという所があればコメントいただくと幸いです。


(46) NICU入室中の低緊張児に対する理学療法で優先順位が低いのはどれか。(59回午後46)
1.装具療法
2.運動発達指導
3.呼吸理学療法
4.ポジショニング
5.保護者への育児指導
 
                    【答え】1

【解説】
 最近ICUやNICUのリハビリテーションの問題が増えていますね。この問題は選択肢1か選択肢2で迷うところです。選択肢5が「保護者への」と書かれているので、選択肢2の運動発達指導とは「保護者への」ではなく、「患者本人への」という意味です。「NICUに入室しているような新生児に何かを指導してもわかるのか」と普通に考えればなりますよね。これもまた言葉遊びの問題です。こういった言葉遊びの問題は出題すべきではありません。
 以下に日本理学療法士協会が作成した新生児集中治療室 (NICU)での関わりというパンフレットを紹介します。

この中で未熟児では「お乳を吸う」「母親にしがみつく」「身体を動かす」といった「運動機能」の発達が遅れる可能性があるので、それらの発達を支援する必要があると言えます。それに対しては適切な刺激を与える事が指導につながるのでしょう。

1.装具療法:×
 →患児は低緊張児です。装具は筋緊張が高い場合は適応になりますが、筋緊張が低い場合は適切なポジショニングだけで十分で、装具の適応にはなりません。

2.運動発達指導:○
 →言葉遊びです。指導というのは患児の意識に対して行うのではなくて、患児の体(感覚および脳)に対して行うという意味だと思います。出題者はこれを間違った選択肢として選ばそうという引っかけの選択肢だと思います。

3.呼吸理学療法:○

4.ポジショニング:○

5.保護者への育児指導:○

 
(47) 予防接種法に基づく集団予防を目的とした定期接種に該当する疾患で正しいのはどれか。2つ選べ。(59回午後47)
1.A型肝炎
2.B型肝炎
3.日本脳炎
4.インフルエンザ
5.流行性耳下腺炎
 
                                                         【答え】2・3

【解説】
 得点させたくない問題が続きますね(^0^;)。
予防接種には、法律に基づいて市区町村が主体となって実施する定期接種と、希望者が各自で受ける任意接種があります。接種費用は、定期接種は公費ですが、任意接種は自己負担となります。

ワクチン.net HP 定期接種と任意接種 より引用
https://www.wakuchin.net/about/universal.html

1.A型肝炎:× 
 →任意接種です。A型肝炎はほとんど慢性化しないので任意接種となっているのでしょう。

2.B型肝炎:○
 →定期接種です。感染すると慢性化する事が多く、肝硬変から肝臓癌になるリスクもあるので定期接種となっていると思われます。

3.日本脳炎:○
 →日本脳炎は、日本脳炎ウイルスにより発生する疾病で、蚊を介して感染します。以前は子どもや高齢者に多くみられた病気です。突然の高熱、頭痛、嘔吐などで発病し、意識障害や麻痺等の神経系の障害を引き起こす病気で、後遺症を残すことや死に至ることもあります。日本脳炎ウイルスに感染した場合、およそ1000人に1人が日本脳炎を発症し、発症した方の20~40%が亡くなってしまうといわれています。結果が重大なので、定期接種となっているのでしょう。ワクチン接種により、日本脳炎の罹患リスクを75~95%減らすことができると報告されています。

4.インフルエンザ: 
 →任意接種です。インフルエンザも慢性化しないので任意接種となっているのでしょう。

5.流行性耳下腺炎:× →任意接種
 

(48) 歩行練習中に患者が転倒した場合、最も優先して行うのはどれか。(59回午後48)
1.患者の安全確保
2.主治医への報告
3.診療録への記載
4.スタッフへの応援要請
5.バイタルサインの測定
 
                    【答え】1

【解説】
 以下にBLS (一次救命処置)の急変時対応のアリゴリズムを示します。まず最初に行うべきは「安全確認」です。
 歩行練習中という事は、理学療法士がそばについていて、周囲の安全なところで訓練をしているはずなんですが、国家試験的・アリゴリズム的には周囲の安全確認が第一にすべき事です。
 急変患者はどんな状況で起こるかわかりません。屋外で交通事故で倒れているところに遭遇した場合(とくに高速道路など)では、むやみに近づくと自分が事故に遭ってしまうかもしれません。ガスもれ事故現場では、自分もガス中毒になってしまうかもしれません。
 病院内でも患者が急に転倒した原因として患者自身の病気の事もありますが、周囲環境が原因の事もあります。周囲環境が安全な事をまず確認するのと同時に、たとえば戸棚が倒れそうな状況になっているなど、患者が危険な状況になっている可能性があれば、危険な状況を回避するという意味での安全確保も必要です。

日本蘇生協議会監修:JRC蘇生ガイドライン2020.医学書院,東京,2021:51.より引用


1.患者の安全確保:○
2.主治医への報告:×
3.診療録への記載:×
4.スタッフへの応援要請:×
5.バイタルサインの測定:×

 選択肢の順番でいえば、(1) 患者の安全確保→(5) バイタルサインの測定→(4)スタッフへの応援要請→(2)主治医への報告→(3)診療録への記載といったところでしょうか?
 (2)のバイタルサインの測定も簡単・迅速に行い、バイタルサインが不安定な場合は、直ちに応援要請をしましょう。バイタルサインが落ち着いており、自分だけで対応できそうならそうしてください。転倒したら、かならずスタッフの応援要請をしなければならない事もありません。


 
(49) 骨折の名称と部位の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。(59回午後49)
1.Cotton骨折―――――大腿骨
2.Dupuytren骨折―――第1中手骨
3.Galeazzi骨折――――橈骨
4.Jefferson骨折――――環椎
5.Straddle骨折――――上腕骨
 
                  【答え】3・4

【解説】
 解答速報では3社とも3・4となっていましたが、選択肢5も正しいです。したがってこの問題は不適切問題となるはずです。

1.Cotton骨折―大腿骨:×
 →下腿遠位の脛骨・腓骨の三果骨折をCotton骨折といいます。

2.Dupuytren骨折―第1中手骨:×
 →Dupuytren骨折は足部回内・外旋損傷による骨折です。

3.Galeazzi骨折―橈骨:○
 →前腕の骨折でモンテジア骨折とガレアッチ骨折が有名です。脱臼する方の骨で覚え方がありますね。「門は戸だ」から「門 (モンテジア骨折)の脱臼するのは戸(橈骨)で、骨折は尺骨です」「ガレージは車庫だ」から「ガレージ (ガレアッチ骨折)の脱臼するのは車庫 (尺骨)」で、骨折は橈骨になります。
 なおガレアッチ骨折は橈骨骨折+尺骨脱臼ですが、色々な型があり典型的なガレアッチ骨折は橈骨遠位1/3の骨折に遠位尺骨の脱臼を合併した骨折です。

4.Jefferson骨折―環椎:○
 →環椎の破裂骨折をJefferson骨折といいます。頭側からの垂直圧迫力により前弓と後弓の力学的に弱い4カ所で骨折する事が多いです。脊柱管は拡大するので、頸髄損傷を合併する事は比較的少ないです。


5.Straddle骨折―上腕骨:×
 →骨盤骨折はMalgeine骨折、Duvener骨折、Straddle骨折が人名のついた骨折になります。Straddle骨折は左右の恥・坐骨骨折をきたしたものをいいます。恥骨・坐骨はもちろん骨盤を形成するのでStraddle骨折は当然骨盤骨折に当たります。
 Malgeine骨折、Duvener骨折、Straddle骨折の覚え方は骨盤にマーガリン・どん兵衛・サドルで覚えるようにしていました。

(50) ADL評価で正しいのはどれか。(59回午後50)
1.Barthel indexで自立の得点は7点である
2.Barthel indexは食事の支度の項目を含む
3.FIMでは時間をかけても一人でできれば完全自立である
4.FIMはできるADLを評価する
5.Wee FIMは小児のADLを評価する
 
                    【答え】5

【解説】
1.Barthel indexで自立の得点は7点である:×
 →自立: 10点、部分介助: 5点、全介助: 0点です。

2.Barthel indexは食事の支度の項目を含む:×
 →バーサルインデックスはBADLで食事は含まれますが、食事の支度は含まれません。

3.FIMでは時間をかけても一人でできれば完全自立である:×
 →7点(完全自立)で、時間がかかる、装具や自助具・補助具を使っても自分ひとりでできれば修正自立(6点)となります。

4.FIMはできるADLを評価する:×
 →FIMはできるADL (自立、修正自立)だけでなく、監視や介助下でのADLも評価します。

5.Wee FIMは小児のADLを評価する:○
 →小児のADLを評価する方法としてPEDIとWee FIMがあります。Wee FIMは小児版のFIMです。過去にはPEDIが何回が出題されていましたが、最近の出題はありません。

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PEDI (Pediatric evaluation of disability inventory)で正しいのはどれか
(50回午後29)
1.機能的スキルを測定する        
2.脳性麻痺は対象にならない
3.出生直後から使用可能である   
4.社会的機能は評価項目に含まれない 
5.評価に要する時間はWeeFIMより短い
                     【答え】1
PEDI (Pediatric evaluation of disability inventory)で誤っているのはどれか(49回午後47)
1.4ヶ月児から評価の対象になる   
2.補助具の使用状況を評価できる
3.正常発達からの偏差を評価できる
4.特定のことができる能力を評価する
5.介護者による援助の状態を評価できる
                    【答え】1
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Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。

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