第59回理学療法士国家試験 午後26−30の解説
息子は第57回の国家試験に不合格で、第58回の国家試験に合格しました。昨年は第58回の試験問題が手元にありましたので、息子の合格の後、恩返しのつもりで国家試験の解説を投稿しました。
第59回は息子は受験していないので問題が手元にはありません。毎年厚労省から問題が公表されるのは5〜6月ごろでかなり遅いです。そこから出版社も対策本を作るので、対策本が手に入るのは夏前になってしまいます。またクエスチョンバンクなどの対策本は国試問題のすべてを網羅している訳ではありません(ごく一部です)。
昨年、国試対策の問題集を作って投稿したところ、多くの方に利用していただきました。今回、投稿を利用していただいた受験生(合格ラインを超えたらしい)の一人にお願いして、国家試験問題を入手する事ができましたので、昨年同様、早めに国家試験問題と解説を投稿したいと思います。
理学療法士ではありませんが、医師の立場から解説をします。これは違うよという所があればコメントいただくと幸いです。
(26) ICFの環境因子はどれか。(59回午後26)
1.職業歴
2.屋外の移動
3.本人の性別
4.信仰する宗教
5.利用可能な保険サービス
【答え】5
【解説】
ICFについては以下の図のような因子があります。背景因子のうち、自分の事を個人因子、自分の事ではない・周囲にあるものを背景因子と呼びます。
1.職業歴:×
→自分の事なので個人因子になります。
2.屋外の移動:×
→ADLですので活動になります。
3.本人の性別:×
→自分の事なので個人因子になります。
4.信仰する宗教:×
→自分の信仰する宗教は自分の事なので個人因子です。これに対して周りの人が信仰する宗教は環境因子となるでしょう。
5.利用可能な保険サービス:○
→周囲に利用できる保険サービスがあるかどうかは自分の周囲の環境なので、環境因子になります。
(注)自分の事は自分の周囲ではないので環境因子にはなりません。一方、「態度」は自分の周囲の事なので環境因子となります(過去問既出)。
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国際生活機能分類(ICF)における第1レベルまでの分類で環境因子はどれか。2つ選べ (50回午前46)。
1.態度
2.対人関係
3.家庭生活
4.支援と関係
5.コミュニティライフ・社会生活・市民生活→参加
【答え】1と4
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(27) 理学療法士の行動で適切なのはどれか。(59回午後27)
1.患者の病状を許可なく友人に伝える
2.患者に担当作業療法士の自宅住所を教える
3.先輩職員に患者宅の家屋構造を伝えて住宅改修の相談をする
4.患者の全身動画を自分のスマートフォンに保存して歩行を分析する
5.利用者限定のSNS (Social networking service)に患者の個人情報を投
稿する
【答え】3
【解説】
このあたりは常識問題になります。
1.患者の病状を許可なく友人に伝える:×
→個人情報を勝手に漏らしてはいけません(守秘義務)。
2.患者に担当作業療法士の自宅住所を教える:×
→例えば、「お礼やお中元・お歳暮を贈りたいから住所教えて」と依頼されても、そんなことをしてはいけません。最悪ストーカー行為を受けたりする可能性もあります。
3.先輩職員に患者宅の家屋構造を伝えて住宅改修の相談をする:○
→住宅改修の相談に乗ってアドバイスをするのは良いです。
4.患者の全身動画を自分のスマートフォンに保存して歩行を分析する:×
→個人情報を病院外に持ち出すのはダメです。
5.利用者限定のSNS (Social networking service)に患者の個人情報を投
稿する:×
→個人情報を病院外に持ち出すのはダメです。
(28) H反射を導出するために刺激する神経で正しいのはどれか。(59回午後28)
1.α運動神経線維
2.γ運動神経線維
3.Ia群求心性線維
4.Ib群求心性線維
5.II群求心性線維
【答え】3
【解説】
58回午前14の解説を参照ください。
誘発筋電図について
【1】M波、F波
針電極を運動神経が通っているところに刺入して運動神経を刺激し、末梢の筋肉で筋収縮による活動電位(motor unit potential: MUP)を観察します。刺激した場合、まず下図の赤矢印のように順行性に刺激が伝わり筋が収縮した場合、大きな波となり、これをM波(motor/muscle wave)あるいはCMAP 波(compound motor or muscle action potential: 複合筋活動電位)といいます。CMAP波と呼ぶのは、得られた活動電位は単一の運動単位ではなく、遅筋から速筋までいろいろな筋の活動電位を合わせた電位であるからです。
誘発筋電図を見ると、最初に大きなM波が観察されますが、それに遅れて、小さい波が観察されます。これは、青矢印のように刺激部位から逆行性に脊髄まで刺激が伝わり、脊髄の前角細胞が刺激を受け、再び順行性に刺激が伝わった結果、もう一度末梢の筋が収縮する事によって活動電位(MUP)が得られます。この波の事をF波といいます(下図の赤線と青線は同じ1本の運動神経である事に注意してください)。なぜF波と呼ばれるかですが、元々のこの電位は最初に足(Foot)の小さい筋で記録されたため、その頭文字"F"を取って名付けられたそうです(諸説あります)。下図は正中神経刺激で、遠位部は正中神経単独支配の短母指外転筋に電極を置いています。母指内転筋や短母指屈筋は尺骨神経単独支配、母指対立筋は尺骨神経と正中神経の二重支配である事から、正中神経刺激では短母指屈筋が選ばれます(未出題なので今後国試にでるかも?)。
誘発筋電図で何を見るかですが、
1.神経伝導速度:活動電位が出現するまでの時間(潜時)
2.活動電位の波の大きさ:振幅→波の縦の幅
3.活動電位の持続する時間→波の横の幅
を観察します。
【2】H波
M波、F波と関連してH波というものがあります。こちらも少し勉強しておきましょう。H波はHoffman's waveといい、Hoffmannは指の病的反射のHoffmann(人名)を指しています。これは感覚神経の伝導が関与した誘発筋電図になります。臨床的意義は何かと言うと、糖尿病性神経障害では運動神経よりも感覚神経の障害が強いため、感覚神経障害の有無を調べるために行います(詳細は国試レベルでは不要です)。
通常は膝窩部に刺激電極を置き、脛骨神経刺激をします。刺激強度が小さい場合、閾値の低いIa感覚線維が興奮し、脊髄で後根から入って、前角細胞にシナプス結合で連絡し、前角細胞のα運動ニューロンを介して、下腿三頭筋を収縮させる時の下腿三頭筋の活動電位を記録します。この時にみられる活動電位をH波と呼びます。
この場合でも、刺激強度を上げていけば、α運動ニューロンを直接刺激する事になり、前述のM波を生じる事になります(同時にIa感覚線維を介した活動電位であるH波も遅れて記録される事になります)。H波とM波が出現する条件では脊髄を介せず興奮するM波がH波に先行してみられる事になります。
1.α運動神経線維:×
2.γ運動神経線維:×
3.Ia群求心性線維:○
4.Ib群求心性線維:×
5.II群求心性線維:×
(29) 動的バランス能力検査はどれか。(59回午後29)
1.10m歩行テスト
2.6分間歩行テスト
3.Trunk control test
4.Functional reach test
5.片脚立位バランステスト
【答え】4
【解説】
バランスには静的バランスと動的バランスがあります。静的バランスとは支持基底面の中で重心をいかに安定させるかというものであり、動的バランスとは支持基底面そのものや重心の位置が変化する中でいかに平衡を保つかというものです。
したがって、検査中に重心の位置が(結果としてではなく)変化させて検査をするものが動的バランスという事になります。
1.10m歩行テスト:×
→10m歩行テストは10mを直線的にまっすぐ歩行させ、10mの歩行速度や歩数を測定する評価方法です。10m間における「歩行速度」「歩数」「歩幅」「歩行率」などの歩行パターンがわかります。
2.6分間歩行テスト:×
→6分間歩行テスト (6 minutes walk test: 6MWT) は30mの平坦な直線コース (15m以上であれば結果に影響しないとの報告あり;両端に折り返し地点を設置)を、6分間でできるだけ速く、長い距離を往復歩行してもらい、その歩行距離から運動耐容能を評価する方法です。6分間歩行テストは主に運動耐容能を評価するテストです。
3.Trunk control test:×
→Trunk control testとはTrunk (体幹)のcontrol (コントロール)をテストする検査です。
脳卒中の急性期に実施することで力を発揮する評価で、歩行の予後予測に有用だと言われています。
・発症から1週間以内でTCTが40点以上であれば、6週間後に歩行が自立している可能性が高い
・2週間のTCTの得点が約90点の場合には、発症から1ヶ月で50m以上の歩行が可能になる
MEZASU HP TCTは簡単で歩行の予後予測に最適な評価だ より引用
https://arukunpo.com/tcttrunk-control-test/
4.Functional reach test:○
→立位で足部をうごかさず前方へリーチできる距離を測定する。リーチできる距離が長い程バランスが良い。これは静的バランス検査のように思えるかもしれませんが、リーチ動作は重心の位置を変化させている事になるので、動的バランス検査に分類されます。
5.片脚立位バランステスト:×
→その名のとおり片脚立位でバランスを取る検査です。目を閉じて測定する「閉眼片脚立位」と目を開けて測定する「開眼片脚立位」の2種類があります。開眼片脚起立時が15秒未満を運動器不安定症状と診断します。
(30) 脳神経と働きの組合せで正しいのはどれか。(59回午後30)
1.副神経―――――僧帽筋の運動
2.滑車神経――――眼球の内転運動
3.顔面神経――――咀嚼筋の運動
4.三叉神経――――舌前2/3の味覚
5.舌下神経――――声帯の運動
【答え】1
【解説】
1.副神経――僧帽筋の運動:○
2.滑車神経―眼球の内転運動:×
→滑車神経の働きは眼球の内転・下向きの動きとなります。眼球の内転運動が動眼神経の内直筋の働きとなります。
3.顔面神経―咀嚼筋の運動:×
→側頭筋や咬筋といった咀嚼筋は三叉神経の運動成分で支配されます。下の写真のように耳を中心に3の文字をイメージして、咀嚼は三叉神経支配と覚えてください。
4.三叉神経―舌前2/3の味覚:×
→舌の前2/3の味覚は顔面神経、感覚は三叉神経です。後ろ1/3はいずれも舌咽神経です。この問題のように前2/3が問題になる事が多いです。前2/3の味覚は顔面神経 (VII脳神経)なので、七味(7の顔面神経は味覚)と覚えました。触覚などの感覚は顔の表面の感覚と同じ三叉神経です。
5.舌下神経―声帯の運動:×
→舌下神経は下の運動を支配します。声帯の運動は迷走神経支配です。
Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。
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