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第59回理学療法士国家試験 午後91−95の解説

 息子は第57回の国家試験に不合格で、第58回の国家試験に合格しました。昨年は第58回の試験問題が手元にありましたので、息子の合格の後、恩返しのつもりで国家試験の解説を投稿しました。
 第59回は息子は受験していないので問題が手元にはありません。毎年厚労省から問題が公表されるのは5〜6月ごろでかなり遅いです。そこから出版社も対策本を作るので、対策本が手に入るのは夏前になってしまいます。またクエスチョンバンクなどの対策本は国試問題のすべてを網羅している訳ではありません(ごく一部です)。
 昨年、国試対策の問題集を作って投稿したところ、多くの方に利用していただきました。今回、投稿を利用していただいた受験生(合格ラインを超えたらしい)の一人にお願いして、国家試験問題を入手する事ができましたので、昨年同様、早めに国家試験問題と解説を投稿したいと思います。
 理学療法士ではありませんが、医師の立場から解説をします。これは違うよという所があればコメントいただくと幸いです。



(91) 筋萎縮性側索硬化症における典型的な筋電図検査所見で正しいのはどれか。(59回午後91)
1.運動神経伝導検査における遠位潜時延長
2.感覚神経伝導検査における伝導ブロック
3.針筋電図検査における線維束痙攣の電位出現
4.反復刺激検査における漸減現象 (Waning)
5.反復刺激検査における漸増現象 (Waxing)
 
                    【答え】3

【解説】
 筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)では,上位運動ニューロン障害(痙縮,腱反射亢進,病的反射)と下位運動ニューロン障害(筋萎縮,筋力低下,線維束性収縮 fasciculation)の所見が身体の広い範囲に出現します。
 筋電図は、臨床的に筋力低下や筋萎縮のはっきりしない段階においても下位運動ニューロン障害の証拠を検出することが可能で,ALS の診断において非常に有用な検査です。
 ALS の診断基準として,古くは 1969 年に Lambert が作成したものがあり,筋電図で線維性収縮電位(fibrillation potential),線維束性収縮電位(fasciculation potential)、神経再支配の所見がみられることなどが必要とされました。
 筋電図では高振幅電位,多相性電位がみられること,神経伝導検査では,運動・感覚神経伝導速度は原則正常複合筋活動電位(compound muscle action potential:CMAP)の低下がみられます。

1.運動神経伝導検査における遠位潜時延長:×
 →ALSでは上位運動ニューロン障害による変化が主体です。下位運動ニューロン障害でみられる末梢神経の伝導検査は原則正常です。

(補足)
 神経伝導検査は一般的には運動神経伝達速度と遠位潜時が評価に用いられます。刺激を与えてからM波が立ち上がるまでの時間を潜時といい、遠位潜時とは、特に末梢の手関節や足関節部で刺激を与えてからM波が立ち上がるまでの潜時をいいます。潜時を構成する成分には、神経を伝導するのにかかった時間、神経筋接合部を伝導するのにかかった時間、筋の興奮に要した時間が含まれます。
 遠位潜時の遅延があると、刺激部位より遠位での障害が考えられ、絞扼性末梢神経障害などの存在が示唆されます。

厚労省 HP 感覚神経線維 より引用
https://www.google.com/search?client=firefox-b-d&q=遠位潜時/

2.感覚神経伝導検査における伝導ブロック:×
 →ALSでは上位運動ニューロン障害による変化が主体です。下位運動ニューロン障害でみられる末梢神経の伝導検査は原則正常です。

(補足)神経伝導検査において伝導速度の低下は末梢神経障害の存在が示唆されます。

3.針筋電図検査における線維束痙攣の電位出現:○
 →ALSでは上位運動ニューロン障害を反映して針筋電図検査で線維束痙攣の電位 (fasciculation potential)がみられます。

4.反復刺激検査における漸減現象 (Waning):×
 →重症筋無力症では、3~5 Hzの反復刺激試験を行うとwaning (振幅の漸減)が認められます。犬にワンワンと吠えられているイメージです。

5.反復刺激検査における漸増現象 (Waxing):×
 →Lambert-Eaton症候群では低頻度反復刺激で漸増減少 (Waxing)がみられます。



 
(92) 先天性心疾患の中で頻度が高いのはどれか。(59回午後92)
1.三尖弁狭窄症
2.動脈管開存症
3.肺動脈狭窄症
4.心室中隔欠損症
5.心房中隔欠損症
 
                    【答え】4

【解説】
日本小児循環器学会の疫学委員会の13年間にわたる調査での頻度は以下の通りです。

Medicarvista. info HP 1.先天性心疾患の頻度・成因 より引用
http://jcs2011-niwa-h.medicalvista.info/introduction07_01.html


1.三尖弁狭窄症:× →2.0% (三尖弁閉鎖症)
2.動脈管開存症:× →2.8%
3.肺動脈狭窄症:× →3.7%
4.心室中隔欠損症:○ →32.1%
5.心房中隔欠損症:× →10.7%

 
(93) 感染症で正しいのはどれか。(59回午後93)
1.疥癬はネズミによって媒介される
2.帯状疱疹は麻疹と同じウイルスが原因で発症する
3.ボツリヌス菌による食中毒は感染型である
4.ポリオは血液を介して感染する
5.レジオネラ菌は空調設備が感染源となる
 
                    【答え】5

【解説】
1.疥癬はネズミによって媒介される:×
 →疥癬はダニによって媒介される皮膚感染症です。みなさんが老人介護施設に実習にいった際に見た事があるかもしれません。

2.帯状疱疹は麻疹と同じウイルスが原因で発症する:×
 →帯状疱疹はヘルペスウイルスが原因で発症します。

3.ボツリヌス菌による食中毒は感染型である:×
 →感染型ではなく、ボツリヌス菌が産生される毒素による毒素型です。

4.ポリオは血液を介して感染する:×
 →ポリオは、ポリオウイルスが人の口の中に入って、腸の中で増えることで感染します。増えたポリオウイルスは、再び便の中に排泄され、この便を介してさらに他の人に感染します。成人が感染することもありますが、乳幼児がかかることが多い病気です。

5.レジオネラ菌は空調設備が感染源となる:○
 →レジオネラ症は、レジオネラ菌が含まれる水しぶきを吸い込むことによりうつります。レジオネラ菌は、温かい水の中で増え、冷房の室外機に溜まっている水や衛生的ではないシャワーやジャグジーの水の中に存在しています。

 
(94) 転移性骨腫瘍で正しいのはどれか。(59回午後94)
1.頭蓋骨に好発する
2.前立腺癌では溶骨性転移が多い
3.高率に低カルシウム血症をきたす
4.痛みには温熱療法が第一選択となる
5.造骨性の骨転移では病的骨折は少ない
 
                    【答え】5

【解説】
1.頭蓋骨に好発する:×
 →転移性骨腫瘍は脊椎に好発します。

2.前立腺癌では溶骨性転移が多い:×
 →前立腺癌では造骨性転移が多く、乳癌では溶骨性転移が多いです。

3.高率に低カルシウム血症をきたす:×
 →溶骨性転移では高がカルシウム血症をきたします。

4.痛みには温熱療法が第一選択となる:×
 →癌の転移による痛みですので、疼痛緩和のための非ステロイド性消炎鎮痛薬や麻薬の投与は積極的に行うべきです。神経障害性疼痛にはプレガバリンなどの補助薬も有用なことがあります。

5.造骨性の骨転移では病的骨折は少ない:○
 →溶骨性の骨転移では病的骨折は多いですが、造骨性骨転移では病的骨折は少ないです。

 
(95) 広範囲熱傷の病態と急性期治療で誤っているのはどれか。(59回午後95)
1.高血糖になる
2.全身浮腫を生じる
3.輸液量を制限する
4.基礎代謝量は増加する
5.高蛋白の栄養療法にする
 
                    【答え】3

【解説】
 熱傷の急性期治療は理学療法士の領域では拘縮予防の観点から過去に出題がありましたが、今回の内容は理学療法士の治療領域ではなく医師の領域です。輸液量や栄養療法とか理学療法士が実際に指示しますか?出題委員は何か勘違いしているのではないでしょうか?熱傷をテーマにいままでと違った出題を狙ったようですが、このような出題は理学療法士国家試験問題としては不適切です。

1.高血糖になる:○
 →広範囲熱傷では高度な侵襲により、全身性の炎症反応が惹起されます。このような状況では交感神経が亢進した状態となるため、高血糖になります。

2.全身浮腫を生じる:○
 →前述のように広範囲熱傷では全身性の炎症反応が惹起され、その結果、炎症性の高サイトカイン血症となります。炎症性サイトカインは血管透過性を亢進させますので、血管内の水分が組織へと漏れ出す結果、全身性の浮腫をきたします。

3.輸液量を制限する:×
 →広範囲熱傷患者では血管透過性が亢進して、血管ないの水分が組織へと漏れ出す結果、全身性の浮腫ときたします。その一方で、血管内の水分が減少して循環血液量が減少し、低血圧となります。それを放置すれば急性腎不全となるため、大量の輸液が必要です。
 どれくらい輸液が必要かは、古典的にはBaxterの公式などがあります。

 受傷後24時間の輸液量(ml) = 4×熱傷面積 (%)×体重 (kg)

で表されます。たとえば50kgのヒトが50%熱傷を受傷した場合、4×50×50=10,000mL/日となり、1日10Lの輸液が必要になります。通常1日に必要な水分量は1,500mL程度ですので、この1日10Lの輸液量はものすごい大量ですよね。広範囲熱傷患者ではそれぐらい大量に輸液をしないと、血管内の水分を維持できないのです。

4.基礎代謝量は増加する:○
 →広範囲の熱傷では組織の修復のため、必要エネルギー量が増加します。必要エネルギー量は通常の1.2〜1.3倍に増加していると言われてます。

5.高蛋白の栄養療法にする:○
 →傷患者は多大な外科侵襲のために基礎代謝亢進と蛋白質の異化が亢進(蛋白質が分解してエネルギー源として使用されます)しているため、低タンパクとなりやすく、高蛋白の栄養療法にする事が推奨されています。



Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。

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