第59回理学療法士国家試験 午後66−70の解説
息子は第57回の国家試験に不合格で、第58回の国家試験に合格しました。昨年は第58回の試験問題が手元にありましたので、息子の合格の後、恩返しのつもりで国家試験の解説を投稿しました。
第59回は息子は受験していないので問題が手元にはありません。毎年厚労省から問題が公表されるのは5〜6月ごろでかなり遅いです。そこから出版社も対策本を作るので、対策本が手に入るのは夏前になってしまいます。またクエスチョンバンクなどの対策本は国試問題のすべてを網羅している訳ではありません(ごく一部です)。
昨年、国試対策の問題集を作って投稿したところ、多くの方に利用していただきました。今回、投稿を利用していただいた受験生(合格ラインを超えたらしい)の一人にお願いして、国家試験問題を入手する事ができましたので、昨年同様、早めに国家試験問題と解説を投稿したいと思います。
理学療法士ではありませんが、医師の立場から解説をします。これは違うよという所があればコメントいただくと幸いです。
(66) 脂質の消化と吸収について誤っているのはどれか。(59回午後66)
1.Langerhans (ランゲルハンス)島からリパーゼが分泌される
2.リパーゼは脂質を脂肪酸とグリセリンに消化する
3.胆汁酸は脂肪酸を乳化しミセルを形成する
4.ミセルは小腸粘膜で吸収される
5.小腸で吸収された胆汁酸は門脈を介して肝臓に運ばれる
【答え】1
【解説】
1.Langerhans (ランゲルハンス)島からリパーゼが分泌される:×
→膵臓は消化管に消化液を分泌する外分泌と血中にホルモンを分泌する内分泌の作用を併せ持ちます。リパーゼは脂肪を分解する消化酵素で外分泌になります。
脂肪の消化についてはちょっとややこしいですが、以下の動画がとてもわかりやすいです(大絶賛!)。
上記の動画を用いて、脂肪の消化を簡単にまとめました。
2.リパーゼは脂質を脂肪酸とグリセリンに消化する:○
→リパーゼはトリグリセリドを脂肪酸とグリセリンに分解します。
3.胆汁酸は脂肪酸を乳化しミセルを形成する:○
→胆汁酸はリパーゼがトリグリセリドを脂肪酸とグリセリンに分解した後、脂肪酸とミセルを形成し、吸収しやすくします。
4.ミセルは小腸粘膜で吸収される:○
→ミセルは小腸粘膜で吸収されます。
5.小腸で吸収された胆汁酸は門脈を介して肝臓に運ばれる:○
→ミセルとなって小腸で脂肪酸と一緒に吸収された胆汁酸は肝臓に運ばれ、胆汁酸がミセルから外れて再利用されます。これを腸管循環【重要】といいます。
(67) 近位尿細管における再吸収率が最も高いのはどれか。(59回午後67)
1.水
2.グルコース
3.水素イオン
4.クレアチニン
5.ナトリウムイオン
【答え】2
【解説】
一瞬「ん?」っと思うかもしれませんが、冷静に何がどこで吸収されたり、逆に排泄(分泌)されたりするかを考えれば正解にたどり着けます。多くの物質が近位尿細管から再吸収されますが、遠位尿細管で再吸収されるものを考えましょう。遠位尿細管でも再吸収されるものは、近位尿細管での再吸収率が相対的に低くなります。
1.水:×
→水は濾過された原尿の99%が近位尿細管と集合管から再吸収されますが、近位尿細管から60〜70%が再吸収されます。最終調整は集合管から再吸収されて、尿が濃縮されます。近位尿細管からの吸収の方が集合管より多いですが、選択肢2のグルコースの近位尿細管からの吸収率がほぼ100%なので、正解にはなりません。
2.グルコース:○
→グルコースは近位尿細管からのみ再吸収されます。尿に糖が検出されれば糖尿になりますよね。
3.水素イオン:×
→水素イオンは近位尿細管では再吸収されません。遠位尿細管で逆にNa+と交換で分泌されます(Na-Hポンプと言われます)
4.クレアチニン:×
→クレアチニンは糸球体で濾過された後、尿細管では再吸収はされず、遠位尿細管からわずかに分泌されます。一方、イヌリンは尿細管での再吸収も遠位尿細管での分泌もありません。クレアチンやイヌリンは糸球体濾過量の推定に用いられます。
5.ナトリウムイオン:×
→ナトリウムイオンは近位尿細管で再吸収されますが、遠位尿細管でもカリウムイオンと交換で再吸収されます。
(68) 体温の調節機構で正しいのはどれか。(59回午後68)
1.体温の調節中枢は間脳にある
2.体温は午前より午後の方が低い
3.精神性発汗によって体温は上昇する
4,体温が上昇すると骨格筋は収縮する
5.甲状腺ホルモンは熱生産を低下させる
【答え】1
【解説】
1.体温の調節中枢は間脳にある:○
→体温の調節中枢は視床下部=間脳にあります。
2.体温は午前より午後の方が低い:×
→午前より午後の方がヒトの活動性が大きくなるので、体温は午前より午後の方が高くなります。
3.精神性発汗によって体温は上昇する:×
→発汗すると汗の蒸発によって体温は下降します。
4,体温が上昇すると骨格筋は収縮する:×
→体温が上昇すると、骨格筋は弛緩し、熱の産生を抑えます。体温が低下すると、骨格筋の収縮によってふるえを起こし、熱を産生します。
5.甲状腺ホルモンは熱生産を低下させる:×
→甲状腺ホルモンは代謝を活性化するので熱生産を上昇させます。
(69) 骨格筋の筋張力で正しいのはどれか。(59回午後69)
1.全張力と静止張力の和が活動張力となる
2.活動張力とは筋長が長くなるほど大きくなる
3.求心性運動では速度が速いほど最大筋張力が大きい
4.筋張力が一定の場合、短縮速度は負荷が小さいほど速い
5.求心性運動は遠心性運動より大きな筋張力を発揮することができる
【答え】4
【解説】
1.全張力と静止張力の和が活動張力となる:×
→当然、全張力=静止張力+活動張力ですよね。
2.活動張力とは筋長が長くなるほど大きくなる:×
→活動張力は最も力を発揮する至適筋長があります。一方、静止張力はゴムのように筋長が長くなるほど大きくなります。
3.求心性運動では速度が速いほど最大筋張力が大きい:×
→求心性収縮では速度が大きいほど最大筋張力が小さくなります。
4.筋張力が一定の場合、短縮速度は負荷が小さいほど速い:○
→負荷が大きいほど、短縮するのに時間がかかりますよね、そりゃそうだ。
5.求心性運動は遠心性運動より大きな筋張力を発揮することができる:×
→遠心性運動の方が最大筋張力が大きいです。
(70) 肩甲上腕関節の内旋作用をもつのはどれか。(59回午後70)
1.棘下筋
2.広背筋
3.小円筋
4.三角筋後部線維
5.上腕二頭筋長頭
【答え】2
【解説】
1.棘下筋:× →外旋
2.広背筋:○
→広背筋は上腕骨の内側を通って、上腕骨小結節稜に停止するので、肩関節の伸展・内転・内旋作用があります。また肩甲骨に対しては下制作用があります(肩甲骨下角にしか付着しないので回旋はしません)。
3.小円筋:× →外旋
4.三角筋後部線維:×
→三角筋後部繊維は肩関節の外転・伸展・水平外転の作用があります。
5.上腕二頭筋長頭:×
→上腕二頭筋長頭は主に肘屈曲に作用します。短頭は肘屈曲と前腕回外に作用します。上腕骨には停止していないので、肩内旋作用はありません。
Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。
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