つらい時に酒を飲むとつらい気持ちが消える。世界の解像度が低くなることで、つらさから一時期的に逃れることができるので、人類はつらいことや苦しいことがあったりするとつい酒を飲んでしまう。酒を飲みながら味付けの濃い食べ物を摂取している瞬間だけは悩みから開放される。これが本当によくない部分で、飲酒+食べ物のコンボを繰り返していると肝臓と腎臓の値がすごいことになってしまう。美味しいものはだいたい身体に悪い。悲しい。
 僕が酒を断って約1年になる。そのあいだに健康診断を受けたら面白いぐらい数値が基準値になっていて人間のパワーを感じた。酒を飲んで飲んで飲みまくっても、90ちょっとまで生きる人もいれば、酒を飲みすぎて肝臓がんになって60ぐらいで死ぬ人もいる。これが生物としての性能差なんだろう。たぶん僕は後者の方で、あまり酒を飲まない方がいい人間だという気付きがあった。
 Twitterを見ていると水のように酒を飲む人たちを見るけれど、楽しいから、もっと楽しくなりたくて酒を飲むのならば、それは健全で問題ないと思う。だけど、つらさや苦しさから逃れるように酒を飲むようになると、それはアルコール中毒への第一歩だ。アルコール中毒になりかけた僕だからわかる。そういう時に酒を飲むのはやめた方がいい。
 つらさから逃れるように飲酒をすると緩やかな破滅がやってきて、長く凍えるような孤独のあとに惨めな死がやってくる。人間の尊厳とかそういうものはぜんぜんなくて、ただただ寂しくて惨めな終わりだ。
 この一年色々な出来事があって、さまざまな人の死を見たけれど、現実から逃避するために酒を過剰に摂取し人生を潰し、誰からも見放され、誰からも悲しまれず、やっと死んだか、と言われた知人の死を知った。本当にどうしようもない人間で、まったく美点が見つからないだめな人類だったけれど、死んで償うほどの犯罪や罪を犯したかといえばそうではない。ただダメな大人だっただけだ。
 たまにどうすれば彼は酒に溺れず、救われたのだろうなあと考えることがある。誰からも救われないからストレスを酒で溶かしていたのだろうし、酒で溶かしていたぶんのストレスが、蓄積していったら心という器が壊れてしまうだろう。酒に溺れていくとやっぱり破滅が到来するわけで人生は難しい。答えが出ない問について僕はずっと考えている。

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