おこずかい

 結婚をするとお小遣い制に以降するご家庭は多いと思う。僕の父親もお小遣い制だったけれど、飲み代と昼ごはんはお小遣いとは別の予算枠だった。昼ごはんや飲み代を含めてのお小遣いサラリマンに比べると恵まれている方だったのだろう。
 昼ごはん飲み物の代金含めて2万円で生活をしていた土建屋さんの社員さんがいたけれど、お小遣いや友人との飲み代を捻出するため、インパール作戦の兵隊さんみたいな生活をした結果、病院に運ばれてしまった。彼がどうなってしまったのかわからないけれど、節約したお小遣い以上のお金がかかったと思う。人間ずっと我慢し続けることはできない。世の中バランス感覚が難しい。
 社長になるとお小遣い制から脱却できるのか? むかし、まだ僕がピュアだった頃そんなことを考えたけれど、ここも難しい話で、何でも買っていいよ派の人もいるけれど、僕が知っているかぎりでは社長さんもお小遣い制から脱却できてはいない(それでもサラリマンのお小遣い制と比較すると結構な額なのだけど)
 地方でそこそこ大きな病院を経営している院長先生は、死ぬほど電車が大好きで、ドクターイエローを撮影しに行ったり、Nゲージの電車模型を買うのが生きがいなのだけど、お小遣い制の中でほしいNゲージの電車模型を買うのはやっぱり困難だったらしく「うちは小児科だから、子供が泣かないように電車があるといいんだよ。電車があると注射がスムーズに打てる」というよくわからない理屈で経費としてNゲージを買っていた。
 Nゲージの電車模型を診療室に置いて、自分が撮影した電車の写真を並べて、診察をしていた院長先生はすごく幸せそうだったし、子供が注射で泣きそうになったとき、Nゲージの電車模型で気をそらして注射をしていたので、あれは必要な経費なのかもしれない。
 ものすごく車とバイクが大好きで裸一貫で成り上がった社長さんは、自分が経営する結婚式場のディスプレイ名目で外車を買っていたけれど、あれはどういう経費になるんだろうか? 誰か知っていたら教えてほしい。
 あるとき結婚式場を経営する会社の社長さんが僕に来てほしいというので会社に行ったらピカピカのハーレーダビッドソンが置いてあってちょっとびっくりした。車を買うゴリラは大勢いるけれど、バイクに乗るゴリラはあまりいない。たぶん社長は僕がバイクに乗っていることを覚えていてくれたのだろう。
「僕ね。買ったんだよ。ハーレーダビッドソンのバイク。欲しかったんだよね」
 バイクを結婚式場のディスプレイとして並べたら、なんかいい感じになるじゃん、みたいな理屈を説明された。バイクに乗らない人にとって、バイクって結婚式場のディスプレイとしてどうなんだろう……と思ったけれど、新品のハーレーダビッドソンのバイクを見て僕もテンションがおかしくなってしまい純粋な気持ちで「ハーレーいいすね。カッコいいなあ。すげー」的なやりとりをしたような気がする(ものすごく昔なので会話の内容が曖昧)
 WEBサイトを見ると社長が買ったハーレーダビッドソンのバイクは数々のカップルたちの結婚式の背景の一部になっているので効果があったのかもしれない。そして社長はいまも外車を買い足している。どういう言い訳で外車を増殖させているのかちょっと気になるし、コロナで業界が厳しいとは思うけれど頑張ってほしいなという気持ちになった。

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