泥舟

 そこそこ働いて色々な船(職場)に乗ることがあった。何回か沈みゆく船に乗って限界まで限界まで頑張ったけど、泥舟は泥舟なのでさまざまなものを巻き込みながら沈んでいく。悲しい。頑張っても救えるものには限界があるんだ。そして組織という大きな生き物はひとりの人間の頑張りだけでどうにかなるほど甘くない。
 船が沈んでいく時は本当に救いがなくて、人は消える前にさまざまなものを略奪していくので、先週あった備品が今週無くなっていたり、帳簿上存在しているはずの物品が存在していなかったりする。
 敗残処理は本当につらい。まったく旨味はないし、お金はぜんぜん出ないわりに過剰なノルマと業務量を提示されるし、赤軍派みたいな総括を要求される。「俺が本当に殺したかったのはクソな職場と上司なんだ」と言いながら殴り殺せたらどれだけよかっただろうといまでも思う。
 泥舟が沈みゆくなかでも危機察知能力に長けている人は最初期に逃走していて、残留するのは泥舟以外に行き場所のない人か、この船は沈まないと考えてしまっている人たちだ。
 もしくは降り注いでくるタスクを片付けることが一種の脳内麻薬のトリガーになってしまっている人のいずれかだろう。仕事は出来るけれど性格が最悪な管理職はおそらくだけど、面接を通過できないからだと思うけれど残る率が高い。蠱毒とはこういう状況によって形成されるのかもしれない。蠱毒ぜんぜんわからんが。
 僕はなんとなくこの船は大丈夫と思いながら仕事をして、限界ギリギリまで仕事をして膨大なタスクをこなすことになってしまい、キャパを越えて野々村議員状態になって仕事を辞めたことがあるから、限界まで働いている人たちを見るとちょっとだけ心配になる。
 泥舟に残された人たちはたいてい「大丈夫大丈夫」と言いながら倒れて死んだり、ある日突然失踪したり、会社に来れなくなって消えていく。そこに老若男女、性格は関係ない。
 そして敗残処理の経験というものは世間で評価されなくて、面接に行くたびに性格の悪そうな面接官から「どうにかできなったんですか?」的な質問(経験上そういう質問をする面接官はあさま山荘に立てこもりそうな顔をしている)をされて「俺が本当に殺したかったのはそういう質問をする面接官だったんだ」という気付きがあった。
 幸いにして転職してたどり着いたいまの職場はそういう心配をする必要がなくて、僕の属性的に到達できる限界点なので、ここで出来る範囲で頑張っていけたらいいなあと思う。

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