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還暦おやじのスタディアブロードWith ウクレレ㉓

砂掛けばあさんとの出会い


 建物の入り口にスリッパを脱いで中に入った。一番手前の高齢者席は既に何人か座っていて、日本語が飛び交っていた。ありがたいことに夕食時はこの一番手間へのテーブルだけは日本語が喋れるのだ。高齢の女性が手招きしてくれたので、サンキューと言ってそのテーブルにリュックを置き、料理の列に私も並んだ。

 料理を一通り見てみると夕食も日本食が中心なのでありがたい。デザートとして、フィリピンバナナも用意していあった。マグネットのお礼だろうか、スタッフがワザワザ私のところまで来て、声をかけてくれた。

 その様子を高齢者席の方々が不思議そうに見ていた。多分、何度かこのスクールに来ている常連なのだろうと認識したらしい。最後にバナナをトレーにのせて、予定していた席に腰かけた。皆さん。初めましてよろしくお願いします。と、日本語で挨拶してから夕食の料理の写真を撮って、LINEで連れ合いに送信した。

夕食の料理の写真を妻にLINEで送信

 こちらは5時を過ぎたばかりなので日本は6時過ぎ、もしかしたら家族も夕食中かもしれない。そう思っているところに、LINEの返事が来た。この内容の食事なら日本にいる時とほとんど変わりませんね。それでも食べ過ぎに注意してくださいね。今日は息子が遅くなるので、おばあちゃんと2人で食事しています。

 そしてソックスの散歩は朝行ってきましたし、夕方も連れて行ってきましたので安心して、英会話の勉強に集中してください。という内容で、その文章の中では愛犬のソックすがお腹を出して寝ていた。

愛犬ソックス

 可愛いな~。ハグしたいな~。と、思いつつ女の子なんだからそんなみだら格好はダメだよって何時も通り突っ込みを入れているところに、このテーブルに誘ってくれた高齢の女性が日本語で話しかけてきた。ピンクのTシャツにロングで白髪という見た目から、水木しげるの漫画にレギュラー出演している砂かけばばあを連想させた。

  彼女が話しかけてきた「あなたは、今朝こちらに到着したんですよね。私は、4日前の木曜日にこちらに着いたんだけど。水曜日のスピーチはどうするのですか?」彼女の関心はこのスクールでは毎週水曜日の昼食の時に集会があるが、あなたはその時にスピーチをするかどうかという事だった。

 彼女の先生からの情報だと英会話上級レベルの生徒が司会をして、ニューメンバーと予定期間を終えて帰国するメンバーが夫々この食堂で挨拶するのだという、そして観客はスタッフも含めて30名位なるそうだ。  

  彼女はあがり症で英会話初心者なので、出来ればエスケープしたいが1人では不安なのでエスケープ仲間が欲しいらしい。私が自己紹介する予定ですと答えると、彼女の顔に赤みがさしてより妖怪度が増したことでゾクッとさせられた。

砂掛け婆フィギュア

 先生からは、紙に書いたものを読むようにすれば良いと言われているそうだが、日本人の前で英語を話すことに凄く抵抗があるらしい。その点は私にもわかる、それというのも私にも嫌な思い出があるからだ。私は食事をしながら脳がその記憶をたどっている。

Does this train go to Tokyo station?

 以前、電車内で「Does this train go to Tokyo station?」この電車は東京駅に行きますかと英語で聞かれた時に、焦ってしまって、「Yes, it does. You are going right direction. 」はい、あなたは正しい方向に進んでいますよ。と、いつも練習しているのに焦ってしまって「YES.」とだけ答えるのがやっとだった。

 もっと親切に伝えるなら「Yes, this train goes to Tokyo station. You’ll arrive in 10 minutes from here. 」はい、東京駅に行きますよ。ここから10分で着きます。と答えればよかったと反省した。それでも、不安に思っている方に安心して貰えてよかったと気持ちを切り替えた。

  焦った原因は、周りにいる日本人の目を気にしたからだった。無言の圧と言い換えても良いと思うのだが。一瞬「Tokyo station.」には冠詞の「The.」が必要かどうか迷ったからだった。そんな細かい事なんかどうでも良いのに、やっぱり周囲の目を気にしてしまったのだ。

  英会話が出来ない人でも英語は義務教育で勉強しているので、他人の英語を聞いて文法や発音の間違いを指摘して悦に入っている人たちがいるからだ。それに打ち勝つには間違っても平然としていられる度胸が必要になる。

 日本人の話す英語を聞いて間違いを指摘して悦に入っている奴は、外国人から「この電車は東京駅行きますか?」と日本語で質問されただけで慌ててしまって「ソオリー、ソオリー」すみません、と、言ってその場を逃げるように立ち去る人達なんだ、と、考えて無視した方がいいのだがいざとなると周りを気にしてしまう。

  そんな奴らよりも、全く英語が喋れないのに外国人に道を聞かれた時に、ボディランゲージだけで必死に説明している人や外国人の手を引っ張って目的地らしき場所まで連れて行ってあげる人を見ていると私は尊敬してしまう。そして私が最低だと思うのは「Sorry, I’m not from around here. You should ask someone else. Good luck. 」すみません。私はこの辺の人間ではないです。ほかの人に尋ねてください。ごきげんよう。と、流ちょうな英語で立ち去る人たちだ。

 ある人に聞いてみると、そのフレーズだけを練習している人たちもいるそうで、そのほかのフレーズは知らないのだそうだ。実は私もそんな一人だった。しかし、私は、東京オリンピックのボランティアをやろうと決めた時から、このフレーズは絶対に使わない、そしてわからない場合もその場から逃げずに、スマホで調べて教えてあげようと心に誓った。

 その為に「Sorry, I’m not quite sure. I’ll look it up on my smartphone.」すみません、よく知りません。スマホで調べてみます。というフレーズや「Let me ask someone else.」ほかの人に聞いてみましょうというフレーズを練習した。

 そうしなければ、先述のSorryから始まるフレーズは英語を流ちょうに話せるのに他の人に聞いてもくれないし調べてもくれない。日本人は冷たいという印象になってしまうからだ。せっかく日本に来てくれた外国人旅行者には、日本を大好きになって帰国してほしい。そして、友達と一緒に何度も日本に来てもらいたい。

 そのためにも私は英会話を勉強して、困っている外国人には積極的に声をかけること、そして変な英語でも大きな声とボディランゲージを駆使して助けてあげたいと考えている。英語ネイティブの人ならば、こちらが間違った英語を話したとしても一生懸命に理解しようと努力してくれると思う。

 インバウンドで日本を訪れる外国人が無茶苦茶な日本語を話したとしても日本語ネイティブの私たちが彼らをバカにすることはない。それどころか親しみを感じてしまうではないか。

私が今日朝めしにパンでした。

 私は日本に住んでいる外国人に対してボランティアで日本語教師をした経験があるが、彼らから「私が今日朝めしにパンでした」と言われても、そうか朝食にパンを食べたんだなと理解できる。

 日本語検定を受験する方々には文法上の間違いを指摘しなければならないが、日本人男性と結婚して来日されている外国人の方には、あえて文法上の間違いを指摘する必要はないと考えていた。

 それは細かい間違いを指摘すると委縮して話すことが出来なくなってしまうと考えるからだ。間違ってもいいからどんどん日本語を話すことを勧めていた。

玉ねぎさんとの出会い

玉ねぎさん

 夫々日本語を勉強する目的は違っているので、教え方もその人に合わせる事の必要性をいつも感じていた。私は食べ終わり顔を上げて周りを見渡すと高齢者テーブルでは日本語が飛び交っていた。主に話をしているのは、玉ねぎヘヤの高齢の女性だ。

 彼女はとにかく早口で機関銃のようにまくしたてていた。私と砂かけさんは、ニューフェイスらしく端っこに座っておとなしくしていたのに、運悪く玉ねぎさんと目があってしまった。

 矢継ぎ早に尋問を受けたので、埼玉県から来た事、一ヶ月こちらでお世話になる事、マニラにもこのスクールにも初めて来た事。そして還暦を過ぎている事とシゲキと呼んでもらいたい事を話した。

 玉ねぎさんは私からの答えを聞くと、又、レギュラーメンバーと話をしいていたが、話題は今夜行くマッサージのことから先生方の噂話だったようだ。私はスタッフへのチップについて聞きたかったのだが、質問するすきはなかったので、立ち上がってお先に失礼しますと声をかけて、食器を片付けて部屋に戻ることにした。

 英語中級レベルテーブルと上級レベルテーブルは、ほとんど生徒がいない。多分、8時間目の授業の準備の為に部屋に戻ったのだろう。私は明日から授業が始まるが1日4時間プランを申し込んでいるので、午前10時から12時までの2時間と午後2時から4時までの2時間だ。しかし、1日8時間プランの人は、午前3時間、午後4時間、夕食後1時間の授業があるそうだ。

 英会話に人生を賭けている人と趣味でこちらに来ている人との温度差は凄くあるようだ。

 ビールで乾杯!

 部屋のベッドに腰を掛けながらキットカットをつまみにビールを飲んでいる。どの色のビールも美味しくて、のどチンコが歓喜に震えているのが分かる。やっと本当にスタディアブロードの夢を実現できたという実感がわいてきた。ここに来るまでにはいろんなことがあったし自分なりに努力もしてきた。

 一番うれしかったのは、今から1年前にスタディアブロードの夢を連れ合いに告げたときに、理解をしてくれてあと押ししてくれたことだった。私は最後までマニラのスクールかセブのスクールかで迷った。マニラのスクールの魅力は食事だったが欠点は日本人しかいない事だった。

 セブのスクールは、外国人の生徒が沢山いる事と土日には先生と一緒に行くツアーがあるというのが魅力だったが、食事がフィリピン料理というのとグループレッスンというのが私にとってはマイナス点だった。

 健康面の準備も怠らなかった。マニラには1ヶ月しかいないが歯のトラブルは困るので、日本の歯科に通って全体をチェックして貰った。脳が原因で倒れたりしたら迷惑を掛けると考えて、生れてはじめて脳ドックを受診したし、前立腺肥大症についても専門医にチェックして貰った。振り返ってみると私はつくづく心配性なのだという事を思い知らされた。

  さて、初めてお湯のシャワーを浴びることにした。裸になってマンゴウから教わったやり方で暖かいお湯を全身に浴びた。シャンプーとリンスも気持ちがいい。ボディソープも香りが気に入った。

部屋の中ではシャネルの5番

 バスタブがないのが少し寂しいが、この生活スタイルになれるしかない。タオルでふき取ってバスタオルで全身を拭いて、パンツを履こうとしてふと思った、何のために?だって、ここには誰も入ってこないのだから、部屋の中は裸でいてもよいのだという結論に至った。

お熱いのが素敵

 早速、ベッドに横になってみると変な気分だが気持ちがいい。ふと、稀代のsexy女優のマリリンモンローのシャネルの5番という言葉を思い出した。
それは、モンローが大リーガーのジョーディマジオと新婚旅行に日本に来た時のインタビュー「あなたは何を着て寝ているんですか?」に対する答えだった。

 日本中の男性が息をのんで回答を待った。そして下着のシルエットが見えるネグリジェという言葉を予測していた。しかし、そこで” シャネルの5番”である。それは裸に香水だけという意味であり、その言葉により日本中の男たちが下半身を熱くしたことは想像に難くないし、不覚にも鼻血を流してしまった御仁もいたかもしれない。

そんなことを思いっている時に急に便意を感じたのでトイレへ。用を済ませてからお尻を拭いた紙はゴミ箱に捨ててくださいというルールを思い出した。
 マンゴウに部屋の掃除に来た時に私がお尻を拭いた紙を回収されることを想像するだけで嫌だ。
その為、紙を使わずに済む方法として思いついたのが、手で洗う事だった。
いつも自宅で機能便座を愛用している私にとっては、抵抗がない。
 手洗いの為の蛇口から水を手のひらにのせて、ケツを洗ってみた。

 そして洗い流した後は、シャワー室に移動してお湯で再度洗い流してバスタオルで拭く事で完璧だし気持ちが良かった。すっぽんぽんでベッドに腰かけながらビールを飲んでいる。シャワーを浴びた事で全身がリラックスして眠くなってきたのでそのまま横になる。

ゾンビ

 また、何かに見られている気がしてゾックっとした。私のお気に入りのフルーツに相談して、部屋を替えて貰おうかと考えたがあまりにも子供じみていて、話すのはやっぱり恥ずかしい。

 


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