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#71 エマーソンとエミリィ 【宮沢賢治とエミリィ・ディキンスン その9】

(続き)

○  エマーソンとエミリィ

エミリィ・ディキンスンに影響を与えた人物に、エマーソンがいます。

エミリィは、20才頃に、家庭教師からエマーソンの詩集をもらったことをきっかけに、エマーソンの著書を次々と愛読するようになったと言われています。エマーソンは、エミリィと同じニューイングランド地方で、同時代に生きており、エミリィが住んでいた家の隣家にあった兄の家にエマーソンが泊まったこともありますが、エミリィがエマーソンと対面したかはわかりません。

当時のニューイングランドの知識人の中には、エマーソンから影響を受けた人々も多いと言われ、エミリィの作品からもエマーソンの影響が見られます。その影響は、詩作に対する考え方や、詩の中の表現など、エミリィの詩が形成される過程の重要な部分ではないかとも推察され、エミリィにとってエマーソンは重要な人物の一人と言えるでしょう。

エマーソンは、1803年にアメリカのニューイングランド地方、マサチューセッツ州ボストンで生まれ、1882年にマサチューセッツ州コンコードで亡くなりました。思想家、哲学者、作家、詩人であり、「超絶主義」の先導者と言われています。エマーソンは、元々はキリスト教の牧師でしたが、キリスト教の教義に疑問を感じ牧師を辞め、超絶主義と呼ばれる思想を構築しながらアメリカで活躍しました。

超絶主義とは、あまり耳馴染みのない言葉ですが、人間が元々持っていた「善い心」や「自然」な状態を信頼し、人間が本当の意味で自立している状態こそが最高の状態であると考える思想です。この説明を聞いても、今ひとつピンとこないかもしれませんが、エマーソンは意外なジャンルで、今でも馴染み深い人物と言われています。
それは、「自己啓発」という、ビジネスで成功する方法や心構えなどを教えるジャンルです。
「自己啓発本」として有名なナポレオンヒル「思考は現実化する」にもエマーソンの言葉が登場します。また日本でも、中村天風という自己啓発系の本を多く出している人物がいますが、その中村天風の言葉の中にもエマーソンの言葉が登場します。
メジャーリーガーの大谷翔平は、(真偽はわかりませんが)中村天風の本を読んだとも言われており、書店の大谷翔平のコーナーに中村天風の本が並べられているのを見た記憶もあります。
そう言われてみると、大谷翔平が超人的に努力する姿は、超絶主義的に見えなくもありません。

大変興味深い論文(尾崎俊介「コピペされ、拡散されるエマソン」)があります。
アメリカの多く自己啓発本でエマーソンの言葉が引用され、その自己啓発本が有名になると、その本を元ネタに、更に新たな自己啓発本が書かれる場合があります。
その際に、エマーソンの言葉も元の本からコピーされ、場合によっては、間違って引用されたエマーソンの言葉が、そのまま(間違ったまま)引用され、拡散するという、とても興味深い現象が発生しているとのこと。
そのように、アメリカンドリームの国では、エマーソンは成功思想の象徴的存在であり、特に「成功者」と呼ばれる人々にとって、重要な存在であるとも言えます。

(続く)

2023(令和5)年9月30日(土)
(2023(令和5)年10月15日(日)修正)

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