8/1-14 扁桃腺を取った

タイトル通り、扁桃腺切除手術を受けた。記録として入院中の出来事と患部の経過を投稿したいと思う。手術の話題につき、痛そうな表現が多いため苦手な方は記事をそっと閉じて欲しい。感想の記録なので参考になる情報も無い。

入院期間は手術含め一週間と2日。扁桃腺切除の標準期間との事。

●入院初日

朝イチの開院時間に合わせて入院。CTスキャンや全身麻酔の説明など、術前の手続き。入り時間が早かった事もあり、やるべき事全て午前中に終わってしまった。自宅の冷蔵庫に大事にしまっていた桃を食べ忘れてしまった事に気付く。(1玉で300円もしたのに!)3日前に買ったものなので、帰った頃の傷んだ姿を想像し落ち込む。

前日遅くまで働かされた疲労もあり、ランチの入院食を腹いっぱい食べてすぐ、グッスリ昼寝してしまった。運良くこの日はイベントデーという事で、夜の入院食は鰻が出てホクホク。当然まだ痛むところも無いので、冷房の効いた病室でのんびりホテル暮らしの気分。21時より絶食。

●2日目(手術日)

朝:看護師から、本日いっぱいは何も食べてはならぬ。腹が減ったらこれを飲め。と渡された経口補水液をチビチビ飲み、空腹を凌ぐ。経口補水液を飲むのは初めてだったが、思っていた数倍美味しかった。

昼:午後イチに手術室へ呼ばれる。手術室ではなんとケミストリーの「you go your way」が流れていた。音楽を流しながら手術だなんて、TVの中の話だと思っていた。(スーパー医師がベートーベンを流しながら執刀、みたいな。)俺の扁桃腺は堂珍ボイスをBGMに切られるのかと思うと、穏やかな気分では無い。患者の気持ちをリラックスさせるために、全身麻酔が効くまでのサービスなのかもしれないが、それならそれで曲は自分で選ばさせて欲しかった。(選ばせてくれるのなら、大事MANブラザーズバンドの「それが大事」とかにしていたと思う。)もっちゃりした気分で手術台に横になる。

麻酔医が「じゃあ点滴から麻酔入れますね〜」と合図するなり、どっしりと鈍い痛みが、手首を起点に肩口へ駆け上がり、そのまま頭の左半分あたりまでずっしり重くなったあたりで記憶がない。落ちたのは1番目のサビ終わりあたりだったと思う。入室時がイントロだったから、手術準備〜気絶までかなりのスピードで進んだ。医師達、さすがプロ。仕事が早い。

気絶してから数秒後、目が醒めると既に手術は終わり宇多田ヒカルが流れていた。(曲目は朦朧としており自信がないが、「First Love」だったかと思う。宇多田ヒカルであった事は間違いない。)俺の本名とかけてくれたのだろうか。だとしたら余計なお世話である。

麻酔明けの事はぼんやりしており、出来事の順序・時間の縮尺が曖昧だ。はっきり覚えている事も少ない。確実な出来事として覚えているのは、医師から保存カプセルに浮く患部を見せられたのに対して「梅干しみたいですね」と答えた事・立ち会ってくれた母が病室へ面会に来てくれたは良いが、2分くらいで速攻帰った事くらいだ。(自分の感覚ではここまで10分程度の出来事なのだが、実際は予定を1時間押し、4時間近く掛かった事を後から知る。)

夜:麻酔がすっかり醒めるともう20時で、ガッツリと40度近い風邪をひいていた。悪寒に耐えかね、看護師さんに掛け布団のおかわりを貰う。(先月妻の出産時にナースコールの鳴らし方は習得したので、迷いなく呼び出し成功。エッヘンという気分だ。)

風邪とともに、血の混じった痰がドバドバと出る。切りたての患部が酷く痛むので、飲み込む事が出来ない。仕方なくティッシュに吐き出しては捨てるを繰り返す。口内に溜まった分はペッと吐けばいいので問題ない。辛いのは、喉の奥に居着く痰で、これを口まで誘導する際に、患部を通る事になるため苦しい。中々吐き出せず「窒息死」の3文字が頭をよぎる。死因が痰だけは嫌だと思い、夜通し痛みに耐えながらカーッ!ペッ!とやり続ける。

●3日目

発熱は昨晩より落ち着くも37後半〜38度をいったり来たりで、倦怠感が続く。患部の痛みは昨晩をピークに多少和らいだ。エグい風邪引いたときはこれくらい痛むよな、といった程度。叫ぶほどの激痛を予想していたので、意外だった。今日から食事OKとの事で、朝食より入院食再開。といっても、重湯(ユルい液体のりのようなもの)+トロみのついた味噌汁というメニュー。傷ついたノドで食べられるのはこれくらいしか無いのだろう。飲み込む度にノドが痛むが、性根がデブなので完食。完飲か。この日は昼も夜も同じメニュー。大きなお盆にコップがちょこんと2つ。どことなくディストピア小説の雰囲気。

●4日目

ようやく熱が落ち着く。患部の痛みも、朝晩の痛み止めの点滴があればチクチクする程度に。食事は「米由来の食べ物かな?」といった感じの3分粥+味噌汁+煮物にランクアップ。噛めるという事は素晴らしい。それより、昨日までの発汗で体中がベタつき気持ちが悪い。看護師に尋ねるとシャワーはあと2日程度お預けとの事。洗髪をしてもらい、体は蒸しタオルで拭く。回復するにつれ徐々に正気を取り戻すと共に、パンツの持参数を間違えており、今日をもって替えがなくなる事に気付く。早く洗濯に行かなければと焦る。

●5日目

体調はすっかり手術前同等に。痛みも食事時以外は落ち着き、ほぼ健康体に。食事は「あ、これは米だったな」とわかるレベルの5分粥+焼き魚のほぐし等。

タオルでの洗体、洗濯物等する。替えの下着が無いので、乾燥が終わるまでノーパンの憂き目にあう。点滴に来る看護師に気付かれやしないか、無駄なドキドキを味わう。

無事パンツを履いた後はやることも無く、「みんなの本棚」という、入院患者達が読み終わった持参の本を置いて行く書架から、伊藤計劃の「ハーモニー」を借りる。再読だったが、病院で読むには色んな意味でうってつけの内容だと思う。置いていった患者はわかっていて持ってきたのだろうか。

晩、患者による切り替えがうまく行かなかったのであろう。先程までおじいちゃん患者の相手をしていた看護師が俺のベッドへ来ると、おじいちゃん向けの口調で「点滴かえまちゅよ〜、チクッとしてもガマンガマンでしゅよ〜」と話しかけてくるなりハッした表情。以降、気まずい沈黙のなか点滴を替えて貰う。普段ヤンキー上がりのお姉さんと言った感じだったので意外だった。赤ちゃんプレイのようで悪い気はしなかったが。

●6日目

喉の痛みは、冷たいものを飲み込む時チクチクする程度に。喉の痛みの治まりと引き換えに、口内のあちこちに出来た切り傷が気になりだす。(開口用の手術器具に因るものだ。)舌も筋肉痛気味でうまく動かせず、うっかり切り傷に触れたせいでピシッ痛むミスが散発し、難儀する。

口内以外はすっかり健康なので、ヒマを持て余す。動き回りたいが、点滴の取り口を手の甲に設定されたため、両手での動作に手間取る。

看護師曰く、ジッとしているのが点滴を早く終わらせる秘訣との事。なので結局ベッドで読書したり5chをしたりと、暗い過ごし方に。伊藤計劃を読み終わったので、さくらももこの「もものかんづめ」「さくらえび」を読む。後者は初読。さくらももこが充実しており、エッセイは一通りあった。ファンの患者がいたのだろうか。どうしようもないエピソードが良い退屈しのぎになった。

食事は「炊飯失敗した?」と尋ねてもいいくらいの全粥(なんと全て米粒である!)+おかず。日々進歩である。食事に制限のない一般食の患者たちの今晩メニューはカレーとの事を知り、憤る。俺は粥とシチューだ。食べ合わせの問題だろうか。俺は粥とカレーでも全く問題は無いが。あるグループの中で諍いを起こそうとするなら、食事に格差をつける方法が1番簡単だなと感じる。


●7日目

喉の調子は前日とほぼ変わらず。のどちんこが腫れているらしく、仰向けになると息苦しい。そのうち治るらしい。

ついにシャワー解禁。ついでに点滴から開放。食事は普通の白米+おかずという最終形態に。これで自由になったのだ!コーヒーも一杯くらいならOKとの事につき、自動販売機でFireを買い、飲む。ここ数日、自販機を眺めてはI need the fireといった感じだったので嬉しい。

PCとwifiルーターを持参していたので、1日テレワークをする。病院からでも不足なく仕事出来るのだから、未来だ。どこからでも仕事ができてしまうのは仕事をしない理由を一つ潰してしまうという事で、サラリーマンにとっては不幸だと思う。

体調の報告も兼ね、上司と進捗共有のZoom会議をする。俺の点滴が画面に写り込んでいた事もあり、進捗の追及を受けるどころか心配される。これなら、仕事中は毎日点滴でも良い。

●8日目

喉も口内の痛みもほぼほぼ治まる。いよいよ完治の気配。

みんなの本棚があるデイルームで過ごす。「江戸川乱歩傑作選」「大林素子のバレーボール教室」「銀河鉄道の夜(途中で断念)」を読む。乱歩傑作選はオチを忘れていた為、石榴・陰獣を非常に面白く読めた。忘れっぽい性格なので、ミステリなどは再読でも初見の気分で読むことが出来るので得をしていると思う。

大林素子は、バレー経験者の妻と試合観戦する際、毎回ルールがわからず置いてきぼりになるので、勉強のため。ローテーションにも色々種類があるのだと感心。また、複数ブロックの時はリーダーの声出しが重要との事。(その他の内容はこの記事を書いている今日時点で既に忘れている)この本の目玉、秘蔵!モトコフォーメーションはハイレベル過ぎて理解できず。

それにしても、この本棚のラインナップの傾向として「ミステリ」「戦争SF」「人斬りモノ時代劇」に偏りがあるように思う。みんなして生きる方・生かす方を目指す環境なので、無意識にメンタルのバランスを取ろうとするのだろうか。

病棟で医師を見かけたので、捕まえる。毎朝の診察時には恥ずかしく聞けなかったが、どうしても気になっていた事を、意を決して尋ねる。結果、ミスドはOKだがオールドファッションはNGとの事。それが1番食べたいものであったのでショックだ。

●9日目

退院日、最後の診察で当面酒はダメですからね!との念押し。聞いてもいないのにオールフリーも炭酸だからダメです!とダメ押し。聞くつもりではあったが。世話になった看護師さん達にお礼をし、病棟を後にする。

会計は限度額適用認定証を使い、入院代コミコミで9万円程度。万が一医療保険が通らなくてもゆくゆく、会社から多少補助が出るらしいので、許容範囲か。医療保険に関しては、病院で申請書を書いてもらうだけで7千円もかかるとの事。世知辛い。

病院から出ると、まだ昼前だというのにとんでもない暑さ。1週間エアコンでキンキンの環境にいたので、世間は夏真っ盛りだということをすっかり忘れていた。

帰りしな、ささやかながら退院祝い。エネルゲンを飲み、ポン・デ・リングを食べ、シメに日暮里駅ナカの寿司屋でランチしてやった。病院ではどうあがいても生魚が食べられなかったので、寿司を食べたかった。

帰宅後:昨日まで過ごした4人部屋から突然1人きりの自宅となったからか、0時過ぎても寝付けず。昨晩までは、隣人が定期的にナースコール代わりに発する「ンアアアアー!!」という叫び声があっても、消灯時間に合わせちゃんと寝付けたというのに。いつの間にか子守唄になってしまったか。嫌な子守唄だ。

眠気が来るまで、だいぶ自由が効くようになった口内を点検する。患部のあたりに舌を伸ばしてみる。以前扁桃腺にタッチ出来たあたりは、切除したので当然からっぽに。自分から切っておきながら「そうか、もう扁桃腺はいないのか」という気分に。城山三郎。

思えば生まれたときから肥大気味だった。長い付き合いだった。

追伸:なんと桃は腐るばかりかベストな熟れ具合になっていた。扁桃腺の神からのご褒美だと思って食べた。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?