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夢の中の世界にいた頃の話〜その1〜

舌がんで舌亜全摘手術をするまで、私は『声の仕事』をしていた。分かりやすく言えば『声優』だった。今の声優さん達のように動画やテレビに姿が露出しなかった頃の話である。現役だった時は特に名前が売れていたわけでもなく、色んな作品に脇役やその他大勢での出演が多く『困った時の〇〇』とピンチヒッターで呼んでいただいていた。
『声優の仕事』と一言で言っても多岐に渡る。よく知られている『アニメ』『洋画の吹き替え』から始まり『ナレーション』『着ぐるみショーのキャラクターの声』『着ぐるみショーのお姉さん』『イベントのMC』『コンテストなどの総合司会』『ドラマ撮影時の役者さんのダミー』と、様々な仕事に呼んでいただいた。

もちろん、普通の女の子が突然声優事務所に入って仕事をもらったわけではなく、私の場合、一度会社員として働いて貯めたお金で、声優専門学校に入学して勉強した。
大手声優専門学校として知られる学校に在籍していた時は、同期はほぼほぼ歳下で高校卒業したばかりのお嬢さん、お坊ちゃんが多かった。(この時私は24歳)
授業初日、教室に一番乗りだった私は、後からくる同級生にいつものように『おはようございます』と挨拶をしていたため、同級生達は私を講師の先生だと思ったらしいw実際、講師の先生方との方が歳は近いのだから無理もない。

一度社会を経験すると子供の世界のゆるさに驚いてしまう。地方から出てきてる子達は『新聞奨学生』で寮ぐらしという子が多く、朝新聞配達をしてから学校に来るので授業中は疲れて居眠りを始める事も珍しくなく、度々講師を怒らせていた。講師には現役声優さんや俳優さんもいらして、特別講義の時などはピリッとした空気が流れていたのを今でも思い出す。
特別講師を招いての授業の時は必ず私がアシスタントを任された。
理由は『社会人を経験してるから』
声優養成専門学校なので、入学してくる子は、いわゆる『オタク』がほとんどで(例に漏れず私も超オタクだけども)活躍してる声優さんが講師で来ようものなら、一気にイベント会場に集まるオタクに変化する生徒が大多数という状況なため、専任講師だけでは手が足りず、冷静に動けるであろう私が警備を引き受ける羽目になった。
『私だってオタクなので人気声優さんが目の前に来たらテンションアゲアゲになりますよ当然』と思っていたので不思議だったのだが、たまたま職員室やアフレコルームの掃除当番だった時に特別講師の声優さんやアイドルさんがいても、はしゃいだり騒いだりせずに、態度が普通だったので、講師の声優さんに『新しいバイトさん?』と言われた事があったのも理由の一つだった。

だって声優という仕事がしたくて専門学校の門を叩いたんだよ。お金払ってる立場だけど、学校は遊び場じゃなくて仕事場だよね?講師の先生とは言っても、将来的に『仕事仲間』になる人だよね?
会社員してた頃は、先輩に素敵だな〜憧れちゃうな〜という人はいたけど、そういう人になりたい!ていう気持ちが先に来るから、出る言葉や態度は『きゃー握手してください!サインください!』ではなく、憧れの人がしている事の真似になるわけで。
どの特別講師にも変わらぬ態度をとっていたことが功を奏し、大手声優事務所所属のベテラン声優さんとのご縁ができて、その事務所にお世話になることになるのだが、そのお話はまた今度。

舌亜全摘状態になり、声優として役に立たない私だが、未だ事務所には所属声優として在籍したままである。相談する間も無く緊急手術だったため、大変なご迷惑とご心配をおかけしたので(幸いなことに、その時はレギュラーは全て終わっていた)『引退して退所します」と伝えたのだが、社長を始めとするマネージャー・デスクの総意で『このまま事務所の俳優でいてくれ』と返答をいただいた。なぜなのか分からないままだが、たいへん有り難い話だったので甘えさせてもらった。
その話し合いの後で、事務所の同期にそのことを伝えたら、みんな泣いて、そして喜んでくれた。
私の事務所の同期は、養成所からの戦友だが、皆、代は違うが同じ専門学校卒業生であり、社会人経験者であることも奇跡w
同期の中には今や事務所の看板と言われるほど売れまくってる子もいる。その子に会うたび『〇〇(作品名)のグッズ買ったよ〜』とグッズを見せびらかしたりしている。テレビドラマに出演した子に『観たよ〜素敵だった〜』とメッセージを送ったり、同期が出演する舞台を観に行ったりもした。
同期はもちろんのこと、事務所の後輩達も優秀で売れっ子が多数いるので、可愛い後輩達の出演作品グッズや配信ライブをチェックしたり、後輩達の番組出演情報をファンのふりして(ファンだけどね)Twitterでめちゃめちゃツイート&リツイートしたり。なかなかに楽しくお役に立っていると思っている(自己満足)。

私の体験や考えている事を発信していきたいです。 同じ病気を抱えている方やご家族に明るい話題をお伝えできるよう日々精進!がんばるぞ!