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夢の中の世界にいた頃の話〜その2〜

大手声優養成専門学校生だった時、特待生選抜試験というものがあった。
生徒の中から成績優秀者を選び、小論文と面接試験を経て学年から1名特待生となり授業料が半額になるというものだった(今はあるかどうかは不明)
他の生徒さんと違って自分の稼いだお金で通う身としては『挑戦しない選択肢はない』と瞬時に判断して申し込んだ。
授業は無遅刻無欠席、特別講師の先生方のアシスタントをしていた実績のおかげで受験資格を得て早速小論文に取りかかった。
大学のAOや推薦入試と違い試験当日に小論文を書いて提出するのではなく、テーマと字数など必要事項が書かれたプリントをもらい、一週間以内に書いて提出するというもの。そして小論文で合格をもらった者のみ面接試験に挑めるという試験内容だった。

その時のテーマは『学生として社会に提案したいこと』だったと記憶している。
字数指定は800字程度。それを一週間以内に書いて提出…
『ゆるすぎないか?』というのがその時の正直な感想。もう学生という歳ではないにしろ、腐っても4大卒。毎回大学の授業の課題で4000字以上のレポートをこなしてきた。卒論に至ってはそれ以上の大変な思いで書いては突っ返されるを繰り返して、それでもちゃんと4年で卒業しているのだ。しかも、今回は添付資料は必要ない。自分の考えを書くだけの、言わば作文に近い小論文。

小論文に書いた内容は確かこんなことだった。

『人間は言葉を操ることができる種族である。こんなに素晴らしいコミュニケーションツールを与えられているのに正しく使わないのは、あまりにもったいない。生まれてから20年以上経ってからでは、自分の考えがある程度固まっているので、知識の吸収力は衰えてしまっている。まだ初めて言葉を発する乳児の時期から、正しく美しい言葉というコミュニケーションツールの使い方を社会の大人が繰り返し教えるべきではないか。社会人である大人の皆様も思い出していただきたい。言葉は心と心を繋ぐ道具であり、他人を傷つける凶器ではないということを。社会に生きる大人の方々も、これから社会に出る学生達も、皆一緒に『言葉』という道具の価値を考えてみることを提案したい。』

改めて書いてみたが、偉そうだなお前何様だ?って文章だが、言葉の専門家である声優を目指す者が集まって勉強してるはずなのに『え〜・だって〜・うるさいな〜』の3語と同級生や芸能人の悪口しか聞こえてこない生活が続いていたストレスを全てぶつけた内容になったw
書きたいことを書きたいだけ書くと余裕で1000字は超えるので『800字程度』というルールを守るために無駄な部分を省いたり、同じような表現になっていないかチェックしたり、参考になる新聞記事を図書館で読んだりして、よし不備はない!と学校に提出したのがスタートから4日目だった。担当の先生に『お前速いな!大丈夫か?』と笑われたが、結果は合格だった。
後から聞いたら『他の候補者は大人への不満や、愚痴を連ねただけの作文、というかお手紙?のような文章だった。社会の大人と学生の両方の目線で、タイムリーなニュースも入れて書いた文章は、お前だけだった。審査員の先生方は声優さんや俳優さんだから『言葉を大切にしたい気持ち』が刺さったんだろう』とのことだった。
当時、同級生達が10代ばかりで『出遅れたのかな〜私。高校卒業と同時に始めた方が良かったかもな』と後悔した時もあったが、その時初めて『大学と社会経験しといて良かった!』と自分の人生に感謝した。
面接試験でも審査員の先生方に高評価をいただいて、見事、特待生の座をGETしたのである。実は面接まで進んだのは私一人だけだったという事実を後日聞かされて再び驚いた。特待生試験は毎年合格者が出るというわけではなく、一名出るか出ないか微妙という類の選抜試験だったことが、卒業後に解って笑ったのを覚えている。

その時もだったが、今でも思い出すのは、中学生の頃にお芝居のチケットをもらい、母と一緒に観に行った時のことだ。
その舞台の主演を務めていた俳優さんの奥様が母と友達だったため、楽屋にご挨拶に行かせていただいた。有名な俳優、声優として活躍していたその方に『声優になりたいんです!』と気持ちを力いっぱいぶつけた。(怖いもの知らず)
その方からの返答はこうだった。
『高校大学で勉強して、社会を経験してからいらっしゃい』
その時は子供だから相手にしてもらえなかったと悔しい思いだったが、実際に高校大学、社会を経験してから入った私は、他の人は持っていない武器を手に入れていたのだ。そしてコネや後ろ盾に頼ることなく『ありのままの自分』を認めてもらうことができた。

最近YouTubeや掲示板で『養成所、専門学校の闇』的なものをよく見かけるが、言ってしまえば『負け犬の遠吠え』であると思っている。実際、現在活躍している俳優さん声優さん達もそう思ってる人は多い。私は活躍しているわけではないが、中途半端に諦めたわけでもなく、まだ指の先っぽくらいは夢の世界の住人なので、その世界に入ろうと頑張る人達が役に立たない呪いの言葉に惑わされないように見守っていたいと思っている。

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