見出し画像

姉弟日記 『包み隠し』

家の中をこそこそと歩き回る少年。
幼い手には、小包が握られている。

オレンジ色のリボンが添えられたそれは、
彼が用意した姉へのプレゼントだ。

──今日は、姉の誕生日。

少年は放課後になるとすぐに下校して、
小包を家のどこかへ隠す計画を立てていた。

姉のためになけなしのお小遣いを使い、
事前にプレゼントを買ったと知られたら……
確実に“いじり”のネタにされてしまう。

姉よりも優位に立つためには、
相手をサプライズで驚かせる必要があった。

思わぬ贈り物につい喜んでしまった姿を、
いじり返すためのネタにすればいいのだ。

そのために、まずは見つかりにくい場所──
普段開けない洗面台の棚に小包を隠し、
在処を示す『ヒント』を家中に散りばめる。

ヒントを見つけた姉はまんまと誘導され、
自らプレゼントという罠にはまる算段だ。

少年は一週間かけて作ったヒントを設置し、
不敵に微笑みながら、姉の帰宅を待った。


姉が帰宅してしばらく経ったが、
ヒントの答えに辿り着く様子はない。

洗面台を示す暗号を書いた紙は、
ゴミかと思われ捨てられてしまった。
洗面台へ導くために点々と貼ったシールは、
2つだけ見つかって剥がされてしまった。

姉は他人への気遣いに長けているくせに、
何故か自身への好意には鈍感なのだ。

──このままではまずい。

隠したプレゼントに姉が気付かず、
もし先に両親が見つけでもしたら……
家族の全員からいじられかねない。

焦った少年は思考を巡らせて、
プレゼントの隠し場所を変えることにする。

さすがに洗面台の棚は見つかりにくすぎた。
次は、リビングのテレビ台にでも……

少年は足音を消して洗面所へと向かい、
棚から隠した小包を回収する。

そして、
隠し場所を変えようと踵を返すと──

ふとドアの隙間から見えたのは、
くすくす笑いを我慢する姉の姿だった。

その日の夜、姉弟が眠るまで。
贈り物のことを両親にバラそうとする姉を、
少年はひたすら静止し続ける羽目になった。

だから結局、彼が贈った小包を開けて、
姉がどんな顔をしたのかは見れず仕舞い。

そのことを少しだけ後悔しながら、
少年は布団の中へと潜る。

『まあ、別にいいか──』

前の休日に散々迷って買った、
“ひよこのキーホルダー”を思い返しながら。

彼はどっと押し寄せる眠気に、身を任せた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?