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「君たちはどう生きるか」感想

 この映画は公開初日に観に行ったんです。
 普通の映画なら事前に宣伝をしてキャストやあらすじをある程度は公開するものですが、この映画にはそれが全く皆無だったのです。
 だから気になってしまって初日に観に行ったというわけなんです、ジブリの戦略にまんまとハマったんですね。

 なかなかに衝撃的な鑑賞体験だったので感想を書きたかったんですが、映画の性質的にネタバレはよくないですからね、公開が終わるまで待とうかなと思っていたんです。
 そして4か月経ったけどまだ公開中じゃないですか、やはりジブリは集客力がありますね。この記事を書いてる時点で興行収入は82億円らしいです、宣伝をしてない割には稼いでいますね、さすがは宮崎駿監督です。

 もう巷にはネタバレどころか考察動画なども出尽くした感がありますからね、もういいでしょう。

 さて感想を書いていくわけなんですが、映画の性質上内容に触れないわけにはいかないのです。
 なので未鑑賞の人は気をつけてください、フルパワーネタバレしますのでね。

導入部

 時は太平洋戦争中、主人公のマヒトは火事で母親を亡くしてしまう。
 マヒトは父親の再婚相手ナツコ(母親の妹)と母親の実家に疎開する。
 義母となじめないマヒトは不思議なアオサギと出会う。

 ここまで聞くとそこまで難解な物語では無いように思うでしょう?
 でもここから話が謎めいてくるんですよ! ではストーリーを追いながら気になったポイントを挙げていきましょうか。

謎のアオサギ

 マヒトは疎開先の屋敷で不思議なアオサギと出会います、これは鑑賞前の唯一の情報だったポスターのアレに違いないとテンションが上がりましたね。
 このアオサギが初めてしゃべるシーンはぞわぞわとしましたね、雰囲気的にはファンタジーというよりホラーです。
 このアオサギがなかなか良いキャラクターで、最後まで見せ場があるんですよ。だけどビジュアルがなあ、どう見てもおじさんなんだもん。
 見た目からか何となく「もののけ姫」のジコ坊を連想しますね。

お屋敷の面々

 母親の実家だという屋敷はかなり大きなもので、使用人たちも大勢います、かなりの名家なのだろうと思われますね。父親も軍需工場の経営者ということでしたから、マヒトは良いところのお坊ちゃんなんですね。
 使用人たちは年寄りばかりで、ほとんどおばあさんです。宮崎駿監督作品にはよくおばあさんが登場しますね、たくさんいますから一人一人細かく描写されるわけではないんですけど、一癖も二癖もありそうな面々です。

マヒトの暴力性

 マヒトは屋敷にも義母にもなじめず孤立します、それは転校した学校でもそうなんです。
 学校の帰り道クラスの男の子たちに囲まれてしまいます、マヒトはそこでひるむような性格ではないので向かっていくんですが、多勢に無勢でやられてしまうんです。
 そこで何を思ったのか道に転がっていた石で自らの頭を殴りつけるんです。これは驚きましたね、何せ突然でしたし結構な出血量でしたから。
 この自傷行為の意味は最後まで説明されません、終盤でマヒトがその時の傷を指して「これが僕の悪意の証だ」みたいなことを言いますから、何らかの悪意を持ってやったことなのでしょう。
 そして例のアオサギが自分の生活を時々覗きに来ることに対してマヒトがやったことは木刀で殴りつけようというものでした、まだ人間の言葉をしゃべる前ですから普通に鳥を殺そうとしたわけですね。
 こういう一連の行動を見て主人公マヒトの暴力性を感じました。

謎の塔へ

 ついに正体を現したアオサギ、「あなたの母上は生きておいでです、私と共においでください」と謎の塔へ誘おうとするんです。
 だけどマヒトはまったく信じずアオサギを殺すべく武器を手製の弓矢にアップグレードします、まあアオサギは見た目にも怪しさ満点ですから信じられないのはわかりますが、危害を加えてくるわけでもない相手に殺意を持つ理由がわかりませんね、「信じられないから殺す」というのは暴君の思考回路ですよ。
 ここから「弓で狙う」→「外す」→「弓を改良」みたいなことがしばらく続いて話がまったく進まなくなります、こんなストーリーと関係ない苦労話みたいなエピソードはいらないんですよ、後から考えてもこの一連のシーンは全カットで良かったんじゃないかと思いますね。

 そうこうしているうちに義母のナツコが失踪し、どうやら塔に向かったらしいことがわかり、マヒトもついに塔へ乗り込むことになるんです。
 どうせ塔に行くんでしょ、と思ってましたからここのくだりが長かったですねえ、とても退屈で眠気と戦っていましたよ。

謎の地下世界へ

 塔に入ったマヒトは待ち構えていたアオサギと戦うんですが、何やかんやでアオサギやついてきたおばあさん共々地下世界に落とされるんです。
 そこは何とも不思議な世界です、金色の墓所らしきところでペリカンの群れに襲われているところを通りがかりの女性に救われます。
 後々わかることなんですがこの女性の正体は、ついてきていたおばあさんの若い頃なのです。なかなか魅力的な女性だと思っていたのですが歳をとるとああなってしまうのかと思うと少しショックでしたね。
 その後マヒトは不思議な光景を目撃します、「ワラワラ」という白い小さな生き物が文字通りわらわらと現れ、ぷくっと膨れて空に舞い上がるんです。
 そこに現れたのがまたしてもペリカンの群れ、ふわふわ浮かび上がるワラワラたちを次々と食べてしまいます。そんなときに現れたのが「ヒミ」という少女、炎の魔法でペリカンたちを撃退します、ワラワラも巻き添えで燃えちゃうんですけどね。
 マヒトは瀕死の傷を負ったペリカンと会話してペリカンたちの事情を知ります、彼らも好きでここにいるわけではなく誰かに連れてこられ、生きていくために仕方なくワラワラを捕食しているのだと。

大叔父との出会い

 アオサギと再開したマヒトは義母を探すために旅立ちます、炎を操る少女ヒミと会いナツコがある塔にいることを知らされる。
 その塔はしゃべる凶暴なインコたちの巣窟、なんかいろいろあって塔の頂上に住む母親の大叔父と出会います。
 大叔父はこの世界の創造主であり、血縁者であるマヒトに後を継いでほしいと頼むんですが、マヒトはそれを拒絶するんです。
 その後崩壊する世界からナツコと共に脱出してエンドロールですよ、映画館でこれを観ているときにはポカーンとしていましたね、急展開に次ぐ急展開で頭が追いつかなかったのです。
 だけどこうやってあらすじを書き起こしてみても意味不明ですね、結局あの世界が崩壊しても問題ないんじゃないですか。

多くの考察要素

 この映画には作中で解説されない要素がちりばめられています、こういうのを考察するのが好きな人は楽しいんでしょうね。
 この映画を考察している記事や動画をいくつか見ました、なるほどと思うものもあれば、そうかなあと思うものもありましたね。いくつか挙げてみましょうか。

マヒトはなぜ自傷行為をしたのか?
 
最初の疑問です、喧嘩をした相手のせいにして金持ちで権力のある父親に復讐させようとしたのでしょうか? もしそうならスネ夫でもやらない陰湿な復讐方法です。
 あるいはケガをすることで父親あるいは義母の気を引きたかったのでしょうか、孤立して精神的に追い詰められた末のSOS信号だったのかもしれません。

地下世界の謎
 これは謎だらけですよ、金色の墓所・幽霊船・亡者の群れ・ペリカン・インコすべてが何なのか説明されないんです。
 唯一説明があったのがワラワラです、空の上にたどり着いたワラワラが人間に生まれ変わるという話でしたね、ここはいわゆる死後の世界だったのでしょうか? そういえば幽霊船や亡者の群れみたいなものも出て来たなあ。
 この設定を聞いて「魔界戦記ディスガイア」のプリニーを思い出しましたね、プリニーたちは死後に魔界で日当イワシ1匹で働いて生前の罪を償い続けているんです、その償いが終わったプリニーたちが赤い月の夜に人間界へと帰るのです。 

大叔父と積み木
 大叔父のモデルは宮崎駿監督本人ではないかとか、作中で出てくる「悪意のない13個の積み木」から宮崎駿監督のアニメ作品の数ではないかとの考察をたくさん見かけました。
 この世界はジブリそのものであり、年老いた宮崎駿監督が後継者を求める悲痛な訴えではないか、という意見も聞いたなあ。
 
 他にも使用人の7人のおばあちゃんが7人の小人のオマージュではないかとか、ポスターのあの絵は原作小説と全く違う内容だから「詐欺」という意味なのだとかいろいろありますねえ。


 ・・・・・だから何なのですか? かの有名な「それってあなたの感想ですよね」というセリフしか思い浮かびませんよ、そりゃあいろいろこじつければどんな解釈でもできるでしょう、だけどみんなが言ってることがバラバラじゃないですか、作者の意図を正確に汲み取っている人は本当にいるんでしょうか?

 私も映画館で観てるときにこの大叔父は宮崎駿監督をモデルにしてるのかなあとは思っていましたよ、だけどそんなことはどうでもいいことなんですよ、私が見たかったのはマヒト君の物語なんです、宮崎駿監督自身のことなんかにこれっぽっちも興味は無いんですよ!
 歳をとると自分語りをしたくなってしまうものなのでしょうか、巨匠と言われた伝説的な監督も人間だったということなのでしょうか、そういうことは自伝でやってほしいものです。

 私は魅力的な「物語」を観に行ったのです、一人の少年の冒険譚を観たかった、ワクワクするような体験を共有したかったんです、「ナウシカ」や「ラピュタ」を初めて観たときのような。

 残念ながら私の希望はかなえられませんでした、仕方のないことです。

 私なりの考察も書いておきましょうか。
 この映画に散りばめられた数々の思わせぶりな要素、さも意味がありそうなもの全てに最初から意味など無かったのではないかと思うのです。
 宮崎駿監督の単なる思いつきで並べた要素を、観た人たちが「ああでもない、こうでもない」と頭をひねっているのを眺めて嗤っているのではないか、それが監督の「悪意」なのではないかという気がするんですよ。

 これは私の単なる想像ですから気にしないでくださいね、では採点にいきましょう。

総合評価

・ストーリー 20点
 ストーリーだけを要約すると「義母を救うために異世界に行く」というだけの物語です、登場人物も少ないですしあっと思うような展開もないので、物語的な楽しさはほとんどありませんでしたね。
 マヒトがナツコに「一緒に帰ろう」と言うところが一番の感動ポイントだと思いますが、マヒトにもナツコにも感情移入できないものですからあまり感動できませんでしたねえ。
 同じセリフなら「ビルマの竪琴」の方がよっぽど感動しましたよ、これは関係ないですね。

・ビジュアル 60点
 冒頭の火事のシーンなんかは凄かったですよ、写実的にするんじゃなくてアニメ的な表現というのかな、主人公の心情まで読み取れるような圧倒されるシーンでした。
 だけど異世界のビジュアルがなあ、ワクワクするような感じじゃなくて暗くて不気味なんだよなあ。
 ワラワラは可愛かったけどペリカンとインコが怖すぎですよ、そういう世界観なんだと言われればそれまでですけど好きにはなれませんね。

・音楽 50点
 ジブリと言えば久石譲先生の素晴らしい音楽がセット、だったはずなんですけど今作は全体的にホラーテイストですからBGMも不気味なんですよ。
 はっきり言って今作の音楽は好きになれません。
 米津玄師さんの歌う「地球儀」はなかなか良かったです、実は映画館では放心していたために記憶に残っていなかったんです。だから改めて聞いてみたんですがやはり米津玄師さんは良いですね。

・キャラクター 15点
 主人公マヒトに共感できませんでしたねえ、境遇には同情しますが戦時中の話でしょう? 親を亡くした子供など世間にあふれかえっていたはずですよ、裕福な家庭に生まれて恵まれている部分もあったはずですからね。
 義母ナツコにも共感できません、母親を亡くしたばかりのマヒトに自分のお腹を触らせて子供がいるアピールなどすれば、マヒトがどんな思いになるか想像も出来ないのでしょうか。
 マヒトがなつかないことに不満を言うシーンがありますが、作中の時間はせいぜい1週間ぐらいでしょう? 初対面の人間がそんな短期間で打ち解けるわけないじゃないですか。
 大叔父も何がやりたかったのかわからないのですが、仮に「自分の力で世界を平和にしたい」などと考えていたのだとしたら思い上がりも甚だしいですよ、ただの人間が神になったような気分になっていたのだとすれば哀れですらあります。
 アオサギはなかなか良かったですが、ジコ坊には遠く及びませんね。

 ところで吹き替えは違和感が無かったですよ、アオサギが1番でしたが他のキャストも自然に聞けました。

・総合評価 25点
 はっきり言ってつまらないとしか言いようがない物語でした、キャラクターに魅力がないのも致命的でしたね。
 だけど前作「風立ちぬ」に比べれば10倍以上は面白い作品ですよ、あれは本当にひどかったですからね。
 この映画の楽しみ方はたくさんある考察要素をこねくり回して楽しむのが良いんじゃないですかねえ、答えはどこにも無いわけですから正解はできませんが不正解も無いんですからね。


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