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大関をたった14場所で陥落した男②身も心も蝕まれて

現在の大相撲は、奇数月に行われる「本場所」(年6回)と、2月と6月を除く偶数月に行われる「巡業」があり、力士の序列を表す番付※ は「本場所」の結果で決まる。
2011年1月に初土俵を踏んだ照ノ富士は、順調に勝ち星を重ね、2013年9月に十両、2015年3月には関脇へと昇進。その翌場所、幕内最高優勝を勝ち取り、「平成生まれ最初の大関」となった。

ケガとは大関になりたての頃からの付き合いだ。騙し騙しやってきた。しかし、昨年の夏場所後半に、膝の痛みが再発。場所後、俗称「ネズミ」と呼ばれる関節内遊離体を取る手術に踏み切った。術後しばらく腫れが引かず、痛みも継続。徐々に身体に力が入らなくなった。
「手術してから全然ダメ」
そこまで話すと、再び腰のあたりの痛みを訴え、楽な姿勢をとった。

2018年1月。糖尿病を患う同部屋の弟弟子・照強(てるつよし)の助言を受け、血糖値を測ると、空腹時血糖が390を超えていた。たとえ力士のような巨漢でも、健康な場合は90前後というから、相当な異常値だ。
痛みで稽古量が減り、これまで保っていた内臓のバランスが崩れたのだろう。後に腎臓や肝臓にも不調が見つかった。

精神的なものではないかと心配していた照矢は「力が入らない原因がわかったことは良かった」と言う。一方、駿馬は「優勝争いをした去年の春も、痛い痛いとは言っていたが、稽古もできていたし、強い相撲が取れていた。今は気持ちが切れている」と、昨年の7月からずっとスイッチが入らない弟に、何度も発破をかけてきた。

この取材日の6日後に、東十両8枚目として迎えた夏場所は、0勝6休9敗と振るわず、大関経験者では前代未聞の幕下陥落が決定的となった。   (つづく)

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※番付・・・一番上から、横綱、大関、関脇、小結、前頭と続き、ここまでを「幕内」と呼ぶ。その下は十両、幕下、三段目、序二段、序の口、前相撲となり、十両以上を「関取衆」、幕下以下を「若い衆」と呼んで区別する。月給は十両以上から。幕下以下は、勝ち星によって決まる場所ごとの手当てのみ。

(本記事は、(株)宣伝会議が主催する教育講座「編集・ライター養成講座」の卒業制作として提出した記事から掲載しています)

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