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大関をたった14場所で陥落した男①

「平成生まれ最初の大関」として角界を沸かせた照ノ富士(26)。不調に泣き、大関の称号を失った彼は今、幕下への陥落が決定的となった。そんな苦境に於いてなお、もう一度上を目指そうと前を見続けるその力の源泉とは。夏場所直前の伊勢ヶ濱部屋を訪問し、照ノ富士と、彼を支える二人の兄弟子に話を聞いた。


2018年5月7日。伊勢ヶ濱部屋では、宮城野部屋や友綱部屋など、伊勢ヶ濱一門の力士が一堂に会する、場所前恒例の連合稽古が行われていた。
横綱・白鵬(宮城野部屋)が若手に胸を貸し、夏場所へ向けて仕上がりを確認した、その大事な稽古に照ノ富士の姿はなかった。
彼はその時、病院で検査を受けていた。

照ノ富士が病院から戻って来る前、兄弟子である駿馬赤兎(しゅんばせきと)(36)と、呼出し※ ・照矢(てるや)(35)に、初めて彼と会った時のことを聞いてみた。第一印象はそれほど強烈なものではなかったと語り始める。
「本人が居ないから正直に言うけど、身体は大きいけど、まあこんなものかという印象。鳥取城北の団体戦全国優勝メンバーと聞いていたが、前に居た外国人力士に比べると全然大したことは無かった」
初めの頃、駿馬は、得意の押し相撲で負けなかった。しかし、それがだんだん通用しなくなり、他の手を使っても、やはり徐々に勝てなくなる。
「対応力が高いし、成長は早いだろうな」
と、早々に能力の高さに気付いていた。
その見立て通り、初土俵からわずか1年で駿馬を抜き、幕下に昇進した。

「イテテテ。もうあかんわ」
約束の時間から1時間ほど遅れ、腰の辺りをさすりながら照ノ富士が戻ってきた。大事な稽古に出られないほど、身体中が悲鳴をあげている。素人目にもわかるくらいに筋肉が落ち、身体全体のハリがない。

稽古場に臨む板の間で先にインタビューを受けていた兄二人を見て安心したのか、「どんどん聞いてくださいよ」と、機嫌良さそうに腰を下ろした。

駿馬は、検査の結果に耳を傾けながら、慣れた手つきで彼の櫛を整える。
「めっちゃ混んでたんすよ。今日、稽古どうだった?」
少し心配そうに尋ねる照ノ富士に、
「連休明けだからね。ガナ少し痩せた? 稽古はすぐ終わったよ」
と照矢が優しく答える。ガナとは照ノ富士の愛称だ。
「カラダ、もうホントにぼろぼろやわ、中も外も」
いきなり出た弱音に、筆者は二の句が継げない。それを誤魔化そうと癖のある関西訛りに食いつくと、「大阪から来てはるんすか」と、わざとらしく言って笑わせてくれた。 (つづく)

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※呼出し・・・大相撲で東西の力士の名前を呼び上げる人。呼び上げの他に、本場所や巡業ごとに土俵を築き上げるのも呼出しの仕事。


(本記事は、(株)宣伝会議が主催する教育講座「編集・ライター養成講座」の卒業制作として提出した記事から掲載しています)

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