仲直りのすゝめ
夫と結婚してからというもの、たまに本当にくだらないことで喧嘩をしてしまいます。
でも、喧嘩ビギナーの私があんな訴訟人(そしょんちゅ)の夫と喧嘩したらどうなると思いますか?
私の発した言葉にひとつでも整合性が取れていない箇所があれば徹底的に詰められそんな発言をした私の心の動きは明らかにおかしいことを冷静に指摘され彼自身の発言の正当性を証明されてとことん追い詰められます(鬼)
そういう場面の私はなんか気持ちがおさまらないし絶対謝らせたいと思って「う、うるせー!友達少ないくせに!」みたいな無関係の罵声を浴びせるという選択を取り、状況はさらに悪化します。
こうなるともう謝っても許してもらえませんし、ほんと地獄みてえな空気です。
しかし私は喧嘩に対する集中力が10分くらいしか持たず、それを過ぎると「なんで怒ってたんだっけ…?」と全部忘れてYoutubeで大食いの動画を見たくなってきてしまいます。
喧嘩なんて早いとこ終わらせたいけど、大金を積む以外でどうやったらこの謝意を全力で伝えられるか……
そんなとき、とっておきの方法があります。
パワーポイントで謝罪用のスライドを作るのです
※ゲイツに感謝
スライドを作ることのメリットは、プライベートな「喧嘩」を、資料作成すなわち「仕事」と掛け合わせ、冷静な視点で自分を分析できることにあります。
「なんでこんな発言をここでしたのだろう?」と客観的に考えられることに加え、具体的に言語化する必要があるため、内省が深まるのです。
先日も、とてもくだらないことで喧嘩をしました。
5個入の激ウマ箱アイス「ヨーロピアンシュガーコーン」を購入して冷凍庫に入れておいたところ、私が見ない間に残り1個だけになっていました。せめて2個は取っておいてほしかったと夫に漏らすと「最後の1個になっちゃったときに、あとは残しとこうと思ったよ。欲しいならまた買おうよ」と言われたのです。ごもっともですが私はヨーロピアンシュガーコーンを心から愛しておりたった1本だけでは到底満足することはできず更にこの理論でいくと次の箱もその次の箱も、ずーーーっとYPS(※ヨーロピアンシュガーコーンのこと)を夫に多めに食べられ続けることになり人生におけるトータルの「総YPS値」が夫のほうが多いってことになるよね?とキレたら「意味がわからない」と言われ喧嘩が勃発したのです。
改めて考えるとたしかに意味がわからない。私は滝行とかをしてきたほうがいいのかもしれない
夫婦ふたりだけならいくらでもバトルできますが、現在我々は子育てをしている身。両親が喧嘩している様子を見ると、子どもが感情のコントロールが苦手になったり、学力にも影響を与えるというのです。
これは一時的な仲直りなんていう生半可なものではなく、今後一切の喧嘩をなくす必要がある―――。
そして私はおもむろにPCへ向かい、資料を作りました。ここからは私の渾身のプレゼンテーションをお聞きください。
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本日は仲直りに関するプレゼンテーションを行わせていただきます。「しそを四方から囲んでいるスライド」で失礼いたします。
今回仲直りに関するアンケート調査を行ったところ、実に100%の私が「仲直りをしたほうがいい」と回答していることがわかりました。
仲直りをするとコミュニケーションが活発になり、互いに刺激し合うことで各々の仕事や趣味もはかどり、そこから生まれた圧倒的な光のパワーが日本経済を回してなんやかんやあって最終的に8億円が手に入る可能性もあります。
一方で仲直りをしない状態のままだと、互いをいがみ合い、傷つけ合い、自分が一番大事といった精神状態に陥ってしまいます。すなわちゾンビが攻めてきた際に互いの足を引っ張り合って我先に助かろうとする、第1話で一番最初に犠牲になる雑魚のキャラクターみたいな立ち位置になり最悪の場合死に至ります。
より具体的に考察するため、ヨーロピアンシュガーコーンの事例で私の怒りがどのように変遷していったのか、折れ線グラフを見ていきます。
冷凍庫を開け「1本しかないことを知ったタイミング」では怒り指数は580程度に留まりましたが、夫から「最後の1個は取っておいたし、また買えばいい」と反論を受けたタイミングで怒りはピークにまで達しています。
つまり「1本しかない」という事実よりも、大好きなアイスを楽しみにしていたと知りつつ「また買えばいいや」と私の存在が軽んじられたことに怒りが湧き、YPS戦争が勃発するに至ったのです。
以上のことから、喧嘩をしないために大切なのは「互いを気にかける」ことであると結論づけました。
私自身も「夫もYPS食べたいかな、もうちょっとYPS買っておこうかな」みたいな気遣いができたかもしれませんし、夫も夫で、冷凍庫を開けたときに「あいつ、YPSをTSM(※楽しみ)にしてるよな。せめて半分は取っておいてあげよう」と、一瞬でも私のことを考えてくれれば、今回のような喧嘩は起こらなかったはずです。
互いをもっと気にかけ合って過ごすことで、穏やかな毎日がやってくるのではないでしょうか。
「Smiles for All...」東洋水産の企業スローガンでお別れしたいと思います。ご清聴ありがとうございました。
私「……どう?」
夫「うーん、そもそもプレゼンの最後の結論が『互いを気にかける』ってなってるけど俺が1本取っておいたことこそが気遣いでありそれに対してなぜ2本以上残されてないといけないのかの論理的な説明がないよね?あとヨーロピアンシュガーコーンってYPSじゃなくてEPSですが……」
私「うるさい!!!!!!!!!!!!!」
激詰めしてくる夫に嫌気がさし、私は裸足で家を飛び出しました。
仲直りどころか、これでは距離が開くばかりです。
私は胸に手を当てました。
ゲイツ、うち、このままでええんやろか?
こんなんでほんまに、今後喧嘩はなくなるんやろか?
エセ関西弁で思いを馳せると、遠くの空にうっすらと浮かぶゲイツが私に語りかけます。
「ボンノウ ヲ メッシナサイ・・・」
煩悩を、滅する・・・?
わかった!
うちに足りへんのは…………滝行や!
ゲイツのおっちゃん、ありがとう!
朝ドラ「滝行街道まっしぐら」のヒロインを彷彿とさせる台詞回しでビルゲイツに感謝を伝えます。
しかし、新コロの感染者数が爆上がりしているこんな世の中。関東近郊の滝に繰り出すことがはばかられます。
いったいどうしたら……
せや!
―――しりひとみはこう語る。
「たとえ100人中100人が無理だと言っても、私は絶対諦めたくないっていうか」
その言葉の通り、疫病によって滝行ができなくなるという大きな壁を前にしても、彼女は決して諦めなかった。
我々を驚かせる方法で滝行を実現したのだ。
なんと、"自宅の風呂場"で白装束を着用し、0歳の息子が寝ている隙に頭から水をかぶってみせた。
彼女は見事に困難に打ち勝ち、セルフ滝行をやってのけたのである。
しりひとみは、こうも語る。
「冷たい水を浴びると急激な温度差によってヒートショックなどを引き起こす可能性があるので体調に不安がある方はお控えください―――」
私「ハァ、ハァ、ハァ……いい感じの写真撮れた!?」
夫「うーん、真横からのショットもあったほうがいいかもしれない」
私「オッケー、もう一回行こう!」
私「ハァ、ハァ……どう!?」
夫「だいぶいい。最後、念の為ちょっとあおりの画も撮っとこう」
このように滝行を繰り返すうち、私の中にあった108の煩悩は徐々に消えていき、心の中にはあるひとつの想いだけが残りました。
「この両親を見て育つ子供の情緒、どうなっちゃうんだろう」
本当にどうなっちゃうと思いますか?
しかしながら、あまりにもバカバカしいことをしているうちに喧嘩のことは忘れ去られ、いつの間にか仲は元通りになっていました。今日のところはこれで一旦よしとします。
結論:
喧嘩の相手に滝行の写真を撮ってもらうとすべてがどうでもよくなる
以上
【本日の一曲】示談 / マハラージャン
ありがとうイン・ザ・スカイ