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非情怪談

綺麗な着物を着せられ、お屋敷に連れてこられた。生まれて初めてみるご馳走に夢を見ているような気分になった。ご馳走を食べ、お菓子に手を付けた頃、村長が静かに話しはじめた。

「昔、この辺りには1匹の鬼が住んでいてな。新月の夜になると村に降りてきて、人を攫っては食い殺していた。村人は固く戸を閉じ、息を潜めながら朝を待つことしかできなかった」

何のお話かしら?私はドキドキしながら、続きを聞いた。

「ある時、一人の侍が村を訪れ、鬼退治をしてやると山に入っていった。彼は凄腕の剣士で、死闘の末、山奥に追い詰め、遂に鬼を退治したんじゃ」
「じゃぁ、もう鬼はいないの?」
「鬼は死んだ。村人は大喜び。ご馳走を用意して彼をもてなした。しかし、侍は料理に手を付けず、『つかれた』と言って眠ってしまった」

私は、ご馳走が勿体ないと思ったが、黙っていた。

「翌朝、侍は姿を消した」
「どうして?」
「下女が、夜中に出ていく侍を見かけていてな。その目は赤く光り、額には大きな角が生えていたそうだ」

ツノ⁉お侍さんは鬼になってしまったの?それは口に出してはいけない言葉のような気がして、私は目を伏せた。
少しの沈黙の後、村長は私に向かって頭を下げた。

「それ以来、毎年ひとり、年頃の娘を差し出すのが村の掟なんじゃ。可哀そうだが、村のために我慢してくれ」

そういうことか……親のない厄介者の私が、こんな綺麗な服を着て、ご馳走を食べさせてもらえるなんておかしいもんね。そう思うと、涙が頬を流れ落ちた。


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