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誘惑銀杏

私は銀杏。春に芽吹いた私の葉は、夏には青々と生い茂り、人々を灼熱の日差しから守っている。秋が深まると葉は黄金色になり、道行く人の目を楽しませる。そして、秋が終わり冬の足音が聞こえはじめる頃、私は地面に臭い実を落とす。小さな音を立てて、分身たちが次々と転がり出ると、人間はその実を足早に避け、または露骨に顔をしかめる。だが、それは私による選別でもあるのだ。

きょうも、私の誘惑に抗えず、若い男が1人近付いてきた。彼はとろんとした目で、私の分身を1つ拾い上げる。私はその瞬間を、ただじっと待つだけ。しばらくクンクンと匂いを嗅いでから、その果実を口に含んだ瞬間、彼の体は硬直し、声も出せなくなる。

「ようこそ、甘美なる銀杏の世界へ!」

私は彼の心に入り込み、隠れた欲望を引き出す。彼は次第に姿を変えていく。皮膚はひび割れ、茶色く硬くなり、足から伸びた根は地中深くに広がる。そして空に向かって大きな枝を伸ばしていく。来年の春には、新しい若葉を芽吹かせることだろう。

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