メメント・モリ

1. 大学時代観た印象深い映画の1つに黒沢明監督の「生きる」という作品がある。

うだつの上がらない公務員がある日余命半年と医者に言われてから公務員としての使命感に目覚め、市民のために奔走していく話。

彼は自分の死を意識することで、生きる事の尊さとその意味を認識する。
水面に落ちる紅葉や散る桜が美しいのはその儚さ故。人生もこれに同じ。人もいつか死ぬ定め。だからこそ生は美しく輝きを放つ。永遠なんて一瞬で決まるbyイエローモンキーってやつだ(ちょっと違うか笑)。

まさにこれはキリスト教のメメントモリ(死を想え)、仏教の諸行無常、そしてそれがベースとなっている武士道の基本思想。

2. そして、このことは人に限らず会社にもいえる。

会社にとっての死、それは破産である。

企業経営者はその破産を司る破産法を知る事で事業活動の尊さを実感することが出来る。

企業経営者がそれを詳しく知る事は著しく困難だし、またその必要もない。
それは弁護士先生の領分。

ただ、会社の責任者と大枠ぐらいはさっくりと知っておく必要があるだろう。

3. では破産法とは何か。

破産法には大きく分けて「清算型」と「再建型」があるという。

まず、清算型とは、倒産する法人・会社のすべての財産・債務・法律関係等が清算され、消滅する倒産手続の類型。

倒産手続には裁判手続としての法的整理と裁判外の私的整理がある。
この法的整理のうちで清算型として挙げられているのが「破産手続」と「特別清算手続」。

破産手続は①債務者が、支払能力を欠いているため、弁済期にある債務を弁済できない状態にある支払不能

②夜逃げのように債務者が、債務の弁済を行うことができない状態に陥ったことを自ら表示する支払停止。 

③債務者が、その債務について、その財産をもって完済することができない債務超過

のいずれかに該当する場合に開始され、裁判所が専任した破産管財人によって、破産者の資産・負債はすべて清算され、消滅する。

他方、特別清算手続は、清算中の株式会社に清算を進めていくのに著しい支障を来すような事情があるか、債務超過の疑いがあるときに行われ、裁判所が選任した特別清算人によって、清算会社の財産と負債が清算され、消滅する。

この両制度の違いとしては、特別清算は株式会社に限定され、清算会社の関係者が就任してもよいこと、破産手続と違い、特別清算では債権者の意向に左右されることが挙げられる。

次に「再建型」とは、法人・会社を存続させながら、その法人・会社の再建を図るもの。

再建型の法的整理には、「民事再生手続」と「会社更生手続」がある。

民事再生手続は、①債務者に破産手続開始の原因たる事実の生じるおそれがあるとき、または②債務者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないときに開始される。

その上で、裁判所が選任した監督委員の監督の下に、再生債務者が財産・債務を自ら管理・処理しつつ、再生計画案を策定し、それが裁判所によって認可された場合には、その再生計画にしたがって債務の弁済等を継続していく手続。

他方、会社更生手続は、民事再生手続と同様の原因により、開始される。
裁判所が選任した更生管財人が、更生債務者の財産・債務を管理・処理しつつ、更生計画案を策定し、それが裁判所によって認可された場合は、その更生計画にしたがって債務の弁済等を継続していく。

民事再生手続はどのような法人・個人でも利用出来るが、会社更生手続は株式会社しか利用できない。

また、民事再生手続は基本的に、経営陣の交代は必須ではないが、会社更生手続の場合には、原則として、経営陣の交代が必要とされる。
いずれの手続も法人・会社の存続が前提となるため、債権者の意向が重要となる。

なお、清算型にも再建型にも、法的な手続によらないで、債務者と債権者の話し合いで企業の債務を整理する私的整理がある。
このメリットとしては時間、費用の節約ということが挙げられるが、あくまで円滑に進められる場合に限られ、そのようなことは難しい場合が多い。
またよく金融系のドラマに出てくるように声のでかい債権者の意向が反映されやすく、公平性の確保が難しいというデメリットがある。

4. 以上が会社の死であるが、人の死と違うところがある。それは復活するということ。でもそれができるかどうかは、つまるところ会社が生きている今この瞬間にどれだけ、真剣に本業に取り組んだかによると思う。

林先生の今でしょ!ってやつです(もう死語か笑)。

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