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残金50円の幸せな人生

これは、知り合いの中学生の子が話してくれた修学旅行の思い出の話です。

最近の修学旅行はみんなで同じ場所に観光に行くのではなく、7人程度の友達グループに分かれて班行動をしながら、自分たちの好きなところへ自由にいくことができるというシステムなんだそうで。

事前にある程度役割分担を決め、行きたい場所を決め。

移動はタクシーで。1日専属で回ってくれて料金は不要なんだそう。

そして子どもたちはみんなそれぞれ9,000円のお小遣いをもって行っていました。

それがとても素敵なお話だったので紹介させていただきます。



****ここからは話してくれた中学生の目線でお伝えします。****



僕の班は全員で7人。
その全員が僕の友達ではなくて、初めて話す子も同じ班にいた。
Nくんもその一人。どんな子なんだろう。


Nくんは最初に立ち寄ったお店に入るや否や、自分のためにキャラクターの帽子を買っていた。

確かに、そのキャラクターは人気だよね。
と、思いはしたもののおこづかい9000円のうち4000円をいきなり躊躇なく帽子に使うその精神力。

Nくんは ただものではない。


そもそも、このお小遣いは家族へのお土産代だと思っていた自分が間違っていたのかもしれない。


「お小遣い0円」がゴールのこのチキンレース、トップスタートを切ったのは明らかに彼だった。


僕はご機嫌にキャラクター帽子を頭にのせているNくんから目が離せなくなっていた。





次のお店でNくんは顔の上半分が隠れるサイズのネコのお面を買っていた。
何の躊躇もなく。


お面をかぶったことで浮き上がる帽子。


負けられない。



僕も同じ種類のキツネのお面を買うことにした。

僕のは顔の4分の3が隠れる。面積では僕の勝ちだ。


お店を出ると、Nくんはカラダをひねってポージングしていた。


「フッ・・・・。 ペルソナ! 装! 着!」


知らない土地に来て、こんな路上で叫ぶことができるNくん。

面積ごときで勝ったと判断していた自分が恥ずかしい。



次元が違う。



しかもNくんのネコはゴールドだ。

自分を信じてなければ選ぶことができない色。





その後の観光地でNくんが一人 はぐれた時も、そのゴールド・ネコ・ペルソナのおかげで100メートル先からでも彼を見つけることができた。


一応、班長として
「Nくん、班行動だから一緒に移動しようよ」と注意はしたけれど

「あぁ、すまない。俺の速さにみんなが付いてこれなかったな。」と目を伏せて反省してくれていたようだった。




その後に行ったお店ではゴールドの剣にゴールドのドラゴンが巻き付いたオブジェを見つけた。


「これ、絶対Nくんは好きに違いない」



今日1日でだいぶ彼のことをわかってきた。



買っているかな。でもかなり自分のためにお金を使ってしまっているだろうからな・・・。そう思ってNくんを探した。



心配なんて不要だった。

あまりに愚問。


Nくんは店の外でゴールド・ドラゴン・ソードを天高くかざしていた。

右手を上に左手を腰にあてて大きく足を開いた彼の背中はなんだか僕には輝いて見えた。



「Nくん」

彼のことがわかった気がして嬉しくなって僕は名前を呼びながら近づいた。
無言で、僕たち以外誰も僕たちを知らないこの土地でゴールド・ドラゴン・ソードを天に突き上げているNくんに。





違和感。




ゴールド・ネコ・ペルソナとそれによって押し上げられたキャラクター帽子。
掲げられたゴールド・ドラゴン・ソード。

知っている装備のはずなのに。



Nくんは振り返り僕の方を向くと、ゆっくりペルソナを取った。



なんと、ペルソナの下にはアイマスクがかけられていた。

しょんぼりした眉としょんぼりした目。
そのイラストがプリントされたアイマスクがそこにはあった。



センス。センスの塊。



感染予防のためのマスクも含めて、首から上のほとんどすべてが覆われている厳重な装備。
首から上への課金がすごい。


少し話したくらいで彼のことをわかった気になっていた自分が恥ずかしい。





この後、さらに衝撃の事実をNくんは告げた。





「あと700円しかない。」





この言葉が僕の脳を激しく揺さぶった。


この後みんなでいく予定の観光施設への入館料が300円。

そしていまから昼食。



彼が昼食にかけられる金額は400円しかないということだ。

しかもまだ昼食の場所が決まっていない。

学校からは思い出になる昼食をとろうと助言を受けている。



班長としてこの緊急事態を何とかしなければならない。



土地勘のないこの場所で、400円で食べることができるお店を探し出すことなんてできるのか?




考えろ。考えるんだ。
諦めたらそこで終わりだ。



タクシーの運転手さんにも相談し、みんなの意見も併せて苦渋の決断をした。




「マクドナルドにしよう」



ご当地にしかない飲食店に入ってみようという学校からの指令より目の前の問題解決が先だ。



みんなで食べるマクドナルドはとてもおいしかった。

普段と違う場所で、みんなで一緒に食べられて。
そして何より問題を解決できた達成感も相まって。


Nくんを見ると、ナゲットを両手に持って嬉しそうに食べていた。
その数、15ピース。
飲み物も飲まずに。



メニュー表を確認する。

ナゲット15ピース390円。

全く、ヒリつかせてくれるぜ。




その後行った観光施設での入館料は中学生料金で260円で済んだ。

「これ、まだイケたな」
Nくんがボソッとぼやいていたが聞こえないふりをした。



こうして僕の修学旅行は幕を閉じた。


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残金50円の幸せな人生。


いつの時代も人を動かすのはこういう人なのかもしれない。





そして、他人を尊重してあげられる人は、他人と自分を比べて自分が劣っていると感じてしまいがちなのかもしれない。

だけど、いつの時代もきっと、みんなを幸せにしてあげることができる人はこういう人。



「友達」って素敵だな。




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そんな「友達」というライブが2021年 クリスマスの今日あります。

オンラインでも見ることができるおもしろいライブです。

見逃し配信もあり、ライブが終わった後も数日間は購入、閲覧できるシステムです。



前回見た内容は
「架空の友達を一人選んで、少ないキーワードから想像を膨らませその人となりを具体的にイメージしてそれをみんなで共有して遊ぼう」という
イマジネーションが必要なもの。

noteで表現することがお好きな方には楽しめる内容なんじゃないかなと思います。

気軽に観てみてください!

私も楽しみにしています。




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